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メタモルフォーゼ 風の子守唄 番外編


            <最終話>

その時、ユーリは 口を開いたのです。
「・・・僕は おばさんと話がしたい。おばさん、少しだけ、教えて。僕が死んだら、シェリマは幸せになるの?おばさんは、どうして僕や 僕の両親の事を知っているの?」ユーリは素直な気持ちで質問しました。ガラティアはそんなユーリを憎々しげに睨みつけると、答えずにシェリマに早く丸薬を飲ませるように合図しました。しかし、シェリマは、ユーリの質問の答えを知りたいと思いました。「おばさん、答えてほしいんだ。僕も、知りたい。」

「うるさい!お前達一族には、もううんざりなんだ!!私が魔法使いだった頃、ラインハルト国とカーライル王国は、200年戦争をしていて、血で血を洗うような終わりなき戦いをしていたよ。それは、私がお互いの国に噂を流してやったのが、事の起こりだったのさ。お互いが憎しみに駆られて剣を構える様は、見物だったねえ!!ところが、お前達の爺さん達が、和平協定なんかしようとした。そう、私がその頃見た未来は、最悪だった!!そう、恒久的に続く平和な日々、私はお前達の両親が結婚して、子供達が私・・・シェリマを、殺すのを、見たのさ!そんな未来を私は認めない!認めるものか!もう一度、ユーリ、お前を殺して、未来を変えるんだ!お前は、邪魔なんだよ!!」その眼は人の形相ではありませんでした。鬼、そのものだったのです。

「・・・・おばさん、その未来は絶対、やってくるの?」ユーリは、もう一度、勇気を出して聞きました。シェリマは下を向いたまま、顔を上げようとしませんでした。

「そうさ、お前さえ・・・お前さえ生まれるのでなければ、私はお前達の国を、お前達の親を、殺そうとはしなかった!もうお前を殺す事でしか、この運命は変えられないのさ!分かったら、観念しな、さあ、シェリマ!!!」丸薬を持つシェリマの手が、震えていました。

「・・・・おば・・・・おかあさん、嫌だ・・・僕は、僕は、人殺しになるのは、嫌だよ・・・・おかあさん。」
「な、なにをいうんだい?!この私が、お、お母さん?こんな年寄が??私は・・・」
「・・・ううん、おかあさんだ。・・・僕は、知ってる。お母さんが赤ん坊の僕に、子守唄歌ってくれたの、覚えているんだ。・・・お母さん、もう、やめようよ。僕は・・・・・友達を、初めての友達を・・・・
殺したくないんだよう!!!」そう言うと、丸薬を自分の口の中に入れてしまったのです。

その丁度その瞬間に、寺院の重い壊れかけの扉が弾かれたように壊れ、勢いよくマレーネ女王と、ブラウンが飛び込んで来ました。
「何て事を!ブラウン、お願い致します!」マレーネは大急ぎでシェリマの口を開けさせる呪文を唱えました。丸薬は、しかし、一部が溶けて、体の中に入ってしまいました。残りの丸薬を全て、マレーネがその手に引き寄せたのと同時に、ブラウンは、ガラティアが何も出来ないように、その体の自由を奪う魔法で、その場を鎮めたのです。

「シェリマ・・・・・シェリマ!シェリマ!しっかりして!しっかりして、シェリマ!!!!」綱を解いたユーリは、シェリマの身体を触って、その冷たさに、ぞくっとしたのです。
「・・・ガラティア、早まった真似を!お前には、神の本当の意思が判らなかったと言うのか!!」「シェリマ、死なないよね???マスター・マレーネ!!お願い、僕の一生分の力を捧げてもいい、もう、僕は、魔法使いにならなくてもいいから!マスター!!!」その眼には、涙がとめどなく流れていました。じっと、シェリマを見つめていたマレーネは、首を横に振りました。
「・・・いいんだ、ユーリ、僕・・・・・・ほんの、ちょっとの間・・だけ・・・友達で・・・・お母さんを・・・・」
意識が薄れそうになるシェリマに、ユーリは、大きな叫び声をあげたのです。
「いやだあ――――――!!!!!シェリマ――――――――!!!!!」

その時、カトリ―ヌは、ぱっと眼が覚めると、その光景を一瞬にして観たのです。
カトリ―ヌは、それが、ユーリの耐えられない心の叫びだと分かって、一緒に大声で泣き出したのです。「うえええー―――――――――ん、おにいちゃまが、かわいそうだよう――――」

その涙は、奇跡でした。空が、一瞬にして暗雲に覆い尽くされると、雨が降り出したのです。
その様を、ブラウンは一生忘れないと思いました。大雨が土砂降りのように降り出すと、信じられないような光景が次々と起こったのです。寺院の周りは、滝のような大雨、しかし、シェリマの頭上の一点からは、光が一筋降りてきたのです。そして・・・・・・・

遥か、北の方から、何かがものすごい勢いで、その光目指して飛んで来たのです。それは、大雨の中で勢いよくその身体をひるがえして飛ぶもの・・・水晶竜だったのです。
水晶竜は寺院に降り立つや、すぐに人の姿(白髪の翡翠色をした衣が綺麗でした)になって、シェリマの側に立ちました。「・・・・この子が、ユーリのお友達かね?よい、よい、泣かずとも。」
その場の者たちは、この老人が、300年も生きている竜で、浄化を司る龍神だと分かっていましたから、感激で皆、頭を垂れておりました。「あなたは?」ユーリの問いに龍神は、黙ってシェリマを癒すと、微笑んで答えました。「・・・お前達の心が、私を呼んだのだよ。私は水晶の竜という。お前の両親と一緒に戦った者だ。・・・私は、人を助けたいというお前達兄妹の心に、感じたのだ。私は、その心でしか動かぬよ。・・・マレーネ女王、召喚師ブラウン、もう大丈夫だ。それから・・・」振り向いた先には、ガラティアの落ち窪んだ目がありました。「・・・ガラティアよ、これがお前にとっての、最後の試練なのだよ。息子を、育てるのだ。殺戮しかして来なかったお前に、これは神が与えた、最後の救いの手なのだ。」皆は、感動して微動だにしませんでした。

水晶竜が、遥か彼方に去って、雨が上がると、空には朝日が射して来ました。
シェリマは、もう、大丈夫でした。ガラティアはもう、完全に毒気が抜けて、シェリマを抱いておりました。「シェリマは、これから、どうなるの?」ユーリは心配そうにマレーネ女王に尋ねました。「大丈夫ですよ、ガラティアさえよければ、魔法学校に来てもらいます。」それを聞いて、ユーリはぱっと頬をあからめました。「・・・本当ですか!・・・良かった。」ブラウンは、マレーネ女王の前に立つと「・・・では、女王様、私はこれで・・・・」コホンと、咳払いをして帰ろうとしましたが、マレーネ女王はにこにこと「あら、随分とお急ぎなんですのね?どなたかとお約束でも?」
今度は、ブラウンが頬をあからめる番でした。「・・・・いえ、そんなものは・・・・勿論、女王様がお声を掛けて下さるのなら・・・・喜んで。」

ガラティアは、放心状態でした。ですが、皆が去って、シェリマが気がついて起きたのをみて、やっと自分が生きている事に気がついたのです。
「・・・・おかあさん、僕、おかあさんのこと、何にも知らないんだ。・・・教えてくれるよね?」
ガラティアの眼から、生まれて初めて、温かいものが流れ落ちていました。



                   END
by f-as-hearts | 2005-04-08 09:55 | ファンタジー小説

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