愛の近くに・・・3


威神 武士(いかみ たけし)   42歳  恋愛小説作家

杜原 有華(もりばら ゆか)   30歳  OL



第 3 話



携帯電話のメールを見たのは、夜21時を回ったところだった。
それは、友人の正登からだった。


<武士、話があるんだ。何時でもいいから電話くれないか。

ピッ・・・・・
「・・・・・・おー、正登、俺。どうした?・・・ん?いや、バク睡してた。・・・ああ。
・・・・なんだって・・・・彼女?・・・・・ああ、戻ったけど?

・・・・・・・・!どこで?!・・・わかった」

俺は、すぐにゆかに電話した。

・・・・プッ・・・・・・

「もしもし、ゆか?・・・・・・」電話は切られた。俺は、一瞬目の前が真っ暗になった。
3か月前、彼女が失踪した時は、あの男が彼女を連れ去った。
その時・・・・俺は探す術がなかった。だが、今度は彼女の携帯から居場所がわかる。
電話は一瞬でも入った。それは、場所を知らせることが必要だったからだろう。
俺は迷わなかった。あいつだ・・・・あの男・・・芸術家のカイだ・・・・
絵のモデルだといって、最初はゆかも喜んでいたんだ。なのに・・・・!

すぐに彼女のアパートへ向かった。何か手がかりがある筈だ。



ゆかは、その男に殴られて、気を失っていた。
そして気がついた時には、男のアトリエで、手を縛られていた・・・・
「あ・・・・・っつ・・・痛い・・・・・」傍の人影が動いた。
「・・・・ゆか、大丈夫か?君が悪いんだ・・・・・僕から逃げようとするから・・・・・」

男はぶつぶつとつぶやき始めた。
「・・・いつも、そうなんだ・・・僕が、好きになった人は、いつも・・・僕から離れようと
するんだ・・・僕はいつだって待っているのに・・・だから試してみる・・・
そうしたら本心がわかるから・・・」

ゆかは、この彼、芸術家の誡が、病んでいたんだとやっと気がついた。
だがそれを知っても、戻れないし戻ろうとも思わなかった・・・
自分も誡に似ている・・・いつも愛情に飢えたような感情を、覆い隠していた。
彼に何故、これ程惹かれたのかが、今になってよくわかった。
それはたった一人の人の愛情だけで、足りるのだ。そして、その役目は
自分ではなかった・・・自分には、もう武士がいるのだ。

誡はゆかの目をじっと見つめて、顔を背けようとしたゆかにキスをした。
「君はここにいるんだ。絶対、絶対だ!・・・君は僕の最後のモデルなんだ。
他に誰もいらない・・・・」ゆかの目から涙が流れていた。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」「聞きたくない、そんな言葉は!!ゆかは
いい子だろう?僕には、素直になるっていったじゃないか!」


風が、アトリエのドアをバタンと開くと、顔を真っ赤にして走ってきた武士が
そこに立っていた。

「・・・ゆかを放せ、このクソ野郎!!」武士は誡に跳びかかり、思いっきり
襟元を締め上げた。「なっ!!!!ぐううっ!!!」

ゆかはあまりの事に驚いたが、慌てて武士を止めた。
「やめて!!武士・・・・・」ゆかは必死で言った。「話を聞いて!」

「いいや、聞かない。ゆか、君はもうこいつの話を聞かなくていい!
こいつとは、俺が話す。ゆか、いいか、これだけは絶対だ!
俺達の話に、入るな!!」

武士の、物凄い剣幕に、ゆかは驚いた。そして、その場に座り込んだ。

「・・・お前とは、決着をつけるつもりだ。こい!!」武士は誡の腕をきつく掴んで
後ろでねじると、そのまま外へ出て行った。

近くに小さな公園があった。そこで武士は掴んでいた手を放した。
「・・・・・・・てめえ!!何様のつもりだ!!」「少なくとも、お前よりはゆかを
理解している。誡・・・・お前の話は聞いた。だから、今度は直接、お前を
ぶん殴りに来た」武士は、拳を握ると誡を見た。

誡はせせら笑った。「野蛮だな!お前の単純さに反吐が出る!!
猿といっしょだ!!」
武士は、言った。「人間になら、人間として話し合いをする。お前のやったことは
獣以下だろう!・・・だから、お前が納得するまで、殴るだけだ!」

「・・・・・僕が獣?!」「お前は犯罪者だ!誘拐罪、犯罪者に反論出来るか?!」
「僕が、獣だって??何も抵抗しない僕を、殴る奴の方が、獣じゃないか!!」
「抵抗しないのか?そりゃ、好都合だな!」武士は、誡を睨みつけた。

「これで思いっきりやれる」







ゆかは、武士があんなに怒ったのを見た事が無かった。
でも何故か、武士はとても冷静だと思った。・・・炎が、高温になった時の、白い
輪郭のような・・・・赤くないのに、とても熱い・・・・

何分・・・何十分が経ったろうか・・・
2人がゆかの前に戻った時、誡の顔は殴られた痣があり、体を支えるように
武士が掴んでいた。
「おい、ゆかに、言うことがあるだろう!」武士が、ゆかの前に誡の体を放した。
誡はよろけながら、ゆかの前で手をついた。

「・・・・すみませんでした・・・・もう2度とこんなことはしない・・・」

「ごめんね、ごめん・・・・・・・・誡・・・私がはっきり言わなかったから・・・・」
ゆかの涙を見て、誡は、立ち上がった。




「・・・・・・・もう、いい・・・・・・んだ・・・・

もういいや・・・・・・こんな馬鹿らしいことは終わりにするから。





そうか・・・あんたは、小説家 だったな・・・・なんでもわかったふりで、
たいしたもんだよ・・・・でていってくれ!もう二度と、あんた達の顔なんか
見たくない」



ゆかと俺は、車に乗り込んだ。
ゆかはずっと黙ったまま・・・・・・俺も何も言わなかった。
そのうちに、ゆかは疲れていたのか、寝てしまった。
俺は、スピードと音楽の音量を落として、少し赤くなっている手の平を
見つめた。そのまま、彼女のアパートへと車は静かに走っていった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-03-16 23:59 | 短編小説

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