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メタモルフォーゼ  風の子守唄

第 16 話

 「魔法使いガラティアは、動き出しました。まず、ラインハルト国へ、そしてカーライル王国へ。戦争の火種をばら撒き始めたのです。」

         <  ⅩⅥ  >

  東の塔の王女  ・・・ マレーネ・カーライル王女
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 バラグーンが、ガラティアに呼ばれたのは、次の日の日も高く上がった頃でありました。

 ガラティアはそれは薄絹を何枚も重ねて透ける肌を惜しげもなく出したドレープのドレスでしたがその色は、黒一色で、分厚いカーテンによって太陽を遮った部屋は、まるでまだ夜のとばりがここに集められたように見えました。

 腕や首、顔が透けるほど白く、まるで光を放っている夜光虫のようで、バラグーンはその姿を目にする度に、この方は永遠の時間を持って生まれたのだ、と思うのでした。成長する事も、衰えて老いる事も、全てがもうこの方には関係がなく、死すら、来ないのであろう、と思い始めていました。足元には、黒いアナコンダが数匹蠢いておりました。

 「およびでしょうか?」膝を屈してする礼も、バラグーンはもう不要で、ガラティア自らがこの男をどれほど買っているか、分かると言うものです。

 「・・・仕事じゃ。ラインハルト王に伝えるのじゃ。これより5日ののち迄に、カーライル王国に宣戦布告をしないならば、わらわは、1日にしてお主の領土を全て焼き払うであろう。5日の猶予を与える、ようく考えるがよい、とな」

 「・・・・御意、すぐに参りましょうか?」「・・・そうじゃ、グリフォンをそなたに貸そうぞ。あれならば、飛ぶ鳥よりも早く、ラインハルト王を待たせる事もあるまい。すぐに 参れ」「ありがたき思し召しにございます」

 バラグーンに1匹の黒い蛇が絡みました。「それは、使者じゃ。わらわが目になってくれようぞ」するすると、蛇はバラグーンの首を廻ると蛇は自分の尻尾をくわえ、首輪に変化いたしました。
 
 「・・・・では」その端正な顔は、ガラティアに負けるとも劣らない程、冷め切っておりました。すでに全てが破滅へ向かっている、それはバラグーンにとってもこの上も無い暗い野望なのでした。


 その時、カーライル王は急いで城の東の、もう一人の王女の元へ向かっておりました。
「お急ぎ下さい、王様。姫は先刻より王の名を何度もお呼びになっております」王女付きの侍女は声をひそめて、足早に先を走りながら言いました。

 「・・・わかった、しかし何があったというのだ?」振り返り振り返り、急ぎながら侍女は言いました。「・・・・星が、動くそうで御座います。巨大な凶星が、ここより北、ラインハルトに向かって」二人は、人気の無い東の塔に、駆け上っていきました。王の胸は早鐘のように鳴り、事態が只事ではないと嫌でも気付いたのです。

 塔の王女は、国中にその存在を隠されていました。そして、それは気が違ったからでもなんでもなかったのです。国王が最初に結婚したのは、実は魔法使いであったのです。それとは知らずに愛を誓った王は、その事をひた隠しにしました。そうして、王妃は子を産むと、子供に命を譲り渡したように、亡くなってしまったのです。生まれた王女は、やはり魔法使いでありましたから、城において育てる訳にもゆかず、こうして塔に住まわせたのでした。

 王女は年の頃は25歳でありました。しかし、その目は、全てを見透かす千里眼でした。塔にいながらにして世界が見え、自分の身を呪う事も無く、その性格は温和で悲しみをたたえた深い海のような瞳を持つ王女でした。

「東の塔の王女、マレーネ姫は生まれつきの魔女、魔法使いでございました。国王は、しかしこの王女を、この上なく愛しておりました。それゆえ、逢う時は本当にいつも涙が流れるのでしたが、今日はそんな事も忘れ、王女にすがるような気持ちだったので御座います。」

           <  ⅩⅦ  >

その部屋は、塔の上層にありました。姫の希望でなるべく風の通りやすい、そして朝日と夕日が両の窓から射してくるようになっておりました。窓は丸い塔に全部で6つ。六望星の形でその床には結界を意味する水晶がその形に並べられておりました。
「お父様、お呼びして申し訳ありません。」その部屋の中央に椅子を置いて座る姿は、前妃の姿のようでありました。「マレーネ、お告げがあったのだな?凶星が動いたのか?!」

マレーネ姫は、父王にうやうやしく申し上げました。「お父様、この度の事ゆめゆめ、軽く扱われてはなりませぬ。お隣りのラインハルト王には、お考えがありまするが、5日の後、宣戦布告をされます。カーライルに。」「我々の国にか?!なぜじゃ?!」「・・・・ガラティアの仕業でございます。」「ガラティア?何者じゃ?」「あの、魔法使いの、本当の名前で御座います。お父様。」

王は、ううー―ん!と唸ってしまいました。「今は、ルナの事があるというのに、戦争など・・・・そんな、あのラインハルト王ともあろう人が!我々が争って、どうなるというのだ!?」
「全ては、ガラティアの策略。我が妹と王子を、どうしても引き離したいので御座いましょう。」
「なぜじゃ、あの魔法使い!わし自身の手で、引裂いてやりたいわい!」うろうろと、部屋を歩き回る王に、マレーネ姫は、言いました。「ガラティアの策は、巧妙なのです。私達の心を知り抜いているのです。おそらく、王子と妹がガラティアの城に向かっている事も、もう知っていて、その心を掻き乱す作戦なのでしょう。」王は、天を仰ぎました。「一体、どうすればいいというのだ?!」マレーネ姫は、深呼吸をして王に向き合うと、言いました。

「わたくしが、心より尊敬致しますお父様に 申し上げねばならない事が御座います。これからわたくしのお願いします事を、どうぞ、お聞き入れ下さいませ。そして、これは、絶対にわたくしにしか、出来ない事なので御座います。」マレーネ姫は、そう言うと、王の手をとってその手を包みました。・・・この後、王は、信じられない話を聞く事になるのです。王は、止めてくれと懇願しますが、姫の決意は固く、その性格は王様譲りでした。それが、姫の運命なのだと聞かされても、王は涙を流して反対しました。しかし、戦争は絶対に避けねばなりません。カーライル王は、がっくりと肩を落として、その東の塔から降りていきました。
マレーネ姫は、父王を本当に愛しておりましたから、この自分の行うべき事を勇気を奮い起こしていけると思うのでした。

マレーネ姫は塔の中心に立つと、一心に祈り始めました。
「わたくしは小さき魔法使い、わたくしを守護したまえる御霊、母上よ、わが神よ、わたくしに今、力を!我が心のままに、小さき翼もて、空を飛ばん!」

姫は、ひばりになって、塔の窓から飛び立ったのです。遥か北を目指して。

「マレーネ姫は、一体どこへ?果たして、戦争は避けられるのでしょうや?まだまだ、何か起こりそうで御座いますな・・・・」


 「ラインハルト国に、その凶星は降り立ちました、その名はガラティアの右腕バラグーン、グリフォンにまたがり飛ぶ姿は、正に 後の世に死の天使と言われた威容でありましたそうな。」

             <  ⅩⅧ  >

バラグーンは、わざわざ低空飛行をして街の中にその姿を見せました。城の中にいた時のようなすっきりとしたスーツではなく、襟の立った漆黒のコートで、その表の生地には金糸で見事な蛇の刺繍が施されていました。背の高いその男は、何も権威を現すものを持たなくても、足元から立ち上がってくるかのような威圧感と絶対的な冷徹さで、彼がガラティアの腹心だと分からせてしまう何かをもっておりました。居並ぶ王の側近や警備兵達が警備を固めた城内の、中庭に降り立ち、グリフォンをそこに待たせると、ぐるりを見渡して、ひと言  「ラインハルト王に、魔法使いガラティアの使者バラグーンが会いに来た、と伝えろ。」 と、言いました。

バラグーンは王の謁見の間に通されました。
そこは、ラインハルト王に会う為の広間でありましたが、そのバラグーンが入ってくると何故か広間の空気が冷えていくようでした。ラインハルト王は、信じられぬ面持ちでバラグーンを眺めました。「魔法使いの使者よ、一体何故みえられた?」王は、今までの魔法使いの手管を知っていましたから、使者を立てるなど、余程の事だと構えていいました。

「我が主人、大魔法使いガラティアより 偉大にして賢明なるラインハルトの王に、宣告が御座います。  まずは、お人払いを・・・・」


ゴブリンの社を出た4人は、グルの事で話し合っていました。「おれ、もうへいきだ、おやじむかしたびにでたといった。おれもいってもいい。」頭領は考えたのです、こいつはまだ無理だ、じゃあどうする?「・・・むすこよ、おれはいのちがけのぼうけん、あぶないことしってる。おまえにおまえのなかまたすけられない。おまえ、ちえ、ひつよう。おまえ、ゆうき、ひつよう。・・・わかった、おまえのゆうき、ちえ、あのやまのぬしにためしてしてもらえ!あのやまのおくふかく、ぬしのちからかりられたら、しろにはいれるだろう。だめなら、かえってこい!」

「わかった。」グルは、その山に何がいるのか知っているのです。真っ青になりながらも、行くというグルに、頭領は驚きました。(こいつは、本物かもしれん。)それを聞いて、ゴブリンはなんて広い世界を知っているのかと、クレイバー王子は改めて驚いたのです。そして自分の思いを言ってみました。
「頭領、魔法使いは相当な数の魔物を放っているんだよな?でも俺達はたったの3人だ・・・・」
頭領は、またじいっとその顔を見つめながら、言いました。

「おまえ、わすれている。おまえもひめも けもののおう だということを。」

ふたりは、顔を見合わせました。ようやく、希望の光が射したのです!
3人は頭領を見送ると、自分がすべき事を確認しあって言いました。
「何があっても、城の前で集合する。今日から3日後だ!俺達の上に神の祝福があらんことを!みんな、無事でいろよ!」さっきまでかかっていた黒い雲が、少しずつ北へ流れ出して、一筋、二筋と 段々光の筋が増えてゆくような、そんな夕暮れでした。3人はそれぞれ、思い思いの方角に分かれて行きました。3日後のお互いの無事を、祈りながら。


 「マレーネ姫は、一体どこへ?王子達はバラバラに城を目指して行きますが、果たしてどうなっていくのでしょうや?」

            <  ⅩⅨ  >

バラグーンが、ラインハルト城に到着する30分前の事でございます。
1羽のひばりが、王様の部屋の窓にとまりました。ひばりは、王様の姿を見つけると、その側にあった文机の上に飛んでゆき、王様の前で綺麗な声で鳴きました。
「ほほう、ひばりではないか。珍しい客だわい。」王は、公務の途中でしたが、ひばりの事をもっとよく観ようと手を伸ばしました。  ・・・と、ひばりはすぐに床に降り立ち、その姿を現しました。
「・・・!なんと!」王が人を呼ぼうとしたのを遮るように、姫は声を掛けました。

「落ち着いてくださいませ。わたくしは、カーライルの第一王女、東の塔の魔法使いマレーネと申します。王様には 初めてお会いすると言うのに、このような不躾を、どうかお許し下さい。」

王は、気が違ったと言う姫の話しか聞いておりませんから、何もかも理解するのには時間がかかりました。しかし、姫は実に賢かったので、その言葉は真実であり、これから起こるであろう予言も魔法使いの今までの悪行からすれば、ありうるように思えたのです。ですから、姫が魔法を使ってここまで飛んで来た、その大変な旅をやっと理解する事が出来ました。

「マレーネ姫、あなたがそのように、危険を顧みず飛んでこられた事に、なんといって感謝したら良いでしょう。両国は決して、戦争を繰り返す様な愚かしい事はしません。カーライル王も、ご存知のはず、我々の息子達の為にも、戦争は避けねば。カーライル殿に、このように父王を愛している王女がおられて、本当に良かった。神よ、感謝致します。」ラインハルト王はそういうと、姫をもてなそうと侍従を呼ぼうとしましたが、姫は首を振ると言いました。

「ラインハルトの王様、わたくしのようなものの言葉を信じて頂けただけで、満足で御座います。それよりも、これからが大変で御座います。どうぞ、賢明にして高尚なる王様に、神のご加護がありますように。」  マレーネ姫は、そう言うと、あっという間にひばりの姿になって、窓から飛び立ちました。王は、嘆息して窓からひばりの飛んでいく姿を観ようとしましたが、その時中庭から王の部屋まで駆け足で兵が来たのです。「王様、大変で御座います!魔法使いの使者とか申すものが!!」  (・・・姫よ、ご無事で!)王は、心の中で呟くと、部屋を後にしたのでした。

さて、クレイバーは兎に角ここより北に行けば、その昔に聴いた覚えのある一族に会えるだろうと思っていました。それは昔話や神話の世界の話なのですが、自分の嗅覚が間違いなくその方向を示していたのです。(妙だよな・・・今はまだ人間の時間だって言うのに・・・)でも、日が暮れるまでに少しでも先に行かねばなりません。段々と、夜行性の動物達の唸り声が聞こえてきて、自分も一緒に叫びたくなる衝動が湧き起こってきたのです。(・・・そろそろ始まるか・・・・)
自分の体の変化を感覚で捉えていたのが、この頃では小さな変化まで全てが快感に変わってきていたのです。それは、ゴブリンの頭領が言っていた、2つの生き物の人生を生きる、その感覚が研ぎ澄まされてきた結果だったのです。クレイバーは、自分がとてつもなくりっぱな銀色の狼であり、その姿を誇る自分がいると、はっきりと意識していました。

「王子は一体誰に会おうとしているのでしょう、マレーネ姫は戻ってくるのでありましょうや?」


 「夜の闇に駆ける足音、獣の咆哮。輝く星の下に、黒々とした岩山に、響く生き物達の饗宴。全てが野生の力強い生命の賛歌でありまするな。」

                <  ⅩⅩ  >

クレイバーは今、全身の筋肉が踊り出すかと思えるぐらい、走る事が楽しくてならなかったのです。4本の足は、まるで宙を駆けるが如く身体を弾ませ、自分がこんなに速く走れるという事に初めて気がついたかのように、どんどん加速していきました。(感じる、近くに・・・・俺の臭いを追いかけてくる奴らがいる・・・)クレイバーは、こいつらがどれぐらい俺について来られるのか、試してやろうと思いました。北へ、北へ!彼の本能は、そう告げていたのです。

湖の北は、まだ大きな森にはなっていませんでしたが、起伏にとんだ地形になっていて、林や平原、小川、片側が削れたような山の崖など、狼達の格好の狩場になっていたのです。
(ここは、少し頭脳戦と行くか!)クレイバーは、まず大きな岩まで駆け上がると、注意深く今来た道をバックして、さっき飛び越した小川に入ると川を下って藪の中に身を潜めました。
追いかけて来たのは、やはりこの辺を根城にする若い狼2匹でした。岩までは、間違いなくつけて来られたのですが、急に臭いが途切れてしまったのです。2匹はうろうろして、小川までは戻ってきたのですが、その後はもう分からなくなってしまいました。そこに、銀色の狼は、ゆっくりと姿を現したのです。2匹は、驚いてしり込みするとその姿の前に服従のポーズをとったのです。

(こいつらは若くて、まだ力が弱い。お前達のボスのところへ、俺を案内するんだ!)クレイバーがそう心で念じて、睨み付けると、2匹には通じたらしくクレイバーを振り返って「付いて来い!」というように吠えたのです。この2匹の後をゆうゆうと走っていると、すぐにその狼達の親であろう、ボスの所に着きました。2匹が振り返って、クレイバーに道を譲りました。そこには、この2匹よりは体格もよく風格もある、狼がおりました。

(胡散臭い、銀色の狼よ、お前は純粋な狼ではないな?)その狼は唸りながら歯を剥き出しました。(ここは、我らが一族の狩場だ。今すぐ立ち去れ!)その声が聞こえたのか、周りにいる狼達が、ぞろぞろと集まってクレイバーを遠巻きに取り囲みました。狼達は1番強い雄がその群れを率いるのです。皆は、成り行きを見守っておりました。

(俺は、おまえらの誰よりも強い。俺はこれから城までの道、このあたりに出始めている魔物を追い払う為に、お前達の力が必要なのだ。お前に俺の言う事が分かるなら、無用に闘いたくは無い!)クレイバーの想いは、遠吠えとなって響き渡った。その声は、遠く、ルナの耳にも聞こえたのです。(魔物、だと?!あの、我らを西の地より追い払った化け物どもの事か!あいつらに勝つというのか?)ボスは絶望的な声を上げた。(あいつらは、不死身だ。あいつらにどうやって勝つつもりなんだ?我らの牙だけでは、到底無理だ。)(知っている。俺は、北の森の賢者に頼みに行くのだ。皆でゆけばきっと、動いてくれるだろう)今度は、ボスの方が、遠吠えで応える番だったのです。

(皆の者、この者は我らの一族を西の地へ導くという。このものの言う事に従うか?)
皆が、それに同じように遠吠えで応えた、その瞬間から、この狼の群れはクレイバーのものとなったのでした。その群れは、クレイバーと共に北の森へ移動を開始したのでした。

北の森に行くまでに、丸1日を費やしましたが、途中クレイバーが人の姿になっても、群れの誰1匹として、造反する者は無かったのです。
by f-as-hearts | 2005-04-18 00:32 | ファンタジー小説

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