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愛の近くに・・・

恋愛小説家の 威神 武士(いかみ たけし)は、いつかは世間を驚かせる
ような、独創的な小説を書きたいという欲望の虜になっていた。
彼の持論は「小説家はいつだって虚構と愚行を行き来するものだ」・・・だった。
その台詞は、いつの間にか彼の担当編集者に伝染し、威神が何か言う度に
「先生、妄想ダケ(孟宗竹??)が生えてますよ!」と切返されて、不愉快な思い
をするのだった。

「先生、たまには気分転換した方が、絶対いいですって!!」
給料日前の担当は、遊びに行く金もないらしい。「一人でいけ!」
彼はカリカリしていた。最近まで彼女だった女の顔が浮かんで消えた。
カタカタカタ・・・・まだ、3ページしか書けていない。
電話が鳴った。

「・・・はい、威神です。いえ、ただ今先生はお仕事中でして、誠に申し訳ございませんが
お名前を・・・・」

プッ・・・・・・
「・・・すみません、切られてしまいました」「・・・・誰から?」「何も・・・女性でしたが」

彼は、すぐに携帯で電話をした。「・・・・ゆか、電話しただろ?今。・・・どうしたんだ?」
女性は、何か言おうとしたが、沈黙していた。「・・・・いいから、言えよ。俺の都合ばかり
気にするな!」「・・・・・・・・でも」「わかった、今からそっちに行く!」

担当の慌てた声を全く無視して、彼は車を猛スピードで走らせた。
高速は雨がオレンジ色の光を乱反射して、まるで自分の心の乱れを映すように
ギラギラと歪んでいた。


「なんでお前は、あいつの事を考えて泣くんだ?!どうしてそんな顔で俺を見るんだよ!」
・・・・俺はまた、ゆかに同じ台詞を言うのだろうか・・・冗談じゃない!
いくら元彼女でも、いつまでも心配なんかしてられない。・・・・だが、俺はまたこうして
彼女のところへ向かってる。何故だ??怒りが込上げるのに、何故無視できないんだ?!

「威神さんの小説って、すっごく夢があっていい~~!なんだかうっとりする~~!!」
「・・・現実は、のた打ち回ってるけどな」「へえ??そーなんだ?うそみた~~い!!」


・・・・お前が言った台詞だろ!!そうさ、現実なんだ。でも、俺は逃げられない・・・
ゆか、お前はいっつも逃げてるんだよな。今度の彼氏はなんだったんだ?


彼女のアパートに着くと、ドアをノックした。返事が無い。「ゆか!!入るぞ!!」
合鍵で入ると、彼女は真っ暗な部屋で点滅する携帯を見つめていた。
「・・・・・ゆか?どうしたんだ?」ゆかの手から携帯を取ると、その画面を見た。
「!」「だめ・・・・見ないで・・・・・返して・・・・」
ゆかは、泣き腫らした目をしていた。そこには、ゆかの彼氏からの間違えた、というように
みせたメールが、届いていた。「・・・・・・私・・・・なんか・・・馬鹿みたい・・・・・・
か・・・かれは・・・本気じゃなかったのに・・・・あなたまで裏切ったのに・・・・罰があたった
んだよね?」俺は、携帯を閉じた。



「・・・そうかもな。馬鹿なら、ここにもいる・・・・・」

俺は、さっきまでの怒りが粉々になってじゃりじゃりと足元で砂になってゆくのを
感じていた。

「・・・・・・・寂しいから、抱きしめてもいいか?」
ゆかは、首をこくんと振って、声をあげて泣いた。
泣けない俺は、ただ彼女を抱きしめていた。





・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
by f-as-hearts | 2010-03-09 01:51 | 短編小説

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