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紡ぐ夢 綴る夢

fashearts.exblog.jp

タロット占い師ASのブログです。


         <第 1 話>

 「なんと久しく 高貴なる御方様方におめもじを許されませんでしたが、皆様方ご健勝であられましたでしょうや?わが盲しいた眼には見えませぬが、ラインハルトの若き国王と王妃は、それは麗しく、仲睦まじく、後の世に黄金の時代と言われる時を御創りにになられておりました。」


「王妃様、御召かえのお時間でございます、王妃様。」侍従長のマリエンヌは、侍女を連れて王妃の姿を探していました。まだ、朝食もお召し上がりではないし、一体何処へ・・・・
「あ、マリエンヌ、みっけた!」まだ舌っ足らずの、小さな王女、カトリ―ヌがちょこちょこと裸足で追いかけてきました。「まあ、王女様、可愛いお足が見えていますわよ?」カトリーヌは口をとんがらせて、言いました。「靴下も靴も、お友達は履かないもの。笑われるもん。」

あら、また始まった・・・マリエンヌは、王女様の言う、お友達が誰なのか知っているので、溜め息をつきました。「困りましたねえ、また大じじ様に叱って頂きましょうか?」
王女は首をすくめると、「マリエンヌはお友達に笑われたりしないから、分からないのよ。みんな笑いながら逃げるんだもん!」「それじゃあ、マリエンヌからお友達に言ってあげましょうか?」「無理よ、みんな、マリエンヌが怖いって・・・・」マリエンヌは、これには参ってしまいました。「おお、そんなお友達は、今すぐ出て行ってもらいましょう!王女様を笑うなんて、以ての外です!」

「だめだよ、そんなこと言うと、カトリ―ヌが泣いちゃうだろ?」いつの間に現れたのか、双子の兄のユーリがテーブルのレースの下から声を掛けました。  「この前、泣いた時のこと、忘れたの?」「いいえ、王子様、ええ、王子様、そうですわね。王子様もお友達と遊んでたんですか?」
「ううん、僕は、魔法の勉強。先生のところに行ってたんだ。また、行かなきゃ。バイバイ!」
・・・・ユーリはそういうと、また消えてしまいました。マリエンヌは溜め息が出るのを止められませんでした。「・・・・ルナ王妃様、わたくしの方が消えてみたいですわ。なんて、なんて困った子達でしょう!・・・さあ、王女様、もうお出かけになるお時間ですわ。素敵な靴下と御あつらえの赤いお靴をお履きくださいませ!!」

その頃王妃と王様は、二人だけの時間を過ごしておりました。ですから、双子が悪戯しようが、マリエンヌが怒ろうが、一向に構わないのでした。というのも、この部屋にはブラウンが直々に
魔法をかけていて、誰一人として近づく事が出来ないのでした。
「ふふふ、可笑しいわね。・・・マリエンヌはきっと、痩せると思うわ!」ルナはそう、王様に笑いかけました。「・・・マリエンヌが?いや、想像がつかないけどね?君はどうして太らないんだい?」
まじまじと見ても、その姿は、20代の頃のままでした。「私が?貴方もね。」
シフォンのベールが天蓋に掛るベッドに腰をかけて、柔らかな髪を振ると ルナは振り向いた。
「もしかしたら、私達には神があの試練の分、少しだけ哀れんでくれたのかも。」
「そうだな・・・・あのまま、狼になるのも、運命のひとつの道だったんだし・・・・。感謝しているよ。」不思議な感覚が戻ってくる時があるのだ、狼になって月の明るく照らす森を駆け巡っている感覚・・・・・あの、体の奥から湧き上がる衝動に四肢が躍動する素晴らしさ・・・・・
「私も、大鷹の翼を、思いっきり伸ばして、大空を風に乗って・・・・そう、その瞬間に、もう一度戻ってみたいって、思ってしまうの・・・・今が、こんなに幸せなのに・・・・」両腕を広げて羽ばたくふりをしてみせて、笑ったのでした。「・・・そろそろ、皆が探しに来るわ。行きましょうか。」

今日という日は、特別な日でした。そう、二人の呪いが解かれた日。大魔法使いが、人間に戻り、運命が正しく廻りだした日でした。そう、あれから8年が経ったのでした。

「ラインハルト王、ならびにルナ王妃様―――――わが国の守護者にして偉大なる王と王妃よ、とこしえにこの平和が続かん事を!皆を代表して御礼申し上げまする!」大臣が大声で口上をのべると、一斉に杯が持ち上げられました。割れんばかりの拍手と歓声が、国中に響くかと思う程でしたが、その時、また鐘の音が打ち鳴らされて、人々に祝福の音色を響かせたのです。

「そう、その日は両国の記念日でした。この見えぬ目にも光はじける音と共に、歓声は一晩中続いたので御座います。そう、もう一つの出来事と共に、この日はいつまでも語り継がれたので御座います。今宵は、これにて・・・・」


       < 第 2 話 >



 「カーライル国のルナ姫の姉であらせられるマレーネ王女は、その生い立ちゆえ、国民の前から隠された存在でありましたが、あの8年前の出来事を機に、カーライル国王は、ご英断され、ご自身の正義を貫かれて マレーネ姫に「カーライル国 女王」の地位を授けられたのでございます。そして、この「女王」は、魔法使いであられましたから、他の強国より、一層の畏怖をもって迎えられたのでございます。そう、カーライルは、今や 「魔法王国カーライル」なのでございました。」


カーライルの緑豊かな堀の周りに、色とりどりのバラが、今や盛りと咲き競っておりますが、「カーライルの白バラ」がルナ王妃、そして、「カーライル・ローズ」といわれるピンクが、マレーネ女王と言われておりました。庭師達は、それは精魂込めてバラ作りに励みましたから、この時期にカーライルに大勢の旅人達が来るようになっていて、「カーライルのバラを見たかい?」というのが、勿論、女王様にも会えた人々の間で、自慢話になっておりました。それほど、女王様は皆の憧れであったのです。

女王のお仕事は、休む暇がなく多忙を極めましたが、女王には不思議な力が在りましたから、いつの間にか疲れが消えているように見えました。そして、驚いた事には、カーライルに魔法学校なるものまで、設立してしまったのです。勿論前代未聞、今まで魔法なるものに面識のなかった大臣達の驚きようと言ったら、「威張りくさった大臣の鼻をあかした姫様!」という大見出しのニュースが街に号外で飛ぶように売れたそうです。それで、魔法がみんな使えるようになるか?というと、そうはいかないんですが・・・・・

「女王様、魔法書記官のバロウズでございますが・・・・」コホン、と扉の前でかしこまってのっぽの男が名乗りました。「・・・どうぞ。」 開いた扉の正面に、マレーネ女王がおりました。
マレーネ女王は、小柄でバロウズの半分か、と思うほどでしたが、その瞳には何者をも見通す力が秘められておりました。しかし、書記官はすばらしい性格でしたので、女王はつねにこの者の意見を聞き入れておりました。
「・・・最近、噂が流れておりまして。それは、魔法使いの血を捜している怪しい者がうろついていると・・・・・」 女王は、それがどういうことか、判っておりましたのでゆっくりとバロウズに伝えました。「私達の、因果なのですよ。バロウズ、私達には今も、守護して下さる方達が、大勢おります。ご心配をおかけしますが、大丈夫、と思っていて下さい。」

バロウズが去った後、窓辺の厚いカーテンから、ちょこっと顔を出したのは、ユーリでした。
「・・・マスター・マレーネ、ぼく、お話聞いちゃったよ?」困ったようなえくぼの子供に、マレーネは微笑みながら、いいました。「ふふふ、いいのです。あなたに関係があるのです。あなたは、私達の希望。カトリ―ヌは私達の力。よいですか、あなたが、あなたのままで、自分の心に素直であるならば、何も怖れる事はありません。・・・さあ、それでは、魔法の勉強の続きを覚えましょうか?」

お城の中に魔法学校があり、国の内外から魔法の素養がありそうな子供達が、親や親代わりの者達に連れて来られておりました。その日も、入校希望の子供達が、そわそわと落ち着かない風で椅子に座って、広間の見える小部屋におりました。親や親代わりの者達の中には、本当の魔法使いもおりましたので、その部屋には通されず、城外で待つよう言い渡されておりました。その中に、ユーリと変わらないくらい小さい子もおりました。バロウズが子供達の簡単なテストをして、判断するのですが、その小さな子供は、なぜかバロウズは気になって仕方がないのでした。「君は、いくつだね?」「・・・6さいです。」「そう、親はいるのかな?」「・・・いいえ」「ふむ、では親代わりの人は、誰だね?」「・・・おばさんです。」「・・・ふうん、では手をこちらへ。私の手のひらに重ねなさい。」左手を重ね、そうしておいて、バロウズはそのこの頭に右手をあてて、この子の潜在意識を探りました。しかし、おぼろげな過去の映像しか浮かばないので、この子があまり幸せではなかったということしか、判りませんでした。「・・・・しかし、魔法を受け入れる素直さはありそうですね。よろしい、合格です。」試験が終わり、バロウズは受かった子供3人を連れて、また女王様の部屋まで戻りました。 「お入りなさい。」すぐに声がして、扉は音もなく開きました。

中には、ユーリが夢中になって物を浮かせる浮遊術を勉強中でした。でも、同じ歳ぐらいの男の子がいるのを見ると、気になって出来なくなってしまいました。皆が順に名前を告げました。
「女王様。今日の合格者3名です。これで、今全員で21名ですね。」バロウズが神妙に付け加えると、女王は3人をじっと見つめました。「よく、この魔法学校で学ぼうと決心してくれましたね。ここは、皆さんが世の中に役立つ魔法を身につけて頂く為の所です。勉強は難しいかもしれませんが、頑張って下さいね。」側にいたユーリは、そわそわと落ち着かなくなって、女王様に言ったのです。「マスター・マレーネ、僕、この子達にお城を案内したいんですけど、いいですか?」
「いいですよ、では、その後、皆をお部屋まで連れて行きなさい。これからは、お城で生活するのですから。」ぱあっと明るい表情になって、ユーリはお辞儀をして、皆を連れて出て行ったのでした。廊下にでると、ユーリは、その小さな男の子にくっついて、聞きました。「ぼく、ユーリっていうんだ、君は?」「僕はシェリマ。・・・6歳だよ。」「ぼくも6歳なんだ。」ユーリは、おそらく妹以外で同い年の友達はこの子が初めてだったので、いろんな事を話し始めて、止まらなくなってしまいました。シェリマは、ユーリに言ったのです。「僕、受かった事、おばさんに言わないと。お城の外にいるんだけど、一緒に来る?」大喜びで、ユーリは頷くと、他の子を部屋に案内してから、2人で外に出て行きました。


          <第 3 話>


「さて、一方ラインハルト国では今夜、カーライル女王も招いての大祝宴会を催す為に、あらゆる商人が最終準備に追われておりました。中でも、ラインハルトのコック長の鼻息の荒い事と言ったら、いつも肉を仕入れる係りが、10回は蹴り飛ばされる始末で、周りのコックは今日だけは絶対にコック長に逆らうまい、と心に決めているようでした。そんなお祭りムードに水をさすような出来事が、起こったのでございます。」


「・・・・お母様、私頭が痛いの・・・・・」カトリーヌが、珍しくルナ王妃にそう言ってきたのは、夕方の5時を過ぎた頃でした。まだ、夕日が赤く染まる前で、ルナ王妃はマレーネ女王が飛ばした伝書鳩の手紙を見ようとしていたところでした。「まあ、風邪かしら?どれどれ?」おでこに手を当てましたが、少しも熱は在りません。そのかわりに、汗がじっとりと手につきました。「・・・・なんでしょうね、しばらく横になっていましょうね。マリエンヌ、お願いするわ。」ルナ王妃は伝書鳩の手紙を開くと、しばらくして、手が震えるのを感じました。「・・・・・マリエンヌ、この子をしばらく、どこにもやらないでね。つきっきりで、眼を離さないでいて。わたくしは、王に至急会わねばなりません。よろしくお願いしますね。」急いでその部屋をでると、王を探して執務室を訪れました。
「あなた、ルナですわ、入ってもよろしいかしら?」扉の中の声は、一瞬黙ると、扉を開けたのは大召喚師ブラウンでした。「・・・・まあ、ブラウン、お元気でしたか?お変わりなく?」ルナ王妃は務めて明るく話し掛けましたが、明らかに動揺していました。
「お蔭様で。久しくこちらにも参りませんでしたが、今日を忘れる事は一生ありませんよ。・・・・どうされた?顔色がすぐれぬようだが?」ルナ王妃は、その言葉で、とうとうこらえる事が出来ずに、泣き崩れるように言いました。
「この、手紙ですわ・・・・あなた、ユーリがさらわれました。あの子が、城の外に出るのを門番が見かけたそうです。その時に一緒だったのはユーリと同い年の子と、そのおばさん・・・・マレーネお姉様の見立てでは・・・ガラティアだったのではないかと、いうのよ!」最後まで言うと、手紙を王様に差し出して、床に泣き伏してしまいました。確かに、マレーネの筆跡で、カーライルの印も押されておりました。「・・・・・しかし、マレーネ様は、ご自分の責任であるから、必ず助けると仰っている。ルナ、あの方がそう言われているのなら、大丈夫ではないか?」王は、ルナ王妃に優しくそう言いました。「・・・・わかっております、信じても、います。でも・・・・わたくしは、子供が心配で、今にも心臓が破裂しそうなのです。・・・自分の時にはこんなに不安を感じませんでしたのに、子供に降りかかって来る災いの、なんと恐ろしい事でしょう。」その気持ちを、ブラウンが分からない筈もなく、静かにルナ王妃に話し掛けました。
「・・・ルナ王妃、私が行きましょう。マレーネ女王も大事なお方だ。私は貴方達には、大きな借りがあります。一生かかっても返せない借りが。どうぞ、ここでお休みになっていて下さい。」

ばさっと召喚師のマントを翻すと、ブラウンは一礼して扉から出て行きました。「ふう、ブラウンはやはりここに来る用があった訳だな。・・・7年ぶり、か。ルナ、あの人はいつも、運命の輪を回しに来るんだよ。そうなるように、全てが廻るんだそうだ。・・・・出来れば、ただ遊びに来ていただけるといいんだがね。どうも、運命の女神がブラウンを気に入っているらしい。」

ブラウンはまず、双子の妹に会いに行きました。「おお、ここでしたか、プリンセス!」慎重に小さな姫君の様子を窺うと、案の定顔色が悪い事に気がつきました。「私は、召喚師ブラウンと申します。姫のご両親と一緒に旅をしたんですよ。・・・・さて、どうされましたかな?」
侍従長のマリエンヌが疲れたように言いました。「ブラウン様はお医者様ですか?お嬢様は頭痛を訴えられて・・・汗をおかきでしたから、何度もお着替えをして。でも熱はないんです。」
カトリ―ヌ王女は、綺麗なブルーグレイの瞳でブラウンを見つめた。「姫、お兄様には会いたいですか?あなたは、ユーリといつも心の中で、お話をされているのでは?」
びっくりして、カトリ―ヌは眼をしばたいた。「なぜ知ってるの?あなたはお兄様とお話したの?」「ええ、分かりますよ。姫、あなたが頭が痛いのは、お兄様に頭が痛くなるような事があったんです。あなたが先に痛かったんじゃない。・・・さあ、私のいう通りにして下さい。お兄様に呼びかけるんです。ユーリ、どこにいるの?とね。」

         
          <第 4 話>

(・・・・ユーリおにいちゃま、どこにいるの?頭が痛かったよ?おにいちゃまも痛かったの?)
・・・・しばらくして、ユーリの心がカトリ―ヌに聴こえて来たのです。
(・・・・カトリーヌ、ぼくはシェリマとシェリマのおばさんと・・・一緒だよ・・頭は後ろから殴られた。多分、おばさんが・・・・・)そこで、意識が一旦途切れ、再び戻って来た時には、疲れた様子でした。(ここは、古い寺院跡だよ・・・・街外れらしい。シェリマが教えてくれた。カトリ―ヌ、聞いてくれる?お父上達には、言わないで。いいね?)(おにいちゃま、まだ帰らないの?もう、ご飯のお時間なのに・・・)(・・・・いいんだ、帰らないけど、心配しないでね。)妹の心にぽっと明かりを灯してユーリは、自分の心を閉じたのです。

カトリ―ヌは安心して、ブラウンを見ると言いました。「おにいちゃま、ふるいじいんにいるって・・・じいん、て何?シェリマって言う子といるの。まだ帰らないって。お父上に言わないでって・・・・。でもユーリは大丈夫って言ったの。だから、大丈夫なの。」そう言うと、カトリ―ヌは、スウー――っと寝てしまいました。「よしよし、いい子だね。・・・マリエンヌ、ベッドに運んであげて下さい。今日は、疲れた筈だから。」一部始終を観ていたマリエンヌは、もうこれ以上はないほど、目を見開いて、突っ立っていました。「・・・魔法なんですか?まさか、お姫様も??」ブラウンは苦笑しながら言いました。「・・・双子の、不思議ですよ。さあ、運びますよ。」

ブラウンは、姫の部屋を足早に出ると、人気のない中庭に降りて、すぐに風神を呼び出すと、風の渦に乗ってカーライル国に飛び立ったのです。カーライル城の上空に来た時、不思議な眼を感じたので、ブラウンは城に向かって、声を掛けました。「我は、カーライルのマレーネ女王 縁の召喚師ブラウン・ローゼズ。おして参るが、よいな!」その声が届き、城は沈黙を守りました。ブラウンは、そのまま古い寺院を捜し降り立つと、ユーリの意識を感じようと、土に手を置きました。土はまるで水のようにブラウンのところから波紋を広げ、ユーリにぶつかると、戻って来ました。「・・・北西、ここより2キロぐらいか・・・」再び、ブラウンは飛びました。

その頃、マレーネ女王も変身術で白い犬になり、ユーリを追っていました。匂いは切れ切れになりながらも、森の中に続いていました。

「・・・シェリマ、ほらお食べ。これは、お前の肝を強くするよ。それから、これは毒を薄めたものだよ、トリカブトの毒さね。少しずつ、毒を食べて、毒に負けない体にするんだよ。魔法使いなら、それは当たり前なんだ。・・・それから、これはあっちの・・・ユーリに食べさせるんだ。いいね」
その声の主は、ガラティアでした。しかし、あの頃の面影は、どこにもなかったのです。そう、そこのいるのは白髪を束ねて腰を曲げた、しわがれ声の老婆でした。あれから8年しか経っていないというのに、運命はガラティアの寿命を早めていたのです。「おばさん、このパンもユーリにあげていい?」半分にしたパンを見せるとシェリマは訊きました。おもいっきり不愉快な顔で、ガラティアは首を横に振りパンを取り上げました。ユーリは椅子に縛られて動けない上、声も出せないように口を塞がれていました。
「シェリマ!お前は私の言う事が分からないのかい?ユーリは私の力を奪った憎いラインハルト王の息子、この私がただの人間になってしまった、その原因は、この子の両親が生きていたからなんだ!そして、この子を生かしておけば、シェリマ、お前の命が危ないんだ!お前がいずれなるであろう大魔法使いの椅子を、奪うのはこのユーリなんだよ!お前を引き取り、育てながら話した事を、よもや忘れてはいまいね?!・・・分かったら、早くこれをこの子の口の中に入れるんだ!!」シェリマは、ガラティアの話をそれは毎晩聞いて育ちましたから、今更疑う訳もありませんでした。ただ、目の前にいるユーリを 殺さねばならない悪 だとは、信じられなかったのです。ユーリの口元の布をはずすと、ユーリにガラティアの作った丸薬を飲ませようとしました。
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# by f-as-hearts | 2005-04-10 09:47 | ファンタジー小説 | Comments(0)

            <最終話>

その時、ユーリは 口を開いたのです。
「・・・僕は おばさんと話がしたい。おばさん、少しだけ、教えて。僕が死んだら、シェリマは幸せになるの?おばさんは、どうして僕や 僕の両親の事を知っているの?」ユーリは素直な気持ちで質問しました。ガラティアはそんなユーリを憎々しげに睨みつけると、答えずにシェリマに早く丸薬を飲ませるように合図しました。しかし、シェリマは、ユーリの質問の答えを知りたいと思いました。「おばさん、答えてほしいんだ。僕も、知りたい。」

「うるさい!お前達一族には、もううんざりなんだ!!私が魔法使いだった頃、ラインハルト国とカーライル王国は、200年戦争をしていて、血で血を洗うような終わりなき戦いをしていたよ。それは、私がお互いの国に噂を流してやったのが、事の起こりだったのさ。お互いが憎しみに駆られて剣を構える様は、見物だったねえ!!ところが、お前達の爺さん達が、和平協定なんかしようとした。そう、私がその頃見た未来は、最悪だった!!そう、恒久的に続く平和な日々、私はお前達の両親が結婚して、子供達が私・・・シェリマを、殺すのを、見たのさ!そんな未来を私は認めない!認めるものか!もう一度、ユーリ、お前を殺して、未来を変えるんだ!お前は、邪魔なんだよ!!」その眼は人の形相ではありませんでした。鬼、そのものだったのです。

「・・・・おばさん、その未来は絶対、やってくるの?」ユーリは、もう一度、勇気を出して聞きました。シェリマは下を向いたまま、顔を上げようとしませんでした。

「そうさ、お前さえ・・・お前さえ生まれるのでなければ、私はお前達の国を、お前達の親を、殺そうとはしなかった!もうお前を殺す事でしか、この運命は変えられないのさ!分かったら、観念しな、さあ、シェリマ!!!」丸薬を持つシェリマの手が、震えていました。

「・・・・おば・・・・おかあさん、嫌だ・・・僕は、僕は、人殺しになるのは、嫌だよ・・・・おかあさん。」
「な、なにをいうんだい?!この私が、お、お母さん?こんな年寄が??私は・・・」
「・・・ううん、おかあさんだ。・・・僕は、知ってる。お母さんが赤ん坊の僕に、子守唄歌ってくれたの、覚えているんだ。・・・お母さん、もう、やめようよ。僕は・・・・・友達を、初めての友達を・・・・
殺したくないんだよう!!!」そう言うと、丸薬を自分の口の中に入れてしまったのです。

その丁度その瞬間に、寺院の重い壊れかけの扉が弾かれたように壊れ、勢いよくマレーネ女王と、ブラウンが飛び込んで来ました。
「何て事を!ブラウン、お願い致します!」マレーネは大急ぎでシェリマの口を開けさせる呪文を唱えました。丸薬は、しかし、一部が溶けて、体の中に入ってしまいました。残りの丸薬を全て、マレーネがその手に引き寄せたのと同時に、ブラウンは、ガラティアが何も出来ないように、その体の自由を奪う魔法で、その場を鎮めたのです。

「シェリマ・・・・・シェリマ!シェリマ!しっかりして!しっかりして、シェリマ!!!!」綱を解いたユーリは、シェリマの身体を触って、その冷たさに、ぞくっとしたのです。
「・・・ガラティア、早まった真似を!お前には、神の本当の意思が判らなかったと言うのか!!」「シェリマ、死なないよね???マスター・マレーネ!!お願い、僕の一生分の力を捧げてもいい、もう、僕は、魔法使いにならなくてもいいから!マスター!!!」その眼には、涙がとめどなく流れていました。じっと、シェリマを見つめていたマレーネは、首を横に振りました。
「・・・いいんだ、ユーリ、僕・・・・・・ほんの、ちょっとの間・・だけ・・・友達で・・・・お母さんを・・・・」
意識が薄れそうになるシェリマに、ユーリは、大きな叫び声をあげたのです。
「いやだあ――――――!!!!!シェリマ――――――――!!!!!」

その時、カトリ―ヌは、ぱっと眼が覚めると、その光景を一瞬にして観たのです。
カトリ―ヌは、それが、ユーリの耐えられない心の叫びだと分かって、一緒に大声で泣き出したのです。「うえええー―――――――――ん、おにいちゃまが、かわいそうだよう――――」

その涙は、奇跡でした。空が、一瞬にして暗雲に覆い尽くされると、雨が降り出したのです。
その様を、ブラウンは一生忘れないと思いました。大雨が土砂降りのように降り出すと、信じられないような光景が次々と起こったのです。寺院の周りは、滝のような大雨、しかし、シェリマの頭上の一点からは、光が一筋降りてきたのです。そして・・・・・・・

遥か、北の方から、何かがものすごい勢いで、その光目指して飛んで来たのです。それは、大雨の中で勢いよくその身体をひるがえして飛ぶもの・・・水晶竜だったのです。
水晶竜は寺院に降り立つや、すぐに人の姿(白髪の翡翠色をした衣が綺麗でした)になって、シェリマの側に立ちました。「・・・・この子が、ユーリのお友達かね?よい、よい、泣かずとも。」
その場の者たちは、この老人が、300年も生きている竜で、浄化を司る龍神だと分かっていましたから、感激で皆、頭を垂れておりました。「あなたは?」ユーリの問いに龍神は、黙ってシェリマを癒すと、微笑んで答えました。「・・・お前達の心が、私を呼んだのだよ。私は水晶の竜という。お前の両親と一緒に戦った者だ。・・・私は、人を助けたいというお前達兄妹の心に、感じたのだ。私は、その心でしか動かぬよ。・・・マレーネ女王、召喚師ブラウン、もう大丈夫だ。それから・・・」振り向いた先には、ガラティアの落ち窪んだ目がありました。「・・・ガラティアよ、これがお前にとっての、最後の試練なのだよ。息子を、育てるのだ。殺戮しかして来なかったお前に、これは神が与えた、最後の救いの手なのだ。」皆は、感動して微動だにしませんでした。

水晶竜が、遥か彼方に去って、雨が上がると、空には朝日が射して来ました。
シェリマは、もう、大丈夫でした。ガラティアはもう、完全に毒気が抜けて、シェリマを抱いておりました。「シェリマは、これから、どうなるの?」ユーリは心配そうにマレーネ女王に尋ねました。「大丈夫ですよ、ガラティアさえよければ、魔法学校に来てもらいます。」それを聞いて、ユーリはぱっと頬をあからめました。「・・・本当ですか!・・・良かった。」ブラウンは、マレーネ女王の前に立つと「・・・では、女王様、私はこれで・・・・」コホンと、咳払いをして帰ろうとしましたが、マレーネ女王はにこにこと「あら、随分とお急ぎなんですのね?どなたかとお約束でも?」
今度は、ブラウンが頬をあからめる番でした。「・・・・いえ、そんなものは・・・・勿論、女王様がお声を掛けて下さるのなら・・・・喜んで。」

ガラティアは、放心状態でした。ですが、皆が去って、シェリマが気がついて起きたのをみて、やっと自分が生きている事に気がついたのです。
「・・・・おかあさん、僕、おかあさんのこと、何にも知らないんだ。・・・教えてくれるよね?」
ガラティアの眼から、生まれて初めて、温かいものが流れ落ちていました。



                   END
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# by f-as-hearts | 2005-04-08 09:55 | ファンタジー小説 | Comments(0)
2199年 マンハッタン・リバーサイド  

日系アメリカ人の リョウ・ロバートソンは 相棒の送ってきた仕事に、これ以上は無い位の不快感を顕わにした。

「何が不満なのさ?」真顔で訊き返すその幼い表情に、IQ260という事実はどうしても信じられない、いつもそうなのだ。 

「・・・だから、こいつの仕事は嫌だって言ってるんだよ!何度も言わなかったか?」 「聞いたよ、12回。だけどこっちも何でもいいから仕事をしないと明日はこのアパートメントを追い出されるんだって、リョウに16回、言ったよね。」
・・・有体にいうと、金が無いんだ。相棒はさらに、冷静に続けた。

「兎に角、僕も行くから迎えに来て。じゃあ」 カチャッ。最近は時計型の携帯になっているんだが、話し終えると、向こうが指定した時間が(迎えに来いと言う時間ね)表示されて、自動的にタイマーがセットされる。そして、いきなりナビが始まるのだ。それは、自動衛星システムとして定着した、追跡ナビでもある。リョウの乗り物全てに連動するシステムを作り上げたので、勿論、ほっておいてもリョウの車は 相棒の家に向かう。  

「・・・くそっ!文明なんかくそくらえ!」今ではとんでもなく高価になったミネラルウォーターをがぶ飲みすると、乱暴に車のドアを叩いた。

  窓の外は、抜けたような青空だが、もう地球にとって安全な光線ではなかった。21世紀を22世紀の人間は「人類が地球に最悪の状態をもたらした世紀」として断罪しているが、その状態を「人類が化石燃料を使用する前」に戻すのには1000年かかるとした。

その為、全ての窓や建造物には有害な紫外線、太陽光線をシャットアウト出来るシステムが導入され、ビルの大改築によって、効率の良い空調システムが開発され、より外気を汚さず省エネルギーな方向への転換が図られた。車はすでに全て電気。昔と違うのは、ガソリンスタンドが無い事と、車の音か。

すっかり街路樹が若葉を得意そうに広げている街並みをリョウの車は静かに走って、止まった。
「あー  俺。」・・・ガチャッ。・・・オートロックがはずれて、中に入ると、相変わらずな部屋だった。「おーい、トンボ。 さっきは・・・・」いいかけて、ちょっと言いよどんだ。

「・・・何してるんだ?」
「・・・・この仕事を引き受ける為の準備。それより、今日こそ、何故あの博士の仕事を断り続けるのか、聞かせてもらうよ。」・・・・トンボ、といわれた少年は、レトロな眼鏡をかけた顔をこっちに向けた。本当は アレックス・K・ロートレックスという、やたらもったいぶった名前があるんだが、眼鏡が気に入ったんで、「トンボ」にした。

      <トンボ>

トンボは現在12歳だ。そして俺は38歳、年齢差26歳。でも親子でもないし、親戚でもない。もっというなら友人の子供でもない。かなり無理があるが、仕事の上でのパートナーだ。相棒、相方、なんとでも言ってくれ。

この時代、コンピューターは1人に2、3台の時代になり、とうとう10代のプログラマーが主流になってくるにつれ、人類はコンピューター言語を幼児期にマスターするとんでもない天才児達の出現に驚愕した。どの国でも、そんな天才児達は厚いカーテンの中で大事に扱われていたが、中にはその天才ゆえの才能か、大人の監視をすり抜ける驚異の子供達もいた。

・・・その1人が、「トンボ」だった。その才能は、大国が、彼を探し出す為に1000万ドルかけたという噂と共に、世界中を駆け抜けた。そのトンボをかくまい、挙句は相棒にしているのである。

「博士は、リョウとどういう関係なの?」一心にPCに向かいながらトンボは訊いた。
「ああ?そんな事は関係ないだろう。」ふて腐れたような声に、トンボは明らかに怒っていた。
「関係ない?僕は、博士の仲介があったから世界中を逃げ続けないで済んでいるし、最終的に自由も手に入れてみせるけど、リョウは博士と関係があるから僕をここに置いてるんでしょう?二人とも絶対口を割らないけど、ここに来てまだ、僕を信用していないんなら・・・・」

「あああ、わかった、わかった、わかったから!!!」なまじ、頭がいいと くそ生意気で困る。誰かこいつを普通の子供に戻してやってくれないかな!「・・・・いいか、おまえは どんなに頭が良くても、世界的指名手配でも、まだ 、たったの、 12歳 なんだ!!!俺は 大人で、探偵だ、お前に何を訊かれても言えない事も、山ほどあるんだ!お前との約束は、俺の秘密に関する事は話さない、そうだな?そして、その話はその秘密に触れる事でもあるんだ!」

・・・少しの間、トンボの手が止まった。「確かに、約束したけど。じゃあ、僕の、僕について知りたいという当然の権利は、どうなるのさ?」「それは・・・・いずれ、話すけど。」トンボは、すぐに質問の方向を変えてきた。「今回の仕事だけど、おかしいんだ。・・・これを見てくれる?」
 そこには、巧妙に文章をつくって メールにみせた博士のメッセージがあった。

「お元気でしょうか? 美味しい紅茶をご一緒に。 4人分の用意があります。」

「・・・つまり、もうひとり 会わせたい人がいる訳だな。3時に」ふんっと鼻を鳴らして俺は言った。「そういう意味なの?」「そうだ」「美味しい紅茶って?」・・・俺は、思わず口元を手で覆った。
「それは、奴が何か 大きな事を計画しているっていう、サインだ!お前の時にも使いやがったよ、本当にいけすかない紳士様さ!」


       <ジェームズ・ビンセント博士>

「さあ、終わったよ~、いこー」勢いよく、パネルをひと撫ですると ロック!の文字が浮かんだ。「僕のPCに触ったら、BOMB!ひとたまりも無いさ。」「それか、準備って・・・」何か、トンボの事だ、とんでもない仕掛けに違いない。「そうだよっ!うはは、いこっ」トンボも末恐ろしい。 俺はこんなに平凡な頭で良かった。・・・車はスムーズに発進し、俺は行き先をナビに告げた。

その場所は、博士の別荘、兼、研究所で、表には表札の類はない。広い墓地と隣り合った公園、傍目にはそんな風に見えるくらい、通りからは離れている。門をくぐってから100mは歩いたろうか、そこに別荘が 蔦に覆われて建っていた。周りの木々は綺麗に剪定されていて、いつも庭師が入っている事がうかがわれる。 1分の隙も無い、イギリス風庭園だ。

それを観たとたん、回れ右、をしたくなった自分がいた。「リョウ、どこいくの?」実際戻りかけていた。「・・・なんでもない。」気を取り直して、入り口の広いドアの前に立った。その時・・・・
・・・・・誰かの視線を感じて、周りを見回したが、誰もいなかった。もちろん、俺達がつけられる様なドジは踏む訳も無いが。ドアは、静かに開き 俺達は招き入れられた。

「ようこそ、ちゃんと来て貰えるとはね。心から礼を言わせて頂こう。」そこには、少し疲れた表情の博士がいた。 痩せてはいるが、病気などした事がないという程の気丈さ、独身になってからいよいよ頑固になったと言うのは本当らしい。

「ジェームズ、俺は約束を守ったんだから、帰らせてもらうぞ!」ジェームズ博士の眉が片方だけ少し上がった。「リョウ・ロバートソン君、君には幼稚園の頃から驚かされるね。それが、礼をつくして招いたものに対する、君の態度かね。」

すでに、ドアまで歩こうとしていた足を、踏ん張ってゆっくり戻した。「なんだと?じゃあ訊くが・・・お前は俺を呼ぶ為に、なんと驚いた事に、この12歳の子供を利用したじゃないか!この子がお前に対して抱いているのは、これも驚いた事に、尊敬!尊敬だぞ、こんな危ない仕事に子供を使うなんて!」

掴み掛からんばかりの勢いだが、ジェームズ博士は今度は眉一つ動かさない。流石にこいつには、脅しは効かないか。「リョウ、僕の事をちゃんと博士に紹介してよ。何熱くなってんのさ?」涼しい顔で、俺の袖を引くなっ!ああ、くそっ・・・・

「・・・おまえが、幼なじみで今日ほど嫌な日は無いよ。・・・この子が、アレックス。トンボって呼んでる。 トンボ、博士だ。 ジェームズ・ビンセント博士。」

博士は感慨深げなハシバミ色の目をトンボに向けた。「全く同感だね初めて気が合ったな。ほう、君が・・・私は人づてに君を助けたにすぎない。君達は人類の希望なんだ。今日は、君にとてもいい人を紹介しようと思ってね。」
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# by f-as-hearts | 2005-03-05 21:39 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
       <招待の意味>

その屋敷の中は、綺麗な調度品で見事な調和を保っていた。全てのインテリアは綺麗に磨きこまれ、応接間に続くフロアには大きな柱時計。ちょうど3時を指していた。「・・・これは、由緒正しいものだ。18世紀に私の祖先が女王から頂いた、と聞いている。」好奇心の塊と化したトンボは次々と部屋を覗いて新しい発見に、興奮していた。

「ねえ、これってボアの剥製だよね?アルビノじゃないか!白い動物は昔、神の使いだって言われてたんだよ。凄いや!」俺は、気の無い返事を繰り返して、これから誰と会う羽目になるのか、考えていた・・・・

「サー・ジェームズ、お茶のご用意が出来ました。」いつの間にいたのか、影のように白い髭の映画でしか見た事が無いような執事という人物が、博士に勧めた。「・・・そうですか、では、お二人に先に・・・」「わかりました、どうぞ、お客様。」・・・執事はテーブルのお茶をカップに注いで、手馴れた仕草で、クッキーも取って前に置いた。「どうぞ、お先にお召し上がり下さい。冷めないうちがよろしゅうございましょう。」すぐに執事は下がると、部屋の隅のドアの傍に立っていた。

俺達は ややしばらく、紅茶の香りにつつまれた。「・・・イギリスっていつもお茶するの?」うんざりするのも飽きてきたので、少し答える気になった。「そうだな。貴族だけじゃなくて、庶民もお茶の時間はあったらしい。ダージリン・ティーとか、オレンジ・ペコーとかな。こいつは、植民地時代に最高級だといわれたヒマラヤに近い地方の紅茶だろう。最高級のダージリン・ティーだな。」ズズズーっと音を立てて飲み込んだ。向こうで、コホンッという咳が聞こえた。

「お待たせしました。紹介しましょう、彼女が・・・・・・」ドアが音も無く開いていて、博士と女性が立っていた。俺達は、振り向いた。「お二人に、守って頂きたい女性です。彼女は・・・・・」少し、女性の方に目線を向けてから、ゆっくりと言った。

「私の、最高傑作です。」

・・・・俺は目を疑った。そこには、黒髪のいかにも日系人と白人のハーフのような容姿をした、絶世の美女が立っていたのだ。「・・・うわっ」トンボも驚いている。モデルかミス・インターナショナルか、そのどっちだとしても、そんな人が博士の後ろに現れる意味が分からなかった。彼女はにっこりと微笑みながら言った。

「オヤジとガキがジロジロ観てんじゃねえよ!ふざけんな!」・・・・・・・悪夢がここから始るのだと、すぐに理解した。

「おまえ、ななな、なななんだ、あああああ、あれは!!!」博士に詰め寄ると、俺は久しぶりに気が動転していた。「おおおおまえ、あんなもの、あんな!」「落ち着いてください。だから、今から説明しますよ。まあ、紅茶のカップを置いて下さい。」

        <笑う マリア様>

薄く淡いモスグリーンのジョーゼットの上品なワンピースから、すらりと伸びる白い手足。つやがあってストレートな黒髪は肩先を軽く超えて、柔らかそうな胸の辺りまで。高すぎず低すぎない小さい鼻、瞳はアーモンド形で、まつげはまるで人形のように長い。瞳の色は、その、瞳の色は・・・・光線の加減でエメラルド・グリーンに見えるのだ。 その姿は、教会に描かれたマリア様にも似ている、そう思った。 昔、幼稚園のチャペルに描かれていた、マリア様に・・・・・

「・・・彼女は、私の最高傑作なんだよ。私が、創った、アンドロイドだ。」紅茶を口元に持っていく博士の手が、少し揺れた。

「・・・アンドロイドについては、説明はいるまいね?アンドロイドは、ロボットとは違う。人工の生命体だ。彼女は、ある人の依頼を受けて創られた。その人との約束の期日に彼女を渡して欲しい。・・・それ以上は、依頼主との約束で話す事は出来ない。全て彼女は理解している。・・・トンボ君、君の研究対象には、なりそうかね?」

そこまで、一気に言うと、博士は紅茶で濡れた口髭をハンカチでふいた。トンボが何かを言う前に、俺は1番疑問に思っている事を、口にした。

「あんたは、考えてる事を全部隠す癖があるのを、俺が忘れてるとでも思ってるのか?俺があんたから、ただの[お使い]をいいつかったなんて、思うと思ってんのか?いいか、俺はあんたの所為で、死線を何度もくぐってきたんだぞ!いい加減、本当の事を話したらどうだ!!!」

博士は、ちらっと俺の顔を見ると、付け足した。「私は、馬鹿ではない。君を選ぶのは、だから、当然なのだ。」こちらが、一瞬考えたのをいい事に、トンボは割り込んできた。

「面白そうです!いいんですか?博士の許可は、絶対ですよ?」こんなに目がぎらぎらしたトンボは初めて見た。「アンドロイドなんて、最高!!!僕、いつか絶対アンドロイド創ってみせるよ!」       なんで、そうなるんだ?!

彼女はにこにこ笑っている。頼むから、口は開かないでくれ、喋らなければマリア様なんだから。

「ああ、それから・・・・」博士は思い出したように続けた。「彼女を通して、私は君達を観る事も出来るし、話す事も出来る。君達からこちらを観る事は出来ないが。それを伝えておかないと、不公平だろうし。まあ、連絡はこれで大丈夫だろう?」

・・・俺は、文明って奴がとんでもない男を作ってしまった事を呪った。彼女の口から、博士の声が流れるのを、想像できるか???

「・・・頼むから、普通に携帯を使ってくれ。もう、これ以上俺の頭を混乱させないでくれ、いいな?」・・・博士の眉毛が動くのを、俺は酷い気分の中で見ていた。

      <トンボの初恋>

俺とトンボと彼女は、車に乗り込んだ。車内のミラーに映る彼女の顔。夕日が斜めに射し込み深い陰影をつくり、まるで彫像のようだ。トンボはもう彼女の隣りから片時も離れない。まるで恋人のように見つめたっきり動こうともしない。

「・・・初恋だって、そこまで重症にはならないぞ?トンボ、お前大丈夫なのか?」トンボはポーっとしたまま、生返事を返した。「・・・大丈夫って、何が?」「・・・いや、いい。」

車は、アパートメントの駐車場に止まると自然とエンジンを止めた。・・・つまり、この車と、彼女は原理は同じなんだよな。何一つ、ロボットと変わらないじゃないか。なのになんだ、このイライラは。人間は神様が自分に似せて作ったかも知れないが、出きそこないだ。人間は神に挑戦しているのか。・・・何か、嫌な予感がして俺は頭を振った。馬鹿な事を。博士は気が狂ったに決まっている。慌しく、二人をアパートへと上げて、今後の指示を待とうと言った。

テレビは完全に俺達にとって、ニュースを観る為の道具と化していた。トンボは彼女に最近の世界の動向を見せて、どうも反応を知りたいらしい。何に興味を持って、どういう反応か、感情の流れは果たして存在するのか、エトセトラ。もう、彼女の行く先にも博士の不可思議な言動にも、興味が無いとばかりに、彼女自身を解明する事に命懸け、そんな感じだった。

「・・・次のニュースです。最近多発するネット犯罪に関与している国際テログループ、[レッドシャドウ]は、今日未明、アセアン諸国のネット通貨規制に対して、規制外しのウイルスをばら撒くと各国を脅迫、一時通信が不通となる大混乱となりました。この事件が発覚してすぐにインターナショナルセキュリティーサービス代表取締役のロイド・ウェーバー氏は全世界に向けてインターネットをすぐにセキュリティーへ接続するように指示、全世界の約40パーセントの人がそのウイルスをブロック出来た、と発表しました。現在、同社は[レッド・シャドウ]を特定する事に成功したので、近じかインターポールに情報を提供する用意があると述べています。・・・」

「こんな情報は、興味ある?」トンボは嬉しげな顔をして彼女を見た。「僕のところも、ウイルスは大丈夫なんだよ。君は、ウイルスは怖くないの?」

彼女はトンボを見て、それからテレビを見たが一言、こういった。「人間が、考えうるウイルスは全て、ブロックできます。私は特別ですから。」俺は、腹が減ってきたのを思い出して、トンボに言ってみた。

「ウイルスよりも食えるものの方が俺はありがたいね。今日は相棒、お前が当番だったはずだが?」トンボの答えは当然予想がついていたが。「僕は忙しいんだ、ご飯なんかくそ食らえ!こんなエキサイトな出来事を目の前にして、よくご飯なんか、のどを通るよ?!どういう神経?」

「いや、普通の神経。・・・じゃあ、お前は食べないんだな?OK、ちょっと買い物してくる。」・・・・これは、暫く厄介な事になるなと、またしても 1人の寂しさを感じながら、アパートを出た。
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# by f-as-hearts | 2005-03-04 21:57 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
        <情報屋>

もう、どの街角にもコンビニエンス・ストアが立ち並び、いうなれば昔の「ミニ・トーキョー」が世界中に拡大したという感がある。何故、コンビニが生き残ったか?それは完全な住み分け、二極化が進んだ結果だ。つまり、「大型直営問屋店」と「コンビニ店」。大量な仕入れ量販と、細分化。人間はどうも、2種類に分けるのが好きらしい。

すっかり日が落ちた。いつもいくコンビニを通り越して、1本通りを横道にそれた。そこは、もう東南アジアの料理店の看板が所狭しと掛かっている、賑やかな通りだ。屋台も怪しげな親父も
飲んだくれた客も、ここだけまるで20世紀だとでもいいたげな、原色の世界だ。

「あら、リョウじゃない。なんだ、アンタ生きてたの。・・・ちょっとお、ほら、シャッキングが来たわよう。」

崩れた「自称マリリンモンロー」だというクラブ(どこが?)のママが外で手を振り回して近づいた。掴まれた手が痛い。
「ママ、ひさしぶりだな。また筋肉増強したのか?」誉め言葉だ。にやっと笑って、「なによ、アンタまた痩せたんじゃない?!ダメよ、男は筋肉で語らなきゃ!そんなんじゃ、私を落とせない
わよ?」「・・・・待ってくれ、そんなに俺は今元気じゃないんだ。」

「なあんだ、遊ばせたろうか、思ったのに。冷やかしはお断りよ。」
ケラケラ笑いながら、バンバン叩く。「いるかい?」そう言うと、ママはまたもやニヤッとして離れた。「あーあ、仕事馬鹿!」

クラブは名ばかりで、カウンターがあってその他には一組のテーブルと、マスターがいた。「よお、生きてたんだ。」マスターは歳は不肖だが、見た目は60歳はいってそうだ。深い皺が刻まれた顔にそれでも生きる事に貪欲であろう目が光る。「今日は何だ?」

マスターは情報屋だ。こうみえても、その昔闇ルートのマフィアの大物達を相手に情報合戦で出し抜いて1つのシマを潰した事が有る程の広い情報網を持つ。経歴は知らないが、どっちみち危ない世界の人間だったのだろう。今は巧妙にIDを書き換えて他人になりすましている。どうも、行方不明者のIDを使ったらしい。

「リョウ、気になる話を訊いたんだが。大統領選があるらしいぞ。」
「確かまだ8ヶ月しか経ってないだろう?大統領就任から・・・・」
「・・・・・狙われてるんだよ。危ない奴らに。あの、[レッド・シャドー]にな。」「ネットオタクどもに、何が出来るんだよ?!そんなのは、ガセネタだな。それの元ネタの出所はどこだ?」マスターは首を回して、テレビを見た。途端に、スイッチが付くと画面には大写しでインターナショナル・セキュリティーサービス代表が映った。

「あいつ、だよ。あいつが、大統領のホットラインにアクセスしたんだ。」

     
        <ロイド・ウェーバーという男>

テレビ画面にはにこやかに手を振る、ロイド・ウェーバー代表取締役の顔があった。

「なんだって?何を証拠に・・・・」ドン、と マスターは年代物のスコッチのビンを置いた。

「こっからは、有料だ。・・・買うのか?買わんのか?」鷹のように鋭い眼光は、笑ってはいなかった。「・・・・損はしないんだな?このネタは?・・・・いいだろう、いくらだ?」指を2本。200ドルか。カウンターに金を置く。

「毎度。・・・・まあ、これを見てくれ。プロファイリングだ、大統領の。それから、このニヤケたロイドの。・・・いいか、これはプロのプロファイリングだ。これが、昨日の二人の行動、そして電話。ここから心理の追求が始まる。まず、この、ロイドだが、かなりの目立ちたがり屋だ。常に自分より背の低い地味な男の秘書を連れている。

そして、行動は注目度が高い順で優先順位をつける傾向がある。まず、記者会見、それは1番視聴者が多い時間帯に、カメラの放列があるような目立つシチュエーションでなければならない、というような。そして、今回の[レッド・シャドー]を捕まえるべきだ、という目立った政治的発言。これは、将来政治の表舞台に立つ為の布石だということだ。そして、大統領に進言するなんて、オイシイ役目を別の誰かに譲る訳が無い。

それで、奴の電話の時間を細かくチェックすると、大統領の電話時間と一致した訳だ。」そのプロファイリングは、確かに間違いない代物だった。・・・その仕事には覚えがあった。

「・・・リンダの仕事だな?」スコッチを、切子グラスにかっちりダブル、注いでこっちによこした。

「そうさ、腕は鈍っちゃいねえな。彼女が、フリーになって、命拾いした野郎どもは100人はくだらねえな。それで、あとは電話がどんな内容か、だが、ロイドは側近に自慢したくてしょうがない奴だから、簡単だったらしいな。」自分もスコッチをぐいっと飲み込んで、今度はミネラルウォーターを出してきた。

「お前、このネタは他に流す気はないだろうな?」マスターは少しいぶかしげに訊いた。「・・・・ああ、まだ何が出て来るか判らないからな。」軽くうなずくと、水を2つのグラスに注いだ。

「・・・・いつもの事だが、ここを出たら、もう二度と会えないかも知れんのだからな。いいか、忘れるな。・・・お前の 勘を 信じるんだ。」  マスターは、いつも帰る時にウォーターを飲めと勧める。日本人の、別れの杯だという。俺は、気に入っている。・・・そのまま、その店を後にすると、コンビニへ急いだ。


        <謎につぐ 謎・・・>

コンビニでの買い物はすぐに済んで、アパートメントに戻ると、二人の笑い声が聞こえてきた。トンボはここ数年見せた事が無い位の満面の笑顔で、リョウにも笑いかけてきた。

「ねえ、聞いてよ、リョウ!彼女ッたらさあ、変な事ばっかり覚えてるんだよ!僕達に言った言葉あれは、丁寧語だと教わったらしいよ、あ、ありえない~!」腹をよじって笑っている。彼女もなんだか可笑しいらしい。

「博士は特別な挨拶だ、と言ってました。特別でしたね。」少し、冷えた体が溶けてゆくようだ。「ほら、食え!ディナータイムだ。」ぽんぽんとサンドイッチを投げ、硬くなったから揚げも投げた。

「それから、博士は彼女に自由も与えていたんだ。」トンボは彼女がサンドイッチをどうするのか、ジー――っと穴が開くほど見ながら話している。「つまり、好きな時に情報を学習をする自由。」彼女が美味しそうに食べるのを見て、満足げに言った。

「やっぱり、博士は凄いや。僕なら、決まった生活パターンしかインプット出来ないだろうし。生活させるだけだって、もの凄い量のデータが必要な筈だよ。」あっと言う間に食べ終わると、彼女に質問を始めた。「君さ、何をしている時、満足する?」何か、考えるような目をこちらに向けて、彼女は言った。

「満足、出来ないのが私の性格なんです。何をしていても、足りないって思うわ。」はあ、彼女が喋りだすと緊張するのは、最初が悪かったからだろうが。普通に喋れるなら、そういう風に作ればいいものを・・・・「満足できない性格!!!いいなあ、理想的だなあ!!!」

何を聞いても喜んでいるお前の性格の方が、俺はいい奴だと思うが。「それで、今回の仕事の件では、何か解ったのか?」俺は、そろそろ本題に入りたかった。「彼女は知ってる、そう言っていたよな?」

「私は、依頼主の事は話すな、と言われています。ただ、その人とは3日後の4月17日にある場所で会います。それまでの事は、なんでも話していい事になっています。」
「場所は、どこなんだ?」「ロサンゼルス、ロイヤルグランドホテル。19時。」「!トンボ、検索!」

「わかった、ちょっと待ってよ!」・・・・・・・・・「ああ、あった、その日のロイヤルグランドホテルの予定は・・・・なんだって?貸切?ええ?その件での問い合わせ件数が、12744件??何?これ?」「その日は、ファーストレディーの誕生日で、パーティーが行われるんです。」

一瞬にして、空気が変わった。彼女に聞く事が山ほど出来たが、それどころではない。
「大統領夫人!!!そこで、君が依頼主と合うって言う訳?じゃあ、そんなに落ち着いていられないじゃないか!!」トンボはこの事をどう考えたらいいのか、すばやく処理始めていた。
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# by f-as-hearts | 2005-03-03 22:22 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
        <アオイ>

さっき、あのマスターと話した事が、あまりにも符号が合いすぎる。そんな馬鹿な!まさか彼女を創る様に依頼したのが、大統領だとでも?!そうなら、大統領自身がもっと安全、かつスムーズに事を進めるだろう。俺に頼む事もない筈だ。

「・・・ジェームズ!くそっ!博士の仕事はこれだから引き受けたくないんだ!!こんな、最初ッ~から謎だらけの仕事、今すぐキャンセルだ!!」怒りが込み上げてきた。アイツの眉毛を全部引っこ抜きたい気分だ。

「無理だよ、もうアパートメントの溜まった家賃、ぜーんぶ払っちゃったんだから!」PCを操りながら、冷静に答える割には、目はくるくる画面上を動き続けている。「勿論成功報酬は、まだだけど。金額、知りたい?」「・・・・・いや、いい。・・・・・どうせ、返せる気がしない。」何故、あんな奴と幼馴染なんだ?「それより、何故彼女は作られたんだ?アンドロイドが何故必要なんだ?」そもそも、何が特別で、どういう風に彼女が最高傑作なんだ?・・・・

「博士、聞いてるんだよな?今すぐ、携帯に電話してくれ!話によっちゃあ・・・・」気色ばんで言いかけると、すぐに携帯が鳴り始めた。

「お前の仕事は、キャンセルだ!!全部、お前の隠している事、全部話せ!!」思いっきり叫んだ。トンボも彼女も、あまりの怒声に、耳を塞いでいた。

・・・・電話の向こうの博士は、携帯を耳から遠ざけて持っていたので、事無きをえた。

「君の訊きたい事は、依頼主の問題に言及する事になる。ので、答えられないし、キャンセルは出来ない。質問には答えよう。」何を訊いても、きっと依頼主の話に直結してしまう。考えろ、考えるんだ。

「・・・・・そういえば、彼女の名前を、訊いていないな?」博士は、一瞬、目の前が暗くなった。「・・・・・アオイだ。・・・・・」その名前を、どこかで聞いた覚えがあった。どこだ?・・・・・
「アオイ、あおい・・・・・・葵!!アオイというんだな?!」博士は、呟く様に言った。「・・・・そうだ、アオイ、という。彼女の名前だ。」プッ・・・・・・携帯が切れて、静寂が訪れた。

「どうしたの?アオイが、どうかした?」「トンボ、確かにアオイって博士は言ったよな?」
「アオイっていうのは、博士の奥さんがつけた名前だ。・・・・亡くなった奥さんが、女の子が生まれたらつけようと思っていた、名前なんだよ・・・・・」

・・・・博士は、静寂の中に、ひとり取り残された。博士は、珍しく独り言を言っていた。
「やはり、お前は勘がいい。私の目には狂いが無い訳だ。」博士は、椅子を離れると、階段の上の踊り場に掛かる肖像画を見上げた。「・・・ジョリーン、君が居てくれたら、私はこんな事は考えもしない男だったんだが。私は、気が狂ったんだろうね。」肖像画の女性は静かに微笑んでいた。

・・・・リョウはアンドロイドをじっと観ていた。博士のアオイに対する想いは半端ではないだろう。そして、この任務、アンドロイドにしか出来ない事とは、一体なんだ?そもそも、何故博士はアンドロイドを作るようになったんだ?・・・謎だらけだ。流石に、俺には1つも解りそうに無い。

「・・・・疲れたから、今夜は寝よう。お前達も、オセロなんかやめて、早く寝ろ!」二人は終わらないゲームを見るように4手目から動かなくなっていた。「ああ、時間制限付きにするよ、今度は」そうしてくれ、プロのゲームの緊張感はたまらないよ、全く。二人が寝たのを確かめて、俺は古いアルバムをPCの中に探した。そこには、博士と自分と、ジョリーンが写っていた。

      <ジョリーン>

「あなたは、日本人なの?よくこの授業をすっぽかすわよね?」明るいブロンドのロングヘアーを無造作にゴムで結んで、木の下に寝転んでいる俺の顔を覗き込んだのが、最初の出会いだった。

ジョリーンはよく通る大きな声で笑う、俺が日系人なのも気にしないし、むしろやたらと俺に絡んでくる。その頃、彼女と博士、いや、ジェームズは大学で首席を争い、また、二人は付き合っているらしいと、噂になってもいた。だが、そこになぜか、落ちこぼれの俺が入ってしまった。奇妙な三角関係だ。

「バミューダ・トライアングル」とか、俺達の事を皮肉る奴らも居た。謎は、ここから始っていたんだな。何故、彼女は俺に色々な話をしていったんだろう・・・・。

「ねえ、聞いて。リョウ、私はジェームズに尊敬と一生の愛を誓うけど、リョウ、あなたには、彼からは貰えないものを貰ったわ。それは、ときめきと自分が女だという気持ちよ。」

鮮やかに、そういってウエディングドレスの彼女はジェームズの待つ十字架の前に、歩いていった。・・・そうだ、俺は確かにあの時の彼女に、言えなかった言葉があったんだ。

・・・その後も、俺達は何度か会った。その頃だな、アオイという名前が好きだ、っていうのを聞いたのは。彼女は、「ジェームズは研究になると、周りが見えなくなるのよ。私の[脳神経科学]と彼の[精神科学]を結びつけて、不可能に挑戦しようとしているの。」といいながら、溜息をついていたっけ。それから・・・・・

「私達、子供が出来ないみたい。昨日検査結果が出たの。」そういいながら、俺に泣きついた。ジェームズが、俺との仲を疑いだしたのも、思えばこの頃か。疑いは、膨らんで、とうとう彼女は家を出てしまった。

そして、その後彼女には会う事も無く、彼女は交通事故死だったと聞いた。今から、8年前・・・・
そして、探偵をしている俺に博士からの仕事が時々入るようになったんだ。トンボの事とか。
・・・彼女の瞳の色は、エメラルド・グリーンだったんだ・・・写真の彼女は、永遠に21歳のまま、微笑んでいる。・・・・俺は最後に彼女を抱きしめた感触が甦ってくるのを感じた。アオイを守ってあげて・・・まるでそう、言っているように。

          <そんなバカな!>

明け方、まだ日が昇りきらない刻にジョリーンがベッドの俺の腕の中に滑り込んで来た。白い肌がほのかな明かりの中で煌めいている。ほのかなグリーン系の香水が彼女の胸元から首筋にかけて脈打つように香っている。俺は自分の日焼けして浅黒く見える肌に擦り寄ってくる体を、奇跡を見るような気持で眺めた。

夢だ・・・・じゃあ、何をしたっていいわけだ。何もまとっていない、その体を思いっきり抱く事も・・・手が、伸びてその肩先に触れようとして・・・触れた。

「え?」いきなり、脳に血が昇って、沸騰しそうになった。「・・・・・・あ、アオイ!?」

そう、アオイだ。彼女は催眠術にかかったように、目がすわっている。

「おい、アオイ、寝ぼけているのか?」「寝ぼけては、いませんわ。学習したんです。」

その答えに、俺はすっかり目が覚めてしまった。「俺で試すなよ・・・あいにく、理性があるんでね。俺はトンボのような訳にはいかないぞ。」危ない、危ない。どんな「学習」をしたのやら。エロドラマでも観たのか・・・しかし、何故こんなにイライラするんだろう。

「いい子でいろよ、お前は大事な最高傑作なんだろう?」アオイは首を横に振って否定した。「そのうち、私の事は忘れるでしょう。そのほうがいいんです。だから・・・・・・・」なんだか、アオイが可哀想に思えてきた。「お前は、何も知らないんだな。俺はお前を守ってやるよ。いいボディーガードは、守る相手に惚れてはいけないんだ。解ったか?」今度は少し頷いた。そして、安心したのかそのまま俺の前で、すやすや寝てしまった。

「俺の、負けか、博士。なんてものを創るんだ、こんなマリア様がいてたまるか!」

その日は、3人で出掛ける事にした。車に乗り込むと、彼女の洋服や雰囲気が俺達とは全く違う事に嫌でも気が付いた。「これじゃあ、アオイが目立ちすぎるな」そう言って、後部座席のアオイを見ると、スカーフを被って、鼻の下で結んでいる。

「お、お、おまえ、何のつもり?」「目立たないように、変装を」「余計目立つわ!!!やめんか!!!そんな事ばっかり仕入れて、おまえは、お前って奴は!!!」トンボはまたしても、笑い転げている。

「それって、もしかして、ドロボースタイル?それも、日本の?!あ、あはははははは!!!」・・・ああ、マリア様、俺達をお救い下さい。この、アホなアンドロイドの脳みそをどうか真っ白にして下さい。    「博士~覚えていろよ!」


       <アンドロイド>

俺達は、兎に角彼女の格好を何とかしなければならなかった。それで、馴染みの店に入ると洋服を3Dで合わせてどんどん着替えさせてみた結果、リーバイスのジーンズにぴったりした合皮のカットTシャツが合う事が分かった。

店員が「お似合いですよ~」と言う言葉に「お世辞どうもありがとう」と言ったのを除けば、変な所はもう無かった。

今日は、その後朝食を 中華街で中華粥を食べ、動物園でサルをからかい、隣接した公園の草っぱらで、走り回った。柔らかいボールを買ってキャッチボールしたり、レインボーソフトクリームを買って来て食べたりした。その間中、アオイもトンボも大騒ぎで転げるように遊んでいた。

俺は、アンドロイドを今まで知らなかったから、どこかに[人間もどき]という偏見があった。こうして自然の光の中で彼女を観察して、どこか人間と違う所がないか、探していた。ところが、そんな考えを捨てるしかないという結論に辿り着いた。

俺は、今度こそ、アンドロイドの真実を博士から訊かねばならないと思った。

「トンボ、アオイ、そろそろ光の遮光効果が切れる頃だ。アパートメントに戻るぞ。」残念そうな顔の2人を連れて、車に戻ると若いカップルがこちらを見ていた。「僕達、どんな風に見えるんだろう、親子かな?」トンボの嬉しそうな声に、あいまいな返事をしてアパートに急いだ。

2人を置いて、俺は車に乗り込んで行き先を訊くナビは無視して、博士に電話をした。「そろそろ電話してくる頃かと思っていたよ。」「わかっているなら、話が早い。あんたの研究について教えて貰いたい。アンドロイドは何故必要なんだ?」「・・・・架空の話にしか聞こえないだろうな。いいだろう、これから言う所に向かってくれ。そこに、答えがある。」

車で向かった先は、大通りの銀行の隣りにあった。大きなジュエリーショップだ。おいおい、俺がここに入るの??見ると、店の中から一人の店員がドアを開けて、リョウを招き入れた。

「ようこそ、お待ちいたしておりました。ミスター・リョウ、博士より伺っております。」何を伺ったというんだ。兎に角、すぐに店の中に入って、誘導されるままに奥に進んでいった。
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# by f-as-hearts | 2005-03-02 22:36 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
         <疑惑>

店員は訊きもしない事をぺらぺら喋る。「当店には、オードリー・ヘップバーンが身に付けていたので有名なダイヤのネックレスがございまして、勿論飾られているのは、レプリカで御座いますが、レプリカと言えど2000ドルの値打ちが御座います。それから、こちらの階段を下りて頂きますと、さらに貴重なコレクションが御座いまして・・・・」

他の店員は、ちらっとこっちを見たが、さして注意を払っていないようだった。いかにも上流階級の奥様が、ハンサムな男性にエスコートされて宝石を見ている他は、誰もいなかった。

階下に降りると、店員は声のトーンを落として話しかけて来た。「ミスターリョウ、この先で観た事は他言無用に願います。私達もまだ死にたくはありませんので。」そこには、厳重なロックが掛かったドアがあった。店員はその前に立つと、指紋と声、網膜の3つの鍵を次々に解除して、リョウに入るように促した。その中は、少し照明が暗く感じられたが、慣れてきたらよく見えるようになった。

そこには、美しい男女が3、4人何か話しているようだった。しかし、なぜか生活感がない。「・・・まさか、彼らは、アンドロイドなのか?」
「そうです、もうご存知のようですからご質問をどうぞ。」美しいのはいいんだが、変な感じがした。
「アンドロイドは何故、創られたんだ?」1つ目の質問。

「えーとですね、それは人間の遺伝子が、太陽によって傷つけられるという大問題が起ったからで。確実に、精子が少なくなり、卵子は老化しだしたんです。それは、あまりにショッキングな内容だった為、全世界規模の規制がかかりました。それで、国は一部の研究者による[脳科学]の大々的な研究テーマを支援し始めたのです。つまり(自分の分身を作る)研究ですね。」

「それが、アンドロイド?!それのどこが、分身・・・あ、」そうか、博士はアオイを通して俺達の事を観ていて、話も出来るんだ。そう、脳みそを借りて。アンドロイドは自分で動き、考える事も出来、主人の手足になる・・・・。

「そうです。将来、自分が寝たきりになっても、アンドロイドの観たもの、聞いたもの、味わったもの、それが部屋にいながらにして、感じられるんです。アンドロイドの皮膚は太陽に負けませんから。究極の話をすると、体が無くなっても、アンドロイドに脳を移植する事まで研究中です。」

俺は、開いた口が塞がらなかった。そんな事が・・・いや、あのマッド・サイエンティストなら、やりかねない。だが、アオイの事を考えると、そんな筈はない、そんな事の為に彼女を創る訳が無い、そう思う自分もいた。

博士が、アオイを誰かの分身に??「・・・嘘だ。」妙な自信があった。

       <インターナショナル・セキュリティーサービス>

リョウが宝石店に入っていったのと、同時刻。
インターナショナル・セキュリティーサービスのロイド・ウェーバーは、彼の右腕と言われているミスター・ライトに今後の計画を確認していた。
「ライト、レッド・シャドーの件は?」「大丈夫です。問題ありません。」ピピピ・・・・
「大統領は、疑っていないだろうな?」「大丈夫です。問題ありません。」カチャカチャ・・・・
「博士の方は?」「大丈夫です。問題ありません。」ズー―――
「探偵の方は?」「大丈夫です。問題ありません。」シュッシュッ・・・
「・・・お前の頭は?」「大丈夫です。問題ありません。」カクカク・・・

ロイドはライトに文句がある訳ではなかったが、問題ないという答えが気に入らなかった。だがそれだけなので、「問題ない事」には満足していた。
それぞれに、対処はしている、計画通りと言う訳だ。面倒くさい事は、考えるだけ無駄、そんなのは考えるのが趣味の、根暗のオタクどもに任せておけば良かった。
「ファーストレディーへの、花束は贈ったか?」「大丈夫です。問題ありません。」チッチッ。
「ホテルの方の準備は大丈夫だろうな?あれは、来るんだろうな?」「大丈夫です。問題ありません。」カリカリ。
ロイドは満足すると、アンドロイドの写真を広げた。「ふ、ふ、ふ。は、は、は。もう、あとは網に掛かるのを待つだけだ。これで、俺は世界の半分を手に入れる事が出来る。アンドロイドさえいれば。はははは・・・・」 椅子を回転させながら、アンドロイドの写真をばら撒いた。


同時刻。 大統領は博士にPCで招待状を書いていた。

  親愛なる サー・ジェームズ博士。

 我々の パーティーは 是非とも成功させたい。私の願いが叶うかは、

 一重に博士の その素晴らしい作品の出来にかかっている。
 
 パーティーが大成功のうちに終わらん事を祈る。
  
                      
                 アメリカ大統領  バーナード・バルーク

              <うそ?!>

「嘘だ」と言った途端、店員はスイッチが入ったように無表情になった。「どうかしたのか?」

「・・・・困った人だね、君は。この店員は私が与えた知識を忠実に話しているだけだ、というのに。嘘など言ってはいない。」彼の口から流れてきたのは紛れも無く博士の声。

「ジェームズ!?こ、こいつもアンドロイドなのか?!」「そうだ。人間はこの病んだ世界でどうにかして生きてゆく可能性を探し続けているんだ。環境もそうだが人間が子孫を残せなくなる未来だけは、避けねばならない。環境が元に戻るまで外での生活を諦めねばならないとしたら、外の世界の自分の分身を人間の姿に近づけたい、と思うものなのだよ。神が人を創ったように。」

その言葉に愕然とした。「・・・・ジェームズ、お前アオイに恐ろしい運命を用意していないだろうな?」「純粋に、研究の為だ。もう、質問は終わりだ。」

パチッ・・・「お話は終わりましたか?ではここを閉めますので。」急に明るい表情にスイッチして、店員は微笑んだ。「今日からここは当分の間、閉鎖されます。ご来店ありがとう御座いました。」

インターナショナル・セキュリティーサービス(I・S・C)の持つTV局で特に最近人気のある番組が、「違反でショー!許さないわよん?!」というもの。特にあらゆる犯罪を「捕まえちゃって!」と一般市民の意識向上(?)に一役買っていると言って憚らないオカマ言葉のアナウンサーは、今日も絶好調だった。ネット上でもテレビでも、感情丸出しのコメントに一部批判もあったが、みんなスッとする!良くぞ言ってくれました、と人気爆発中だった。

「さあ、今日もイッちゃうわよ~、もうもう、どーしてゆうこと訊いてくれないのかなあ!ほーら、こーんなに溜まっちゃってるじゃなーい!反則切符~い~い~私にかかれば、すーぐ解決!これから言う悪者さん達、捕まえちゃってぇ!キャーいいお・と・こ!なによ、駐車違反?!ダメよ~それじゃなくっても車社会なんだから!それ、こいつ。リョウ・ロバートソン!あんたもっといい車乗りなさいね!捕まえてこの番組に連絡ちょうだあい。さて、次いくわよ~いやー女じゃない?!何したのよ、ええ?許せなー―――い!結婚詐欺~~!死刑よ死刑!」

番組を観ていたトンボとアオイは顔を見合わせた。「駐車違反で全国指名手配?!」
リョウは、急に寒気を覚えて、くしゃみをした。


        <逃亡!>

リョウが店を出るとすぐに携帯が鳴った。「リョウ、大変だよ、駐車違反!セキュリティーサービスが動き出した。あのテレビ、違反でショーに出ちゃったんだ!」「なんだって?!」

ヤバイ、あれは昔で言うなら賞金稼ぎどもの為の、公開違反取り締まり番組だ。賞金のランクは駐車違反が1番低いが、マズイのは・・・・・「まずいよ、誰でもリョウの事を狙っていい事になっちゃう。隠れてスナイパーも動き出すかも!逃げて――――!!」

「分かった、お前達も隠れているんだ、いいな?」これだ、もう俺達の事を嗅ぎつけたんだ。やはり、ロイドは怪しい。アンドロイドの事を知っているのか?

周りを用心深く見回す。何事もなかったように、車に乗り込むと、いきなり車の前に若い男が張り付いて来た。「ハ~イ、見~つけた!!リョウさん、鬼ごっこは終わりだよ!!」

冗談!俺は誰とも鬼ごっこなんかする気はない。有無を言わさず、バックにギアを入れると速攻で振り落とした。オートモードを切ってそのままスピンするように回転すると、反対車線の車と紙一重ですれ違った。

パパパパパ!!!!!!凄い喧騒が湧き起こったが、ここで誰かとやりあう訳にはいかない。「どーも!」さりげなく怒鳴ると、ギアをいきなりトップに入れて、すぐ大通りの角を曲がり、そこからまたジグザグに角を曲がっていくと、郊外に出る道路に出た。

この時代幹線道路は全て有料だが、通った事は自動で車のコンピューターから送られてしまう。「しまった、これじゃあすぐに俺の居場所がわかっちまう。」ハンドルを切ると、この道路からはずれる道を探した。と、すぐに新手の賞金稼ぎが車で追いかけてくる。今度はさっきの奴とは明らかに違う。2人組で、助手席にいる方は銃を構えていた。「へっ、若造が!何血迷ってるんだか!」

カーチェイスが始って、相手の車は俺のより性能がいいのが分かっているから、余裕で近づいてくる。大体、次にやりそうな事は分かってる。タイヤを狙ってくるのだ。充分に引き寄せて、いきなりブレーキ、そしてスピンターン、相手はバランスを崩してビルの壁にぶつかった。

「はい、ごくろーさん!」まともに銃を撃たれたりしたら、たまらない。俺はまだこの車のローンを払ってるんだぞ!暫くしたら、真っ赤なスポーツカーが後ろから追いかけてきた。おいおい、またかよ、とミラーを覗いたら・・・・

「ハーイ、ナンパされたくな~い?」と、携帯から声が聞こえる。
「げっ!!!」・・・・そこには、アオイがどうしたのかっていうくらい真っ赤な口紅を塗って車で手を振っていた。サングラスもしてるんだが、1970年代の尖がったサングラス。

「・・・・一体どこから???」ああ、考えるのはやめよう。どうせ、博士のさしがねなんだ。博士の・・・・・・
また、込み上げるものがあったが、今は兎に角無事にここを立ち去らねばならない。俺は車をパーキングビルに入れると、外で待っていたアオイの車に乗り込んだ。

「博士がこれなら逃げられるだろうって。運転は初めてだけど、面白いわ。」まるでその顔は古きよき時代の女優のようだった。・・・しかしその言葉に、すぐ運転を代わったのは言うまでもない。

「いいか、遊びじゃないんだ。お前に助けられて言うのもなんだが、こっちはこれからどうすればいいのか、頭が痛いよ。」・・・アオイには、頭痛なんてあるのだろうか?少しはあってもいいんじゃないか!くそっ。

車は、スピードを上げて、夜のとばりを走り抜けた。
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# by f-as-hearts | 2005-03-01 22:45 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
       <真夜中のドライブ>


車の中は、さっきまでの騒ぎが潮が引くように収まっていた。

静かなBGMは会話を邪魔しない音量。ここだけ見ると、デート中の男女としか見えないだろうが、どっちもお尋ね者なのだ。

「・・・実際、ここまで手段を選ばないってのも、驚きだな。博士は予想していたのか?」首をかしげて考えて、おもむろに「いいえ、危ない奴らだと、笑っていました。」「はっ!!どっちが!!お前をよこす博士の方が危険人物だよ。

・・そうだ、アオイは博士の事を、どう思っているんだ?」これは、我ながらいい質問だ。

「え。(思考中)・・・・・・・・・・・どう思うかと言う事を、今まで考えた事がありません。」「じゃあ、考えてみろよ。」「はい・・・・・・・・・(思考中)父親・・・・でしょうか?」ははははは!!そうらみろ、オヤジなんだよな~

「じゃあ、俺は?」「ボディーガードオヤジ」・・・・・・・・しまった。こいつの言葉につい、油断していたが、そうだこういう奴だった。俺は、自分で地雷を踏んで爆死した。

「ちきしょー、こうなったらもう何が何でもお前を届けて、キレイさっぱり博士と縁を切ってやる!!」

その頃、博士は食後のコーヒーを、思いっきり吹き出して、執事に怒られていた。

「何てお行儀の悪い。大奥様が生きていらっしゃったら、なんと嘆かれる事か!」「・・・・いや、すまない。人生というのは、面白い事も起きるものだね。いや、面白い。」自分の倍は生きているものだから未だに頭が上がらない執事だが、こんな面白い会話、聞けないのだから申し訳ないというものだ。   いや、今日はよく眠れそうだ。ありがとう、リョウ君。

「博士はこのまま、東へ行くルートを設定しています。どうしますか?」「いいぞ、だがその前にトンボを連れて行かないと。」「いいえ、トンボさんはもうそっちに向かっています。」「一人でか?!」「いいえ、なんだかお知り合いのようでしたけど?」

・・・誰かは、すぐに分かった。「リョウ、僕はもう着いたよ。誰が一緒にいると思う?」携帯の声は明るかった。「分からないな。」「リンダだよ、あの、元刑事で犯罪心理捜査官の。」

それで、トンボも安心していた訳か。リンダはトンボを助ける為に、俺と共に行動してくれた1人だ。「じゃあ、着いたらまた詳しい事を話すから。」俺は俄然元気が出てきた。やっと援軍が到着したのだ。彼女の行動には捜査で裏打ちされた隙の無い確実さがあった。

いかに疑われずに行動し他人の注意をそらすか、そういう事は彼女の十八番だった。これで、アオイを確実に届ける事が出来る。「アオイ、これで俺も良く眠れそうだよ。博士には感謝しないといけないか。」

なんだか、妙にアオイがうけているんだが?まあ変な奴だから、いいか。車は静かに倉庫の前に止まった。

            <秘密基地?>


倉庫は廃車された車の墓場の、隣りにあった。何世紀にも亘って車は人間を楽にさせてきたが、皮肉な事に車の排気ガスや中に使われていた冷却用のフロンガスが、人類の寿命を縮めたのだ。そんなガソリン車の墓場と隣り合っているのは、純粋に広い場所が欲しかったのだろう。「秘密に、研究が進められていくには、都合のいい場所」かもしれない。

中にはいってみると何もない。どこにトンボ達がいるんだろう、と見回してみると床にすこしホコリがずれたような跡が見えた。床を軽く踵で確認していくと床がスライドし始めた。携帯が鳴ってトンボが言った。「そこから入ってきて。核シェルターだったんだ、ここ。」

階段を下りていくと思ったより小さい部屋に区切られた場所に出た。奥に進むとやっとトンボのいる部屋に突き当たった。

「良かった!リョウが捕まる訳ないけど。ここは、博士がアンドロイドを研究していた施設だって。」ぐるっと見回しても、そんな形跡はどこにもない。流石というしかない。

「今は僕のコンピューターとかシステムの為の設備を全部、移動してもらったんだ。リンダのおかげだよ!」リンダが奥の部屋から、ずっと料理していたというような顔をして大鍋を持ってやって来た。

「久しぶり、ちょっとどうでもいいけど、これをテーブルの上に置いて下さらない?」リンダはサッサとスープ皿を並べると、そこに鍋に作ったパスタをトングをつかってあっと言う間に取り分けた。鍋をかたずけると、早速ディナーになった。「お子様には悪いけど、ワインは欠かせないわ。久しぶりの対面だこと。リョウ。乾杯!」「リンダ、君に会えて嬉しいよ。でも博士がよく君をよこしたな。」パスタはカルボナーラだ。ワインを飲みながら、そういえばリンダはイタリア系移民だったか、と思い出していた。

「私は、あなたには悪いけど、仕事をする人とは食事を一緒にするのが基本なのよ。食事をするとその人が分かるわ。この子達はまあ、合格ね。」リンダはそういうと、ワインをまた空けた。「リンダ、今回はセキュリティーサービスが彼女を狙っているんだが、その為には裏をかかないと・・・」そこまで言った所で、リンダの足が俺のすねをテーブルの下で蹴った。「食事終わったわね。デザートはスフレだけど、いいかしら?」

子供とアオイは隣りの部屋でニュースに見入っていた。俺達は、またワインを開けて、飲んでいた。「・・・さっきは、悪かったよ。ちょっと焦っているんだ。」リンダは別に気にしていない、という仕草をした。

それにしても、リンダは去年会った時とはまた雰囲気やスタイルが違った。去年までは確かロングヘアーを巻き髪にしていたが、今はかつらのようなショートボブだ。明るいブラウンのヘアに、少しふっくらとした体型をオレンジ系の重ね着の洋服がシャープにみせている。「あなたが、どうして関わってるかは知ってるから、気にしないで。博士の考えではあなたがいなかったら、この計画は最初っから無理なのよ。私は敵をかく乱する為に会場で仕掛けるだけ。ただ・・・・」ワインを持ち上げると、リョウにウインクした。「アオイには、大変な役ね。」

俺は、明日の予定を詳しく打ち合わせした。ホテルの間取り、出入り口、進入路、セキュリティーそれからパーティーの進行予定。「やはり、入るのは簡単だが、どうやって依頼主と会うかだな。」

リンダはにこりともせずに言った。「連れて行きさえすれば、博士が紹介する筈よ。」「博士は招待されているわ。直々に。私達は博士のゲストとして、登録されているのよ。明日はタキシード着用ね。」「アオイは?」「博士が用意しているわ。車の中にあるから、明日お楽しみにね。」


           <トンボの罠?>

朝、1番で皆を起こしたのはトンボの声だった。「やった、引っ掛かったぞ!イエーイ!」

なんだ、どうしたんだ?俺は、隣りに寝ているリンダを起こすと、トンボの部屋へ急いだ。

「見て!コンピューターに誰か触ったんだ。こっちのスクリーンに部屋の中の様子を映すよ。」確かにアパートメントの様子が映っている。2人の制服の男が苦しそうに床を転げ回っている。1人は鼻を押さえてドアを狂ったように引っ張リ始めた。

「・・・トンボ、一体どうなっているんだ?」リンダが慌ててガウンを直しながらやって来て見上げた。「まあ、まさか、これって・・・」「リンダ、分かるよね?」リンダは気色ばんでトンボの顔を見た。「嫌だ、まさか 臭素爆弾?!」トンボは大喜びで得意そうに飛び跳ねた。

「そうそう!臭いの強烈なやつだよ!ざまあみろ!僕のパソコンに勝手に触るからだ!こいつは、ガードマンの制服を着てるけどセキュリティーサービスだって!僕の特製爆弾、部屋を完全にロックしてから破裂するようにしてあったんだ。」「おい、この臭いって、どんな臭いなんだ?」

「えーとね、鼻をもぎたくなるような臭い。世界中の強烈な臭いを発酵させたようなの。1週間は、臭いが取れなくなるよ。ああ、でも毒ではないんだ。」・・・・一同、この2人に同情したのはいうまでもない。「・・・もう、出してやったら?多分この部屋に入る気は絶対おこさないだろうから。」

ロイドは、朝の報告を読んで非常に不快になっていた。「なんだと?昨夜はあの探偵を見失って、おまけに天才のガキとアンドロイドも逃がしてしまっただと?!挙句に・・・・行き先を探る為に入ったアパートで、今朝2人が窒息しそうになったぁ???一体お前達は、どんな仕事をしてるんだ!!!給料泥棒で、減俸!お前とお前と、それから、お前もだ!!!」何が、大丈夫だ、何が問題ない、だ!それとも、俺にはアンドロイドは無理だとでも言いたいのか?!朝から笑い者になった俺を笑っているのか?!

「ここまでコケにされたのは、初めてだ。償いはしてもらうからな!」ロイドは目の前のPCを机の上から払い落とした。PCはガシャンと嫌な音を残して破壊された。それを、踏み潰しながら、ロイドは拳を握りしめた。

「さて。準備は出来たか?トンボはそのスーツ、なかなかいいじゃないか。リンダ、あれ?・・・リンダはどうしたんだ?」リョウは、酷く窮屈なシャツにネクタイを締めて、鏡の前に立っていた。どうしても正装で行かなきゃならないのか、と、溜息をつくと「わあ!!凄い!!綺麗だなあ!!」という歓声が聞こえた。

リョウが振り返るとそこには、「辻が花」と言われる日本の着物を着たアオイがいた。・・・伝統的な絞り染めの高名な作家の手による、薄紫と浅黄色の霞んだような、小花が全体に銀河のように流れて、振袖にまで続いている、素晴らしいものだった。そこに、若々しい金糸を織り込んだ帯と漆塗りのポックリの下駄。髪は結わずにそのままだったが、その姿はどんな皇女も敵わないだろうと思われた。

「いいでしょ、キモノよ。博士はどうしても自慢したいらしいわね。」・・・確かに、この振袖は破格の物だが、アオイが着る為に作られたかのようだった。

「・・・これで、見納めか。アオイ、綺麗だな。」アオイの目が少し揺れたように思えた。
「リョウ、ありがとう」4人は、車に乗り込むとホテルの名前をナビに告げた。黙っていても3時間後にはホテルに着く。手に握ったハンドルが妙に汗ばむ。いよいよ近づくと、段々みんな言葉少なくなっていった。ホテルの入り口で車をボーイが持って行く。順番にゲートをくぐって行くんだが、網膜をあらかじめ登録しているらしい。「大丈夫なのか?!」リンダは妙に落ち着いている。

「博士はいいんだ、もうそのキーは手に入れた、といっていたけど。」ああ、そういえば、あの家に行った時入り口で誰かの視線を感じたなあ。これか。4人はすんなり入っていくと、会場へと急いだ。
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# by f-as-hearts | 2005-03-01 04:06 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
        <仕掛けと罠と・・・>

リンダとトンボは、会場に向かうエレベーターでは、1番遠いフロアである北側に向かっていた。

そこの地下にはビル全体のセキュリティーや電源のコントロールパネルが集中している集中管理室がある。勿論、関係者以外出入り禁止。

リンダは急いで物陰で着替えると、会場でお客に接待しているバニーガールになっていた。手には、これまたどこから持って来たのか、ピンクシャンペンを抱えている。その格好で、管理室のドアをノックした。

(うそだろ~!)トンボは目を白黒させたが、管理室の前は流石にカメラがあるらしく、リンダの格好に大喜びしている声が流れてきた。「おい、べっぴんさん、会場を間違えてやしないかい?どうしたっていうんだ?」中から1人の警備の男が出てきて尋ねた。

「ハーイ、貴方達のボスが今日は警備もいつもの3倍だし貴方達にも少しプレゼント!ですって!ワタシがお注ぎしますわ!」これを断る男がいたら、凄いよな~と、見ていたら、やっぱり皆さん「一杯ぐらいなら、俺は平気だ。」そうで。やっぱりねー。次々とシャンパンを飲ませてしまうと、いきなり皆さんお休み。「さ、睡眠薬の効き目は30分。トンボ、時間がないわよ?」「アイアイ・サー!」

会場は、紳士、淑女がひしめいていた。しかし、俺達は目立つ訳にはいかないので、エレベーターの反対側にある大きな窓側で、事の成り行きを観ていた。中にはもう、博士もいるはずだし、ロイドも主役の大統領夫妻も、司会の合図を待っている筈だ。

そんな中でも、政界の人間は常に携帯やPCを使って情報を新しくし、各国との連絡を取っていた。賑やかな声の中に、ロイドの声が時に高く、饒舌に響き渡った。「大統領は、このままではこの国をネット・テロが席巻するのでは?と心配されています。私達の、インターナショナル・セキュリティーサービスが、皆さんを100%守ります!大統領夫人が、枕を高くして寝られるように私達は頑張ります。」パラパラと拍手が起った。大統領は、何も言わず、にこやかに挨拶をして廻っていた。「そろそろ始る時間ですな。」ロイドが呟くと、マイクが司会者に回された。

「今宵お集まりの紳士淑女の皆様、本日は大統領夫人のバースディーパーティーにようこそお越し頂きました。大統領ご夫妻から、心よりの感謝を申し上げます。そして、これは奥様への大統領からのプレゼントです!」

その瞬間、窓の外がパアッと明るくなり、極彩色の花火がホテルの向かいに上がって花開いた。アオイと俺は奇しくも窓に張り付いていたので、そこからの眺めは、最高だった。歓声と共に、そのまま「ハッピーバースディー!」の大コール、シャンパンの栓の抜ける音で、外の花火の音が掻き消される位だった。

アオイは、花火の光の中で、幻想的な姿で立っている。誰が見ても、このパーティーの、主役だった。

ふと、こちらを向いたアオイの顔・・・・今まで、こんなに大人びた表情をした事がなかった。これから起こる事を、考えているのか・・・・それとも・・・・・「アオイ、お前はいったい・・・」

と、突然、爆発が起こった。それも、この最上階のフロアのすぐ真下だ!

「リンダ、どうしたんだ?これは予定にはないぞ?」携帯をかけると早口に喋った。周りはもうパニックである。「リョウ、勿論私達じゃないわ!?これは、もっと前に仕掛けられていたのよ!何てこと!今、その階の安全確保のセキュリティーを作動させたわ。爆破された場所は、北側のエレベーター付近よ。そこは、封鎖したわ。」

「アオイ、来い!」俺はアオイを兎に角安全な場所に連れて行かねばならなかった。パニックになっている人々にマイクでロイドは叫んだ。

「皆さん、レッド・シャドーが、犯行声明を出しました。この爆発は、レッド・シャドーによる犯行です。落ち着いて、我々の指示に従ってください!」


           <アオイの行方>

気絶するご婦人や、怒鳴りつける政府高官を尻目に、博士は会場の出入り口から1番遠い場所に立っていた。ロイドの指示は続く。

「皆さん、今確認した所によりますと、このホールの3階下、北側のエレベーター付近で爆発があったようです。皆さん、パニックにならずに、いいですか、私達のスタッフが誘導しますから、女性とお年寄りの方を先に、南側のエレベーターにお並び下さい!大統領夫妻はすでに、ガードマンが安全にお連れしました。皆さん、慌てないで下さい!」

・・・・出来上がったシナリオを読むようだな、と博士は思った。本当のテロなら、ロイド、お前はきっと腰を抜かすに違いない。誰よりも早くエレベーターに殺到する、そんな人物だ。
博士はゆっくりと、エレベーターに向かった。

リンダは、トンボとこの爆発の意味を考え、どう動けばいいかリョウに携帯で連絡していた。

「ロイドのスタッフがそこかしこにいる。俺達は、エレベーターには行かない。」「・・・そうね、南エレベーターから、西の角の方角へ廻ると階段があるわ。そこから、10階下りるとVIPルームがあるから、そこまで、いける?」「了解」

俺とアオイは、エレベーターの前を通り抜けると、階段から下へと下りていった。アオイは走りづらい下駄を脱いで、白い足袋で走っていたが、その方がヒールより速そうだ。どんどん下の階に下りて、8階は下ったろうか、突然上と下から階段を駆ける足音が迫ってきた。

「リンダ、囲まれた、抜け道は?!」「その階のドアを右へ、そこは42階、そこから・・・」もう、その声が俺に届く事は無かった。アオイは果敢に振袖の袖を振って敵の中で戦っていた。アンドロイドはいざとなったら大の男を投げ飛ばす事も出来る程、力があるのだが流石に狭い階段では・・・・俺も、テログループの屈強な一団を下へ突き落とすまでは良かったが、それで完全に逃げ道を失ってしまった。次の瞬間、首筋に手刀を喰らって、俺は気を失ってしまった。「リョウ!!」アオイの悲痛な叫び声が、遠のく意識の中で響いていた。

目が覚めた時、自分が生きている意味が分からなかった。「あの時、俺は・・・・」頭を触ってみると傷があるらしく、包帯が巻かれていた。「何故・・・・ここは?」・・・・トンボが心配そうに覗き込んで来た。

「リョウ、ここはホテルのVIPルーム、大統領の部屋なんだよ。分かる?」リンダも傍に椅子を持ってきて、ソファーに寝ている俺の様子を見ていた。「あなたは、大統領のボディーガードに助けられて、この部屋に連れて来られたの。」

「そんな事は、どうでもいい!アオイは?!アオイは一体どうなったんだ?!」トンボとリンダは顔を見合わせて、複雑な表情で黙り込んだ。「連れ去られたんだな?!じゃあ、なんでのんびりこんな事を・・痛っ!」いよいよトンボが困ってオロオロしているのを見て、隣りの部屋からゆっくり近づいて来る人物がいた。
「博士!」博士は、リョウの傍まで来て、話し始めた。

「・・・大丈夫かね?君には本当に感謝している。これで、私達は大統領に安心して休んでもらえる。良くやってくれた。」

「なんだと?!俺は失敗したんだ!何を・・・・」
「いいや、これが我々の計画だったのだ。アオイは敵側に行かなければならなかったのだよ。私達はいかに、味方を裏切ってアオイを守ってもらうか、そして、パーティーをいかに安全に終わらせるか、その大問題を君達に託したのだ。」


         <博士の計画>

「何を、言っているんだ?俺達を、裏切っただと?」あまりの事に、意味が解らない。

博士は、ゆっくりと今までの事を話し始めた。「・・・我々が、アンドロイドを開発し始めた頃、インターナショナル・セキュリティーサービス株式会社が我々の事を嗅ぎ回っている事に気が付いた。

あの会社は、ロイドの独裁ぶりで有名だったが、世界中の安全保全の為と言って、各国の首相、大統領等に言葉巧みに、自社の製品で他を駆逐、独占していく事の必要性を説いて廻っていたんだよ。ところが、それは、彼の生きている間に完成できるような、生易しい事ではなかった。世界を自分の思い通りのシナリオで動かす・・・・大統領さえも。そんな野望の為に、彼は自分が死なずに生き続ける事を必要とした訳だ。・・・それに、私と大統領は気がついた。ロイドはとうとう、裏で レッド・シャドー と繋がった。」「・・・それは、私が大統領に警告したのよ。」それまで黙っていたリンダが、口を開いた。

「ロイドは、恐怖と 安心を演出・実行する事が、人間を操る上で、1番有効な方法だと、気が付いてしまったのよ。最初は正義が世界を支配するのが理想だったようだけど、それでは全ての人に、支配力を誇示出来ない事に気づいてしまった。自分で世界に恐怖を与え、その後で、自分について来れば安心だと思わせる。」

「もっとも、狡猾、且つ巧妙な作戦だ。しかし、我々には通じない。アンドロイドを彼の元に送って内側から崩壊させる、それが、我々の計画だ。だが、問題があった。それが、我々の狙いだと気付かれたり、疑われては水の泡。それで、君に任せる事になったのだよ。」

「・・・・・全ては、博士の手のひらの上、だと?!いいや、違うね。あんたは、完璧なシナリオを作ったかもしれないが、ミスキャストだったな!俺は知ってるんだ、アオイが、それだけの為に創られた訳が無いっていう事をな。・・・・・もう、俺の役目は終わったんだったな。俺は自由って訳だ。」ソファーから、立ち上がると、まだふらふらしやがるが、かまってられるか!

「もう、俺に指図しないでくれ。・・・・リンダ、今まで悪かったな。・・・トンボ、お前はどうする?」
「もちろん、リョウと一緒に行くよ!・・・博士、一つだけ、訊いてもいいですか?」

「なんだね?」トンボは、決心したように言った。「・・・アオイは、死ぬんですか?」
博士は微笑んだ。「・・・・もともと、生きているものではないよ、トンボ。人ではないのだから。」
「でも、特別製って・・・・・」トンボは、そこまで言って、はっと、口をつぐんだ。

「トンボ、行くぞ。」俺は 後ろを振り返らずに歩き出した。トンボは、博士に何かいいたそうだったが、俺の後をついてきた。 リンダは 溜息をついた。

「博士、なぜ 本当の事を言わないんですか?」博士は、リョウが去った方をじっと見ていたが、ふっと、視線をリンダに戻すと言った。「あくまでも、私的な事だからね。彼に背負ってもらうつもりは、ないんだ。」

「リョウ、アオイを取り返すんでしょう?」トンボが珍しく、苦しそうな表情で訊いた。「ああ、俺にはボディーガードの役目があるからな。・・・アオイと約束したんだ。」
そう言うと、車に乗り込んだ。トンボは、頷くと、やっと笑いかけてきた。
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# by f-as-hearts | 2005-02-28 23:26 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)
            <アオイという謎>

車の中で、ニュースを観た。

「昨夜ロサンゼルスのロイヤルグランドホテルで開かれた大統領夫人のバースディー・パーティーで、19:45頃爆発がありました。爆発は47階のエレベーター付近だった模様ですが、I・S・Cの発表によると、レッド・シャドーが犯行声明を出したと言うことです。この爆破による被害者はいませんでした。-次のニュースです。」

俺は、黙って音楽に切り替えた。トンボも、うつむいている。
「トンボ、アパートメントに帰るぞ。」部屋の匂いには閉口したが、窓を開けて暫くするとなんとか生活する事は出来そうだった。

「トンボ、仕事を頼む。I・S・Cのビルの見取り図とセキュリティー、それから・・・」テキパキと頼まれた事をこなしていきながら、トンボはそれ以外の事を考えていた。

「リョウ、今回は僕も行く。ここのコンピュータ―は、博士の言う通り、外部からの侵入に対して異常なくらい厳しいんだ。中のコンピューターからなら、なんとか進入、解析できそうだから。」二人は、二人分の武器と超小型PCを持ってI・S・Cに向かった。

その頃I・S・Cでは、ロイドが新設した研究室に意気揚揚と向かっていた。誰も見ていなかったらスキップしたいくらいだ(勿論そんなに馬鹿ではないが)すぐ傍にライトがいたが、その真面目くさった顔にもキスしたいくらいだ(勿論・・・しないが)と、思っていた。

「俺は、思うに・・・・世界が俺を求めているんだな。誰も、不死身の俺に敵う訳が無い!」「大丈夫です。問題ありません。」

研究室には、アンドロイドがいた。その姿を見るのは初めてだったが、ロイドは感嘆の声を上げた。「素晴らしい!エクセレント!ワンダフル!人間そのもの、いや、人間より美しい!!この肌を見たか?産毛すら生きているようだぞ?!しかし、人間だったら耐えられない姿だな。博士、あんたの大事な宝物を、切り刻んで細胞の果てまで研究し尽くすからな。そして、すぐに俺もアンドロイドになって、この世を支配してやる!はははは・・・・」

そこには、意識を失っているようなアオイの姿があった。裸にされ、天井のワイヤーから吊るされ手足の自由を奪われて、頭には電極らしき、髪の毛よりも細い線が数え切れない数で刺さっていた。それは徐々に太くなり、コードになってPCに繋がれていた。

「ロイド様、お話があります。」研究所長が、ロイドの前に立つと笑いを遮った。「なんだね、所長?」ゴホンと咳をして、話し始めた。「・・・このアンドロイドは、あのジェームズ博士の作ですよね?彼が、この世界での第一人者なのは、ご存知で?」「知っているが、それが何か?」

「ええ、そのですね。我々には、及びもつかない技術が使われている訳です、このアンドロイドには。」ロイドはイライラしだした。「つまり、何が言いたいんだ?」「つまりですね、このアンドロイドの脳の部分には、使われていない部分があるんです。」所長が、どうです、凄いでしょう、というような顔をするので、いよいよイライラしだした。「それの、どこが凄いんだ??」

「お分かりになりませんか?人間じゃないのに、まだ、何かに使われる筈の脳があるんですよ?それは、つまり脳が2つあるのと同じなんです!このアンドロイドは、脳が2つあって、それぞれが別々の役割を持っているかも知れないんです!!そして、そこがこのアンドロイドの特別優れた所なんです。我々は、ずっとその第2の脳の研究に取り掛かっていました。ですが、この脳が どうしたら作動するのか、依然解らないのです。」

「だが、研究の方はすぐ完成するんだろうな?どうなんだ?!」イライラは最高潮に達していた。

「なんとも。・・・鍵を探さねばなりません。博士なら、すぐに謎を解いて下さるかと。」所長は揉み手をして上目使いに見るが、気持ち悪さを倍増させた。

「何故、お前達はそんなに無能なんだ?博士に口を割らせる事が、どんなに大変か・・・いや・・・・・まてよ。・・・いいだろう、丁重にお連れしよう。紳士だからな、私は!」背広の襟を正すと、ロイドは所長に言った。「お前は、クビだ。」

「私が、直々に博士のご機嫌を伺いに行こうではないか。我々を見た時の博士の顔が見物だな。ははははは・・・・・!」ライトは、黙ってついて行った。

博士は、その一部始終をアオイを通して聞いていた。「いよいよ、だな。」読んでいたノートを閉じると本棚の中に仕舞い、執事に言った。「お客が来る。4人程だろう。それと・・・・・」執事が近くに来たので、声を落として言った。

「あの、ネジを巻いてくれたまえ。」執事は会釈をすると、仕事に取り掛かった。「もう、ロイドはビルを出た頃だな。・・・・ふむ。」
ギリギリギリ・・・・・・階段のロビーにある大時計のネジは歯軋りをする様な音を立てて巻かれていく。時間は、もうじき夕方の4時になろうとしていた。

ロイドがボディーガード5人とライトを連れてビルを出たのは、3時20分頃だった。そして、その様子を隣りのビルから観ている二人がいた。

「出掛けた様だね。」トンボは、これでやりやすくなった、とほっとしていた。ロイドがいると、騒ぎそうだと言う意味らしい。二人は周到に準備をして会社のガードマンの制服と、近所の子供の格好になっていた。


          <こどもの強み>

リョウとトンボは、I・S・Cの地下駐車場にいた。奥の柱の影に時限発火発煙装置を取り付けた。まだ、勤務時間らしく誰も降りて来ないが、注意深く二人は潜んでいた。

バァ―――――ン凄い煙と共に、まるで車が爆破したかのような音に、ビルのガードマンがドッと出て来た。「どうした!?」「テロか?!」

リョウは、ゴホゴホいいながら、その煙の中から、トンボを抱かかえて出て来た。2、3人のガードマンが慌てて駆け寄ると、リョウが煙にむせながら言った。

「いきなり、爆発音がして駐車場から煙が上がりまして、子供が中に倒れていました。早く、中の救急医療室へ連れて行かないと!」「わかった!そこから上に上がってくれ。今、中の警報を解除するから。」

リョウはトンボを抱えたまま、凄い勢いで入り口に駆け込み、まだ次々と外に出て行くガードマンを尻目に、どんどんビルの中を目的地に向かって走った。

「リョウ、もう降りても大丈夫じゃない?」トンボが、死んだフリから、片目を開けて言うと、確かにもうこの辺は、騒ぎが聞こえないし、通路を行く人も彼らに注意を払っていなかった。「そうだが、まだ研究室が分からない。誰かに訊かれても困るから・・・」そのままの格好で、うろうろしていると、研究室の白衣を着た女性が歩いている。

「任せて!」トンボが飛び降りると、その女性に近づいた。「お姉さん、僕、お父さん探してるんだけど・・・知らない?」ウルウルした目でそう言いながら、白衣の裾を、引っ張った。(やるな~!)

内心、舌を巻いた。「あら、僕のお父さんはここの人?」女性は嫌がる風も無く尋ねた。「そうなんだ、研究室にいるの」「まあ、それじゃあ誰かしら?待ってね、連絡を・・・」「いいんだ、僕、1人で来たのはパパを驚かせたいからなんだ!何階の部屋?」「そう、うふふ、15階よ。そこのエレベーターで直通だから。」「ありがとう、綺麗なお姉さん!」・・・・離れて観ていたが、これだから!相棒は頼りになるよ、全く。

その頃。博士の別荘に男達が到着していた。

「近いのに、今まで手が出なかったのは、博士に逃げられたら終わりだからだったが・・・・今日は、全くいい日だ!」ロイドは1人に車に残るようにいい、5人で屋敷の方へ歩いていった。博士は、静かにロイドの到着を待っていた。

ロイド達が、玄関入り口のチャイムを押そうとした時、中から柱時計のボーン・ボーンという音が響き渡ってきた。「どうぞ、おはいり下さい。」執事がドアを開けて、皆を中に入れると、静かに音も無くドアは閉まった。柱時計の隣りには、凛とした風情の博士がロイドを見つめていた。


         <アオイ・作動>

その日は、いつもと何も変わらない1日になる筈だった。

16:00の時刻を告げた瞬間に、それは起こった。

I・S・Cの会社のメインコンピューターが、暴走し始めたのだ。まず、会社内のPCが、全てロックされ、セキュリティーシステムに異常が多発し始めた。ビル内のドアというドア、キーの掛かる全てが解除され、PC内の情報が全て集められ、流された。
そう、「アオイ」である。 アオイの、もう一つの「脳」が、作動し始めたのだ。

その異常に、トンボはいち早く気がついた。「大変だ、始まっちゃった!アオイを停めないと!」
「何が起こったんだ?!」どこのドアも、セキュリティーも解除されて、皆が右往左往しているのを見て、リョウも異変に気がついた。

「大変よ!みんな暴走してるわ!メインのコンピューターシステムに何物かが、ウイルスを入れたのよ!」女性の悲鳴に、リョウはまさか、とトンボを見た。「そうだよ。彼女は、ここのデータを吸収して、膨大な量の情報を食べているんだ。今は、僕達の事も解らないだろうね。」15階の、研究室にアオイがいる。今はエレベーターも制御不能で、使うな!と皆が怒鳴っている。「階段で行くしかない!急ごう!」俺は、何がなんだか、解らなかった。息をきらしながら、トンボは説明した。

「博士は・・・彼女に2つの脳を与えたんだ。普段は1つでいいんだ。でも・・・・彼女は言ってたでしょ?私は、満足できない性格なのって。僕は、やっと気がついたんだ。その意味に。」

同時刻。

博士の部屋に通されたロイドは、他の者達を廊下に待たせていた。
「博士、お目にかかれて光栄です。早速ですが、貴方と取引がしたい。」

不躾な挨拶に、眉も動かさず博士は言った。

「ロイド、私はあなたに話しておきたい事がある。それは、妻の事だ。」今度は、ロイドが冷静に訊いた。「奥様、ですか?奥様がどうか?」

「妻は、8年前に交通事故で亡くなりました。その当時、私達は一緒にアンドロイドの研究をしていましてね、ふとした事で、喧嘩になり、妻が出て行ったのです。」「ほう、それは・・・」
「しかし、出て行ったはいいが、連絡が取れなくなったのが気になり、警察に行方不明で調べてもらった所、もう、すでに・・・・妻は、しかし亡くなった時何も所持していなかったんですよ。おかしいとは思いませんか?」・・・ここにきて、ロイドは何か思い出したようだった。

「ああ、それは・・・・・変ですねえ?では、博士はその時、お調べになったと?」「そうです。妻の所持品の行方と、証拠・・・・事故ではなく、犯罪、殺人事件だったという証拠をね。」

「ところが、何一つ出ては来なかった。遺留品は何もなかったんです。それで、私は彼女の部屋の持ち物から何か解らないか、と調べたんです。そうしたら・・・・」博士は本棚にいくと、一冊のノートを持ってきた。「これは、あなたの会社のノートですね?ここに、妻が走り書きであなたと会う日にちを書き込んでいた。それが、彼女が亡くなった日でした。」
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# by f-as-hearts | 2005-02-27 23:45 | SF瞳の中の記憶 | Comments(0)