人気ブログランキング | 話題のタグを見る

SF 「瞳の中の記憶」 8

            <アオイという謎>

車の中で、ニュースを観た。

「昨夜ロサンゼルスのロイヤルグランドホテルで開かれた大統領夫人のバースディー・パーティーで、19:45頃爆発がありました。爆発は47階のエレベーター付近だった模様ですが、I・S・Cの発表によると、レッド・シャドーが犯行声明を出したと言うことです。この爆破による被害者はいませんでした。-次のニュースです。」

俺は、黙って音楽に切り替えた。トンボも、うつむいている。
「トンボ、アパートメントに帰るぞ。」部屋の匂いには閉口したが、窓を開けて暫くするとなんとか生活する事は出来そうだった。

「トンボ、仕事を頼む。I・S・Cのビルの見取り図とセキュリティー、それから・・・」テキパキと頼まれた事をこなしていきながら、トンボはそれ以外の事を考えていた。

「リョウ、今回は僕も行く。ここのコンピュータ―は、博士の言う通り、外部からの侵入に対して異常なくらい厳しいんだ。中のコンピューターからなら、なんとか進入、解析できそうだから。」二人は、二人分の武器と超小型PCを持ってI・S・Cに向かった。

その頃I・S・Cでは、ロイドが新設した研究室に意気揚揚と向かっていた。誰も見ていなかったらスキップしたいくらいだ(勿論そんなに馬鹿ではないが)すぐ傍にライトがいたが、その真面目くさった顔にもキスしたいくらいだ(勿論・・・しないが)と、思っていた。

「俺は、思うに・・・・世界が俺を求めているんだな。誰も、不死身の俺に敵う訳が無い!」「大丈夫です。問題ありません。」

研究室には、アンドロイドがいた。その姿を見るのは初めてだったが、ロイドは感嘆の声を上げた。「素晴らしい!エクセレント!ワンダフル!人間そのもの、いや、人間より美しい!!この肌を見たか?産毛すら生きているようだぞ?!しかし、人間だったら耐えられない姿だな。博士、あんたの大事な宝物を、切り刻んで細胞の果てまで研究し尽くすからな。そして、すぐに俺もアンドロイドになって、この世を支配してやる!はははは・・・・」

そこには、意識を失っているようなアオイの姿があった。裸にされ、天井のワイヤーから吊るされ手足の自由を奪われて、頭には電極らしき、髪の毛よりも細い線が数え切れない数で刺さっていた。それは徐々に太くなり、コードになってPCに繋がれていた。

「ロイド様、お話があります。」研究所長が、ロイドの前に立つと笑いを遮った。「なんだね、所長?」ゴホンと咳をして、話し始めた。「・・・このアンドロイドは、あのジェームズ博士の作ですよね?彼が、この世界での第一人者なのは、ご存知で?」「知っているが、それが何か?」

「ええ、そのですね。我々には、及びもつかない技術が使われている訳です、このアンドロイドには。」ロイドはイライラしだした。「つまり、何が言いたいんだ?」「つまりですね、このアンドロイドの脳の部分には、使われていない部分があるんです。」所長が、どうです、凄いでしょう、というような顔をするので、いよいよイライラしだした。「それの、どこが凄いんだ??」

「お分かりになりませんか?人間じゃないのに、まだ、何かに使われる筈の脳があるんですよ?それは、つまり脳が2つあるのと同じなんです!このアンドロイドは、脳が2つあって、それぞれが別々の役割を持っているかも知れないんです!!そして、そこがこのアンドロイドの特別優れた所なんです。我々は、ずっとその第2の脳の研究に取り掛かっていました。ですが、この脳が どうしたら作動するのか、依然解らないのです。」

「だが、研究の方はすぐ完成するんだろうな?どうなんだ?!」イライラは最高潮に達していた。

「なんとも。・・・鍵を探さねばなりません。博士なら、すぐに謎を解いて下さるかと。」所長は揉み手をして上目使いに見るが、気持ち悪さを倍増させた。

「何故、お前達はそんなに無能なんだ?博士に口を割らせる事が、どんなに大変か・・・いや・・・・・まてよ。・・・いいだろう、丁重にお連れしよう。紳士だからな、私は!」背広の襟を正すと、ロイドは所長に言った。「お前は、クビだ。」

「私が、直々に博士のご機嫌を伺いに行こうではないか。我々を見た時の博士の顔が見物だな。ははははは・・・・・!」ライトは、黙ってついて行った。

博士は、その一部始終をアオイを通して聞いていた。「いよいよ、だな。」読んでいたノートを閉じると本棚の中に仕舞い、執事に言った。「お客が来る。4人程だろう。それと・・・・・」執事が近くに来たので、声を落として言った。

「あの、ネジを巻いてくれたまえ。」執事は会釈をすると、仕事に取り掛かった。「もう、ロイドはビルを出た頃だな。・・・・ふむ。」
ギリギリギリ・・・・・・階段のロビーにある大時計のネジは歯軋りをする様な音を立てて巻かれていく。時間は、もうじき夕方の4時になろうとしていた。

ロイドがボディーガード5人とライトを連れてビルを出たのは、3時20分頃だった。そして、その様子を隣りのビルから観ている二人がいた。

「出掛けた様だね。」トンボは、これでやりやすくなった、とほっとしていた。ロイドがいると、騒ぎそうだと言う意味らしい。二人は周到に準備をして会社のガードマンの制服と、近所の子供の格好になっていた。


          <こどもの強み>

リョウとトンボは、I・S・Cの地下駐車場にいた。奥の柱の影に時限発火発煙装置を取り付けた。まだ、勤務時間らしく誰も降りて来ないが、注意深く二人は潜んでいた。

バァ―――――ン凄い煙と共に、まるで車が爆破したかのような音に、ビルのガードマンがドッと出て来た。「どうした!?」「テロか?!」

リョウは、ゴホゴホいいながら、その煙の中から、トンボを抱かかえて出て来た。2、3人のガードマンが慌てて駆け寄ると、リョウが煙にむせながら言った。

「いきなり、爆発音がして駐車場から煙が上がりまして、子供が中に倒れていました。早く、中の救急医療室へ連れて行かないと!」「わかった!そこから上に上がってくれ。今、中の警報を解除するから。」

リョウはトンボを抱えたまま、凄い勢いで入り口に駆け込み、まだ次々と外に出て行くガードマンを尻目に、どんどんビルの中を目的地に向かって走った。

「リョウ、もう降りても大丈夫じゃない?」トンボが、死んだフリから、片目を開けて言うと、確かにもうこの辺は、騒ぎが聞こえないし、通路を行く人も彼らに注意を払っていなかった。「そうだが、まだ研究室が分からない。誰かに訊かれても困るから・・・」そのままの格好で、うろうろしていると、研究室の白衣を着た女性が歩いている。

「任せて!」トンボが飛び降りると、その女性に近づいた。「お姉さん、僕、お父さん探してるんだけど・・・知らない?」ウルウルした目でそう言いながら、白衣の裾を、引っ張った。(やるな~!)

内心、舌を巻いた。「あら、僕のお父さんはここの人?」女性は嫌がる風も無く尋ねた。「そうなんだ、研究室にいるの」「まあ、それじゃあ誰かしら?待ってね、連絡を・・・」「いいんだ、僕、1人で来たのはパパを驚かせたいからなんだ!何階の部屋?」「そう、うふふ、15階よ。そこのエレベーターで直通だから。」「ありがとう、綺麗なお姉さん!」・・・・離れて観ていたが、これだから!相棒は頼りになるよ、全く。

その頃。博士の別荘に男達が到着していた。

「近いのに、今まで手が出なかったのは、博士に逃げられたら終わりだからだったが・・・・今日は、全くいい日だ!」ロイドは1人に車に残るようにいい、5人で屋敷の方へ歩いていった。博士は、静かにロイドの到着を待っていた。

ロイド達が、玄関入り口のチャイムを押そうとした時、中から柱時計のボーン・ボーンという音が響き渡ってきた。「どうぞ、おはいり下さい。」執事がドアを開けて、皆を中に入れると、静かに音も無くドアは閉まった。柱時計の隣りには、凛とした風情の博士がロイドを見つめていた。


         <アオイ・作動>

その日は、いつもと何も変わらない1日になる筈だった。

16:00の時刻を告げた瞬間に、それは起こった。

I・S・Cの会社のメインコンピューターが、暴走し始めたのだ。まず、会社内のPCが、全てロックされ、セキュリティーシステムに異常が多発し始めた。ビル内のドアというドア、キーの掛かる全てが解除され、PC内の情報が全て集められ、流された。
そう、「アオイ」である。 アオイの、もう一つの「脳」が、作動し始めたのだ。

その異常に、トンボはいち早く気がついた。「大変だ、始まっちゃった!アオイを停めないと!」
「何が起こったんだ?!」どこのドアも、セキュリティーも解除されて、皆が右往左往しているのを見て、リョウも異変に気がついた。

「大変よ!みんな暴走してるわ!メインのコンピューターシステムに何物かが、ウイルスを入れたのよ!」女性の悲鳴に、リョウはまさか、とトンボを見た。「そうだよ。彼女は、ここのデータを吸収して、膨大な量の情報を食べているんだ。今は、僕達の事も解らないだろうね。」15階の、研究室にアオイがいる。今はエレベーターも制御不能で、使うな!と皆が怒鳴っている。「階段で行くしかない!急ごう!」俺は、何がなんだか、解らなかった。息をきらしながら、トンボは説明した。

「博士は・・・彼女に2つの脳を与えたんだ。普段は1つでいいんだ。でも・・・・彼女は言ってたでしょ?私は、満足できない性格なのって。僕は、やっと気がついたんだ。その意味に。」

同時刻。

博士の部屋に通されたロイドは、他の者達を廊下に待たせていた。
「博士、お目にかかれて光栄です。早速ですが、貴方と取引がしたい。」

不躾な挨拶に、眉も動かさず博士は言った。

「ロイド、私はあなたに話しておきたい事がある。それは、妻の事だ。」今度は、ロイドが冷静に訊いた。「奥様、ですか?奥様がどうか?」

「妻は、8年前に交通事故で亡くなりました。その当時、私達は一緒にアンドロイドの研究をしていましてね、ふとした事で、喧嘩になり、妻が出て行ったのです。」「ほう、それは・・・」
「しかし、出て行ったはいいが、連絡が取れなくなったのが気になり、警察に行方不明で調べてもらった所、もう、すでに・・・・妻は、しかし亡くなった時何も所持していなかったんですよ。おかしいとは思いませんか?」・・・ここにきて、ロイドは何か思い出したようだった。

「ああ、それは・・・・・変ですねえ?では、博士はその時、お調べになったと?」「そうです。妻の所持品の行方と、証拠・・・・事故ではなく、犯罪、殺人事件だったという証拠をね。」

「ところが、何一つ出ては来なかった。遺留品は何もなかったんです。それで、私は彼女の部屋の持ち物から何か解らないか、と調べたんです。そうしたら・・・・」博士は本棚にいくと、一冊のノートを持ってきた。「これは、あなたの会社のノートですね?ここに、妻が走り書きであなたと会う日にちを書き込んでいた。それが、彼女が亡くなった日でした。」
by f-as-hearts | 2005-02-27 23:45 | SF瞳の中の記憶

タロット占い師ASのブログです。


by f-as-hearts
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31