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紡ぐ夢 綴る夢

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タロット占い師ASのブログです。

<   2010年 12月 ( 13 )   > この月の画像一覧

ジホロ達は兵士からの伝令を聞くと、皆が興奮した面持ちで言った。
「やっと、我々の仕事が王の目に留まったんだ。これから、我々が国の為に尽くして
いけば、きっと皆が争わず、国同士の交渉も有意義で発展的な方向にいくだろう。
我々の村や苦しむ人々が犠牲にならずに済む方法も、きっとある筈だ!」

いつにもまして仲間達と今回の仕事への期待が膨らんでいるのが、ジホロにも感じ
られた。やっとここまで来た・・・皆の想いが伝わってきた。
「よし!これでもっと我々のような者達の活躍が必要となるだろう。これで、議会にも
交易の必要性を発言できる!」

エリカは店で買い物をしていて、見慣れない風体の男達がうろうろしているのを見て
慌てて果物を落としてしまった。
「おや、いけないなあ!奥さん、どうしたんだい?」その中の一人が、近づいてきて
落ちている果物を拾って渡しながら、怪訝そうな顔でエリカを覗き込んだ。
エリカは会釈して受け取ろうとして・・・その男のにやっと笑う顔に、息を呑んだ。
その男は、エリカの村の若者だったのだ。

「へえ?珍しい人に会うもんだ、あんたは巫女じゃないか!!どうしてこんなところに
いるんだ?ええ?・・・・・・・・待てよ!!あんたに用があるんだよ。仲良くしようぜ?」


エリカはあっと言う間に数人の男達に囲まれてしまった。店から連れ出されると、そこに
いた馬車に押し込められた。エリカは助けを呼びたいのに声も出ず、それがまた男達の
失笑をかった。「怖くて声もでないのかよ!!!へへへ!!!巫女ってのは弱いもんだ
な!!!知ってるぜ、あんたがジホロの女だってな!!俺達の敵、王族に媚を売る輩
どもめ!!!腐った野郎どもは、排除しねえとな!!!」
エリカのあごをぐいっと手で乱暴に掴んでいる男の手を捻り上げて、頭領のような男が
言った。

「この女は人質だ。こいつは金づるでもある。おまえは巫女だったらしいな?

・・・おまえら、人質に手を出すんじゃねえぞ!こいつは他の王族に高く売れる。
何しろ湖の巫女といえば、神聖な女だからな。滅多にお目にかかれるもんじゃない。
・・・・・・おい、トッグル!わかったら、さっさとジホロとやらのところへ伝言してこい!!」

トッグルは痛そうに手をさすりながら、頭領のいう通りに馬車から降りた。
「この女を、磨いとけよ・・・・ふん・・・気の強そうな目だ。いつまで悲鳴をあげずにすむかな。
賭けてもいいが、こういう奴にかぎってすぐに逃げ出そうともしなくなる」
エリカは自分の声が出ないことが、かえって今は良かったと思い始めていた。
どんなに怖くても、何もしゃべることが出来なければ・・・それは、自分に価値が無いという
ことになる・・・悲しいが、それでエリカには思い当たることが、あったのだ。


ジホロはエリカの帰りが遅いことに気がついて、ひとり外へとエリカを探しに出ていた。
そこへ一頭の馬が駆けてきて、乱暴に目の前で止まった。

「おめえ、ジホロだな?!
ジホロ!おめえの女、湖の巫女は俺達が預かってる。
明日、故郷の湖に仲間全員で来い、そうしないと巫女の命はない。
いいな、明日の昼までだ。全員で来い、もし来なかったら、その場でーー」
男は剣をスラリと抜くと、ジホロの首筋に向けるようにして言った。
「おめえの女は死ぬ!!!」
それだけ言い捨てて、男は走り去った。

ジホロは呆然とその場に立ち尽くした。
しかし、すぐにはっと我に返ると、馬小屋へと急ぎそのまま馬を駆って男の後を追った。
ジホロは、エリカを巫女と呼んだあの男の言葉に、自分の村の者だとすぐに気がついた。
そして・・・今何故この時期にエリカがさらわれたのか、そのことも厭という程わかった。
ジホロは反対勢力といつも戦ってきた・・・その勢力は常に権力争いとは無縁のような
無頼軍団として現れた。しかし、その裏には政治権力者の動きが見て取れた。
・・・エリカが危険に晒される、そんな事態が想定されていたからこそ、手元に置くしかない
・・・私の、ミスだ!!ジホロにとって、何百回となく自問自答してきた問題の答えがもう、
目前に迫っていた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-31 19:30 | 短編小説
風は夕方になり湖へと向かって吹き始めた。
その西風に背中を押されながら、ポプラの樹を目指してエリカは走っていた。

ポプラの樹が見えて、そしてそこに馬に乗った2人の姿が見えてきた。
エリカは自分の足が地についていないように感じた。そこから、一頭が走って
きた。「エリカ!!!」エリカは声を出そうとして、声が出ないことに気がついた。
代わりに、涙がとめどなく流れた。ジホロに抱きしめられて、エリカは気を失って
しまった。ジホロは急いで兵士を呼んで、一緒にエリカを馬に乗せると、出発した。

ジホロと兵士の行く手に一人、待ち伏せていたように栗毛白足の馬に乗った男が
いた。その男は、遠くから呼びかけた。

「ジホロ!!エリカはこの村の巫女だ!!お前がエリカを不幸にすることは、断じて
許さない。それを忘れるな!!!!」

「お前は・・・村長のー」「いいな、エリカに何かあったらただじゃすまないとおもえ!!」

その男はジホロ達を横目に、2頭の間を走り抜けて村へと戻っていった。

兵士はその男の顔を見て、そして言った。
「いい面構えだ・・・・・・あの男、名はなんていう?」「確か・・・オゴルといった。
村長の次男だ」「覚えておこう。・・・・もう夜になる、ジホロ、急ごう!」「ああ」

仲間が待つ町は夜通し走らねば着かないかと思われる程、遠い処だった。
エリカは途中で目を覚ました。しかし、喉の腫れが酷く、声はやはり出なかった。
ジホロは、あとでゆっくり話を聞くから、とエリカを安心させた。

仲間達の泊まる宿に3人が到着すると、もう真夜中だったがすぐに1人が迎えに
出てきた。「遅かったじゃないか!!途中何かあったのかと心配したぞ!」
「ああ、悪かったよ。・・・ついでにもう一つ頼まれてくれ。1人部屋を借りたいんだ」
「・・・・!わかった。宿の主人には朝、説明する。こっちだ。静かについてきてくれ」

エリカはジホロと旅をすると思っていたが、だんだん話はもっと複雑なのだとわかって
きていた。一人、ベッドに寝るように言われ、ジホロはエリカの喉を見た。
「!どうしたんだ?!こんなに腫れて・・・・いや、今は話せそうも無いね。
わかった、とにかく今夜はここで寝ていてくれ。喉はタオルで冷やそう」
手を握って、今度はその手が傷から出血して真っ赤になっているのに驚いた。
「まさか、ご両親に反対されてこんな・・・・?!鞭で打たれたのか?!」
エリカは首を振った。ただただ、ジホロに抱きしめられて泣くだけしかできなかったの
だった。「わかった・・・・・・だから、遅くなったんだね・・・・ごめん、何にも知らなくて・・・」
エリカを寝かせてから、ジホロは仲間の部屋へと戻った。

仲間は5人。ジホロと兵士を加えて7人で、これからどこへいくのかを話し始めた。
「・・・・その前に・・・」ジホロは言った。
「あの娘は私の恋人でエリカという巫女だ」

皆がどよめいた。「本当か?!・・・巫女はかなり重要な人物ではないのか?」
「・・・エリカは、私といなければきっと・・・一生あの村の犠牲になるだけの不幸な女だ。
それに、私は恋人といたい。皆に説明せずに連れてきてしまったことを詫びねばなら
ないが・・・あの村では、神事とか掟とかががんじがらめに人々を拘束している。
巫女は誰がなってもいい筈なのに、あの村では一子相伝という考え方が通っている。
・・・いづれ、そんな風習も改めたいと思っているんだ」


それから数日後、ジホロ達とエリカはその国の首都へと向かっていた。
エリカはあの日から声が出なくなっていた。皆が心配し、医者にも診せたがどの医者も
首を振るばかりで、原因がわからないと言った。エリカは不安にかられたが、ジホロが
きっと名医に診せれば治るからという言葉に、頷くのだった。
エリカは皆に迷惑をかけぬよう、一人で宿で待っている時は、けして人が訪ねてきても
出ないと約束し、皆の世話を甲斐甲斐しくやくのだった。

ジホロ達の仕事はエリカの想像を超えていた。
ジホロはこの国で外交官として働くことを認められていた。しかし、その仕事は実は
他国との外交的交渉や命がけでぎりぎりの選択まで迫られることも含まれていた。
エリカとの生活は、そんな危険な仕事の隠れ蓑としてもあった。表向きは貿易商として
皆が活動していた。しかし、その本当の姿を知っているのは仲間だけで、キャラバンの
ような大掛かりな隊は組まずに、最小限の先鋭部隊として、彼らはあった。
エリカはそれを知ると、尚更自分が何も言ってはいけない立場だと思い、口がきけなくて
も、それを辛いと思わないと書いて伝えた。ジホロはエリカに今までの事を話した。
ジホロの、その旅は・・・エリカには信じられない事ばかりだった。

最初に出会ったのがあの兵士で、彼はとても貧しい村の出身で、彼の兄弟はすでに
戦争で亡くなっていた。他の皆もジホロや兵士と同じような身の上であり、家族はとうに
いなかった。今ではエリカは自分が皆の家族なのだと理解して、何でも引き受けようと
頑張るのだった。その姿は、巫女だったエリカを知る者が見たとしたら、驚くほどに逞しく
なり、額に汗して働く姿は、それでも町の女達の中にあっても美しかった。

秋風が吹き始めたある日、兵士が王からの伝令をジホロに持ってきた。
「エリカ、いよいよ私達は王の勅令で動く程の地位を得たぞ!!喜んでくれ!!」
エリカは素直に喜んでみせた。
「今度は長い旅になるかもしれない。ジホロも勿論行くだろうが、我々が国の表舞台で
代表と言われるのだ。こんな名誉はない。エリカにも我々と来てもらいたいくらいだが。
ジホロの奴が、駄目だというだろうな!」
エリカはちょっと微笑んで、気にしていないという風に首をかしげてみせた。
風が強くなってきていた。明日は嵐だろうか・・・・・
エリカは皆の旅立ちの準備をしようと買い物に出ると、ひとり風の中を歩いていった。




・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-31 19:17 | 短編小説
ジホロの胸に抱かれていると、エリカは夜がこんなにも短いと思うのだった。
ジホロのいない日々は、気が遠くなる程長かった。
なのに、今はもうそんな時間ですら、ちりのように消え去ってしまった・・・

・・・今は彼は私のそばにいてくれるの・・・
胸が一杯になる想いがエリカを幸せにしてくれた。
エリカはその幸せがずっと続きますようにと、そんな想いしか浮かばなくなる自分を
・・・ちょっと笑ってみた。

「・・・どうかした?」
「・・・・・・・ううん・・・・なんでもないの」
「・・・・・・エリカ、本当に一緒に来てくれるんだよね?」
頷いて、じっとジホロの瞳を見つめた。



ジホロは彼女が旅立ちの用意をしてくるというので、村の外れにある3本の
ポプラの樹のところで待っていると約束して別れた。

その樹のところには先客がいた。
「ジホロ、皆に別れは告げてきたのか?」甲冑を着けた兵士がジホロの馬に
近づいてきて言った。「この平和な村、お前の故郷は、確かに素晴らしい。
いつかお前が思い描く、自由に人々が行き来できる交易都市の中継地として
どこにも支配されない村として、その文化を発展させ日の目をみる時がくるだろう。
・・・・出発しよう。先の町でもう我々の仲間がお前を待っている」

「もう少し、待ってくれないか?私の恋人が来るんだ」「・・・・・・恋人?お前に?
・・・てっきり、お前は政治にしか興味がないのかと思っていた」「そうだな・・・・・・
外では私は、堅物でしかなかったしな」「意外な展開というやつだな。待つのは
かまわんが、この先、女連れでいくのか?」「彼女はもうここに置いて行けない。
彼女をひとりにはできないんだ」

兵士は兜の下で目を閉じていた。「・・・・・・ジホロ、それは・・・」
ジホロは何かを言おうとした兵士の、先を制した。「わかってる・・・・無理は
承知なんだ。でも・・・」

「・・・・・・・一生のうちに、一度くらいは、私もそんなことをした覚えがある。
もう何も言わない。・・・・だが、後悔だけはするなよ」「わかった」


エリカは両親と祖母に、自分がジホロと旅に出ることを話していた。
だが、それを認めるような両親ではなかった。

「エリカ、おまえは大切な一人娘だ。・・・あんなにジホロは駄目だと言って聞かせた
のに、わからないのか!!おまえには、村長の次男が求婚しているではないか!!
どこにそんな良い縁談を断る者がいるか。おまえは一歩もこの家から出る事は
許さん!!」父親の、その酷い言葉にエリカは涙ぐみながらも、話を聞いて欲しいと
言った。「お父さん、ジホロは村のことを本当に大事に思っているのよ、この村の為に
善いことをしようと外の世界で頑張ろうとしているの。私は、一緒にーー」
「村の為??お前の為を考えてくれない者が、それのどこが、良い男なんだ?
エリカ、私はおまえがこの村を離れて生きていけるとは、とても思えない。
お前は村にとっても大切な娘ではないか!お前も、お前の母も、巫女としてこの村と
共にあるべき存在と、幼い頃から言って聞かせただろう」

母も重い口を開いた。「巫女というのは、湖の神事を司る大切な役割だから。
それもあるからね、村長の次男のご縁は、お断りできることではないのよ」
「お母さん、でもジホロは私の大切な人なのよ!!」エリカはもう涙が止まらなくなって
いた。「他の誰よりも!!!」
祖母は黙っていた。
「エリカ、私達はおまえが可愛いのだ。おまえの為を思っている、それをわからないとは。
・・・エリカ、おまえはしばらく謹慎しているように」

父親はエリカの腕をつかんで、神具置き場のある小部屋に閉じ込めた。
「お父さん!!!!お母さん!!!!出して!!!!!ジホロ!!!!!!」
ドンドンと扉を叩き続けて、エリカは叫んだ。「お願い、出して!!!!」



兵士はジホロと共に旅をしてきていたので、ジホロのこの覚悟は並大抵ではないと
知っていた。「その娘は、おまえのことを理解しているのか?」
「・・・・・・・・・・いや・・・・・・・」「そうだろうな。まあ、ゆくゆくはついて行けるか行けぬか
考えねばならない時が来るだろうが」「・・・・・・わかっているのは・・・・・・」

ジホロは晴れ渡る空を見上げた。
「今なら、エリカとどこへでも行けるように思える。・・・・仲間には迷惑をかけるが」
兵士は笑った。「そんなことを心配する奴だったんだ?初めて聞いた!ははは!」
「ああ、初めて言った」兵士はジホロの不安そうな顔を見て、言った。
「迷惑かけられてやるよ。おまえがあきらめの悪い奴だってのも知ってるから」





エリカは時間が無いと焦っていた。手の甲は扉に叩きつけて傷だらけになり、喉には
痛みが走った。声が続く限り、父と母に許しを乞わねば・・・心はもう、この村から離れて
あのポプラの樹の元へ飛んでいた。窓の無い真っ暗な部屋で、エリカはジホロのことを
想っていた。彼は待っていてくれるだろうか、私のことを心配してくれているだろうか・・・
絶望に押し潰されそうな心を支えてくれるのは、今はジホロの言葉だけだった。
「一緒に行こう」


祖母は、村長の次男がエリカを訪ねてくるのを、家から出て外で待っていた。
「よお、ばばあ!!元気か?・・・なんだ、今にもくたばりそうな顔してんな。
エリカ、いるか?・・・なんだよ?変な顔して」次男は馬から飛び降りると言った。
「変な顔だけ余計じゃわい!この悪がきが!!じゃが、情けない話をせねばならんから
お前、ちょっと聞いてくれぬか?」
「なんだよ?気持ちわりいな!!まさか、エリカがオレと結婚してくれるとか?」
「・・・・・・・・逆じゃから、情けないっていうんじゃ!!!」
祖母は一部始終を話して聞かせた。



家にずかずかと入ってきて、村長の次男、オゴルはエリカの父親に尋ねた。
「エリカを閉じ込めたっていうのは、本当か?」

両親は慌てた。「いえ、あの娘は流行り病に罹ったのです。ですから、隔離せねばと」
「嘘を言うな!!エリカの話を聞く、早く連れてくるんだ!!」「いえいえ、それはいかに
オゴル様でも無理です!!!あなたに病気がうつっては大変です!!」
「おい、ばばあ!!エリカのいる部屋はどこだ?!」「こちらでございます」「おばあさま?!」

外にまでエリカの叫び声は響いていた。祖母は鍵を外した。
すぐにオゴルは扉を開けると、エリカの顔を見て、言った。
「早く、行け!!オレの気が変わらねえうちに!!」「オゴル?!・・・・ありがとう!」
「感謝される筋合いはねえ。他の男を思って泣いてる様な女は、願い下げだってことだ!!」

その場にいる両親の、あっけにとられた顔に向かって、オゴルは言った。

「いいか、オレはエリカにふられたんじゃねえ!!オレはオレの為に泣いてくれる女がいい、
それだけだ。あんた達より、よっぽどばばあの方が、人の気持ちってもんがわかってらあ!!
大切な娘を閉じ込めるような、あんた達よりな!!!」









・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-29 12:34 | 短編小説
・・・その湖は透明度が高く、風景と相まって、神の庭、神の湖と呼ばれていた。

異国に来たような、その装束は、その村が観光に生きる者達にのみ仕事を与え
ている証であり、その家業に就いている印でもあった。

村人は、学業も仕事も、その村で生活している内は保障されていた。
だが、男達はこの村での生活では財産もそう増やせず、皆当たり前のように、出稼ぎ
に行くのだった。

一人の乙女がいた。名前はエリカ。エリカには恋人がいた。1つ年上のジホロと言った。

ジホロはいつも言うのだった。「村の者は、村の文化を守るのが誇りだって言うけど、
じい様達は、ただ動きたくないだけじゃないか。土地はオレ達のものだ、だけど・・・
オレは誇りに思えないんだ。なんだか、騙されているんじゃないかっていつも思うんだ」

エリカはまじまじと彼を見て、言うのだ。「でも、ここは大切な場所でしょ?」
ジホロはエリカの唇にキスして言った。「大切なものは君が教えてくれるだろ?」
「でも・・・・仕事も家も村も・・・・無くてはならないものだから」
ジホロは笑った。「そうじゃないんだ。・・・オレ、誇りに思えるものって、そんなものなのかって
生意気だって言われても、言いたいんだ。エリカは、何が誇りなんだ?」
「ジホロ、あなたが私の誇りよ」「・・・オレが何を誇りに思うか、わかる?エリカが、オレを
誇りに思えるような男になるってこと。そんなオレをエリカにみせたいんだ」

エリカは、わからない、そのままでいいと言った。だが、ジホロは違うと言って首を振った。
ジホロは外の世界へと出て行った。

それから・・・エリカはジホロのいない村には、もう何もないと悲しんで泣いていた。
それでも月日は過ぎていった。エリカには長い長い時間だった。

ジホロは自由と引き換えに、自分の居場所を失った。どこにいても、自分が旅人で、どうしても
他の村や町を渡り歩かずにはいられなかった。だが、彼は気がつき始めていた。
あの村で、何故自分が誇りを持てなかったのか・・・・・・

ジホロは立派な大人になって、村に帰ってきた。

村長らがジホロの話を聞こうと、集会を開いた。
エリカは、ジホロが何を言おうとしているのか、気になっていたが、自分から聞きに行く勇気が
なかった。なぜか、遠い異国の人のように感じて気後れしていたのだった。
夜、にぎやかに村人達も大勢集まり、ジホロが随分と逞しくなったと噂しあっていた。

ジホロは車座になって皆が座るところで、話し始めた。

「旅をして、やっとわかったんだ。
村長、オレ達の祖先は、この土地に住み着いた。でも、元々は自由の民だったんだ。
オレ達は、オレ達の文化をここからどこにも広められない。
誰も、オレ達がどんな歴史を持っているかなんて、知らないんだ。
興味を持ってもらうとか、そんなことじゃないんだ。
外じゃ、お前はどんな文化の中で育ったんだ、おまえは何者だ?って当たり前に聞かれる。
・・・どうしてオレ達は、ここでだけ生きろと言われているんだ?

外では誰も、オレを止めなかった。どこで生きても、自由だった。
オレは初めて民族の誇りを持って生きられた。
ここに居た時は、わからなかったことなんだ」

村長はため息をついた。
「ジホロや。若い者は皆、そういうのじゃ。

我々の民の祖は、おまえの言うように自由にどんな土地ででも生きてきた。
じゃがのう・・・・・・・今はな、今はここに住んでおらなんだら、ここを守れんのじゃ。

我らも誇りは忘れてはおらぬよ、けっして忘れてはおらん」

「祖先が村長の話を聞いたら、どう思うか、今のオレなら答えられる。
若者を縛り付ける、大ばか者だというだろう」


ジホロがそれだけ言うと、集会場から外へ出て行った。
エリカは急いで追いかけた。

ジホロは湖の畔にいた。エリカは息を弾ませて隣に座った。

「・・・・・・・ジホロ・・・・・・・」

「・・・・言い過ぎた、かな」

「・・・・・・ううん・・・・・・・・ジホロは外の世界で、学んだんでしょう?」

ジホロは星空を眺めていた。

「・・・・・自由は、いいって思ったよ。
外では、自分はどう生きてきたかって・・・・みんな話すんだ。
みんな、色々な国から着ていて、民族もみんな違って、そんなの当たり前で。

それで・・・・・・・オレはこの村の素晴らしさを話した。
こんなに人々が純粋で、神の恩恵を受けて生きていられる村はないってね」

エリカは、じっと聞いていた。

「・・・・・・・・・オレは、本当は・・・外の、争いばかりある国は嫌いだ。
でも、この村でそんな話はしたくないと思った。みんな、そんな争いとは無縁で
ここに、そんな考え方を持ちこみたくはない・・・んだ。

そして・・・・・・・
外にいる時、オレはこの村が他の国から忘れられるなんて、絶対にダメだって
・・・・・・そう思って、ずっとこの村のいいところを話していた。

神は、オレを 馬鹿なヤツだと思うだろうな」

エリカはジホロの言葉を、胸の中で考えていた。

「・・・私は、ジホロは そのままでいいと思う。
私が好きなジホロは、いつも何かを見つけようと遠いところを旅してたから。
神様なら、わかってくれる、きっと・・・・」

蒼い星が瞬く暗い山の上を見つめながら、ジホロは嘆いた。

「最初は・・・・・旅をすればするほど、わからなくなってた・・・・・

どうして、土地を、権利を、守る為に・・・他から守る為に、どこにも行けなくなる?
何故、人は国は、生きる権利を自分で守れと・・・平和な村や国にも争いを持ち込む?
力がない村なんて、無くなってしまっても仕方ないものなのか?

そう思って、悩んでいた時、祖先はどうしてここに着いたのか・・・っていうことが
頭に浮かんで・・・・・・

そうだ・・・・オレはそれを知りたいんだと、やっとわかったんだ。
今は、みんなわからなくても・・・どんな祖先達も旅のどこかで、ぶつかりながら、争いながら
協力し助け合って、ここに辿り着いたんじゃなかったかって・・・・
今、起こっていることは、ずっと昔から変わらずに起こっていることだったんだ。
でも・・・それでも、どうやったら、お互いが必要な世界なんだって知ることができるんだろう。
だから、村長に言った。民族の誇りは必要なんだって。

・・・・エリカ・・・・

君のそばにいると、こんなに色んなことを話せる。
もっと・・・・世界を知りたくなる・・・・・・

エリカも、オレと一緒に行こう」

エリカは頷いた。

本当に、嬉しそうに・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-24 23:09 | 短編小説
登場人物


鉤片 直樹 (かぎひら  なおき)     36歳   研究者

鉤片 真実 (かぎひら  まみ)      10歳   娘

柚木 御幸 (ゆずき  みゆき)      32歳



第  3  話  「  雪となって  」



その日は、昨日と同じで全く雪は止む気配も無く・・・本格的な冬将軍の訪れに私は
あれこれしなければならないことがあるというのに、何も手がつかなくなっていた。
彼女の謎が、私を引き付けるのだ。

「・・・寒くなってきましたね。よかったら、上着をお貸ししましょうか。
前の、女房のものがあるんです」

彼女は何も言わなかった。私は一人で話していた。隣の部屋から上着を持って戻ると
彼女は食器を洗っていた。「台所だけでも片付けますね」「・・・・・すみません」
暖房は十分部屋を暖めているのだが、なんだか風が入ってきているようだ。

「ご主人と・・・離婚されたんですか?」
カチャカチャ・・・・・・彼女は首を横に振った。「・・・・・・・亡くなったんです」

「・・・すみません・・・」彼女は静かに近づいてきた。「・・・いいえ。昔の話なんです」
ひんやりとした空気が・・・彼女から漂ってきた。「・・・聞いていただけますか?」
私は、頷いた。

「主人は、この土地で生まれ育った人でした。・・・私は、ここの親戚に身を寄せていて
・・・出逢ったのはやはり冬でした。主人は、私を家に招いて、両親に私を会わせてすぐに、
私達は結婚したんです。・・・若かったので、こんな何にも無い山の中でも、楽しかったですわ」

「・・・それじゃ・・・ここら辺で暮らしていたんですか?」
「・・・ええ・・・でも、私は・・・一緒にいられなかったんです」「何かあったんですか?」
「・・・・・・・・・主人は・・・・・私と、約束したんです。
変わらずに、いつまでも一緒にいられるように、約束・・・・」
「約束を、ご主人が守れなかったんですか・・・」「・・・こどもが出来て・・・幸せでした。
でも・・・・・・約束を守るのは、難しいのですね。・・・・それなら、何故、約束をするのでしょう。
約束さえ守ってくれたら・・・・」

彼は話を変えようとした。「柚木さんは今は、どちらにお住いなんですか?」

彼女は微笑んでいたが、答えてはくれなかった。
「・・・・・・すみません、こんなことを聞いて。私は、あなたがもしかしたら、自殺を考えて
いるのじゃないかと思っていました。・・・でも、違いますよね?」

無言・・・・・・・私は不安にかられて、彼女の手に触った。
水のように冷たい。「・・・お願いがあります。どちらにお住いなのか、教えてください。
それで、帰れたら、知らせてください」

彼女の悲しげな目がこちらを見ていた。

「雪は、止むのでしょうか?・・・・・・いつになったら、私は、主人を許せるのでしょう?」

突然、私は自分が離婚した時の女房との会話を思い出した。

「いつもあなたは 私になんか興味なかった。山の中で私は、何をすればいいの?
私は、あなたの、 一体、何?」
私は、答えられなかった。


「約束・・・・・っていうのは・・・・・・なんだったんですか?」

「・・・・・2人にしか、わからないことです・・・・・・・・・だから、大切なことだったんです」
「・・・秘密なんですか・・・・・・・・秘密・・・は、苦しいです。私も、経験があります。
誰にも言えないことは、たとえそれが、尊いことでも・・・・・自分の心を重くします。

・・・どうしても、言えないんですか?」

彼女は頷いた。そして、立ち上がると、そのまま外へ出て行こうとした。
「待って下さい!!!!無茶だ、こんな吹雪の中へーーー」

私は追いかけた。

彼女は信じられない程の速さで走って・・・・・・いや、その姿は飛んでいるように見えた。
「柚木さん!!!!!」

山に向かおうとする彼女に、もう一度大声で言った。「柚木さん!!戻ってください!!!」
彼女は振り向いた。

「・・・・・・主人は・・・私が 怖ろしいと言いました。
最初から、無理だったのです・・・・・・・・なのに、私が・・・・・・・・・・

私が・・・・・・・主人を 愛してしまったんです・・・・・・・・」


彼女は、その姿を現した。

「・・・・・・なぜ ? 私が 雪の世界に 生きる者 だと 誰にも言わないでと

・・・・誰にも言わないでと 言って約束したのに・・・・・ 

愛しているから 出来ると あんなに ・・・ あんなに ・・・・

優しい 人 だったのに ・・・・・・私は 知られてはいけなかったのです。 

私は あの人を 雪に変えるしかなかった・・・・・・・・・・




・・・・・・・あなたも なぜ そんなに 優しいのですか?

・・・・・・来ては ダメです。 もう、忘れてください。

あなたの 嘘は わかっていました。この山で何をしているのか・・・・・・

この山は 人を嫌っています・・・・・」


「・・・・・・・・柚木さん・・・・・ごめんなさい・・・・・・わかりました、もうこの山を
降ります。

ひとつだけ、私の願いを聞いてくれませんか?」

寒いはずなのに、自分の感覚がおかしくなっているのがわかった。

「・・・・・・私は、ご主人の代わりに あなたを抱きしめたい・・・・・」


彼女は 驚いて 目を見開いていた。

雪を踏み越えて 私は彼女の前へ歩んだ。

そして、彼女のその白い身体を 抱きしめた。



「・・・・・・・・初めて 会った時から 好きでした・・・・・・・

あなたが 雪女 だと知っても 怖くはない・・・・・・・・・・

・・・・・自分が 雪になれたら よかったのに・・・・・・・」


彼女の瞼から 涙が結晶のように 零れて 落ちた。



・・・・・・・・雪が 止んだ ・・・・・・・

そして  ・・・・・・風が 止まり  ・・・・・

・・・雲が切れて ・・・・・・光が 射して きた・・・・・・・・

 




・・・・・・・彼女の身体は 雪の粉に なって まるで ダイヤモンドダストのように

      ふわっと空中に 消えていった・・・・・・・・・


 粉雪は きらきら と  私の腕から 落ちて・・・・・・・・・・・


 私は いいようのない 悲しみにかられた。 そして・・・幸せそうな彼女の顔が

 瞳に焼きついて 消えずに残った・・・・・・・・・・・・・・




    ・・・・彼女は なぜ 雪女に なってしまったんだろう

    また 逢えるだろうか・・・・・・・・・・



私が家に帰ると、娘が嬉しそうに言った。「やっと止んだね~~!!」

「そうだね・・・・・・・・・・彼女も、帰ったよ。

明日は もう クリスマス・イブだ・・・・・・・・・

・・・・・まみ、二人で、山を降りよう。



・・・・・・・・・・また、いつか この山にくるよ。

・・・・・・・・約束したんだ・・・・・・・・・・・・・・・」


 陽は 柔らかく 雪を輝かせていた。 山々が煌く風を纏っていた。

永遠の約束は 雪の煌きに似て・・・・・・・・・

風の中にあった。











・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-23 10:06 | 短編小説
登場人物


鉤片 直樹 (かぎひら  なおき)     36歳   研究者

鉤片 真実 (かぎひら  まみ)      10歳   娘

柚木 御幸 (ゆずき  みゆき)      32歳



第  2  話  「  謎  」



みゆき・・・・・・・・・

その声の主は彼女のすべてを知っていた。彼女は抗うこともできずにいつも・・・
夢はちぎれ 途切れ途切れの光と影になり、次のシーンへと急ぐ・・・
熱に浮かされてその顔を身体を そして心を・・・すべてを受け止めて・・・
どこまでが夢で どこからが真実なのか 夢は彼女を笑いながらあやしているようだった。
あ・・・・全部夢・・・私は今 夢を見ているだけ・・・・・


彼女の瞼から涙が流れ落ちた。
何度も頷いて・・・あの、声に、頷いて・・・・・・・どれだけ、心につぶやいただろう・・・・・・
優しい人・・・・・・・優しい 人・・・・・・・・・

私には 耐えられなかったの・・・・・・・・・・・・



ほの明りが・・・雪のあかりが、柔らかいカーテンを通って彼女の横顔に陰影をつくった。
また夢が始まる・・・・・・・・・・・


「・・・・・おばさん?起きてる?」

ドアの外で声がした。子どもの声に、御幸は返事をした。
「・・・・・・ええ・・・・・・」

ガチャッと開いて女の子がベッドに近づいてきた。「もう夕方だよ。お腹すかない?」
「・・・・・・・・・ありがとう。・・・・・でも・・・・・・・」「うん、わかった。お父さんがね、おかゆ作ってた。
あとで持ってくるよ」

まみはそういうと戻ろうとしたが、思い出したように付け加えた。
「あっ・・・・私、真実です。おばさん、名前教えて?」「柚木 御幸よ」「ゆずき・・・・ふうん~~」

「・・・・・・あのさ、おばさん、なんでこんな山の中に来たの?」
「・・・・・・そうね・・・・・・・山が好きだから・・・かな・・・」「私はこんなとこ、大っ嫌い。だってなんにも
ないんだよ~~~!!!」

外でまゆを呼ぶ声がした。「はーいい!!いっけない、早く戻らないと。お父さんが・・・
ゆっくり寝ててね」


・・・・・・・こんなとこ、大っ嫌い・・・・・・・・・
彼女は溜息をついた。・・・・・・・・そう・・・・ね・・・・・・・・
彼女は一度、深く息を吸った。そして、起き上がった。




「あ、もう起きて大丈夫ですか?」

居間にさっきの娘と父親が座ってテレビを観ていた。女性が入ってきたのを見て、父親は
立ち上がるとすぐに台所へおかゆを取りに行った。
「ありがとうございます。すみません、明日、ふもとまで送ってくださいますか?」
「ええ、雪が止んだら車を出しますから。・・・かなり降っているんですよ、ほら・・・・・」

吹雪のような荒れ模様だった。テレビにはシベリア寒気団が伸びてきている天気図が映って
いた。「でも、明日は晴れると思います」

おかゆをもらって、一口一口食べながらテレビを観るとも無く観ていた。
「お嬢さんは、おいくつなんですか?」「10歳」娘の顔を見てから、父親が聞いた。
「・・・あの、結婚されているんですか?」
「・・・・・・・いいえ」「・・・・・・・あ、すみません。気にしないでください」「お父さん、気にしてる
くせに」「こらっ」「・・・・・・いいえ、いいんです。・・・・・こんな山の中に、何の用で来たのか
・・・・・・気になりますよね・・・・・・あの・・・・・・・・ここに、昔知り合いがいたんです。

もう、随分昔なんです。もう、その人はいないんです。
・・・お墓参り・・・で。

すぐにお話しなくて、ごめんなさい」


風が激しく窓を揺らした。
「そうだったんですか・・・・・ここから、近いんですか?その・・・お墓は」
「・・・・・・・ええ。・・・もうその人の親戚はいないので・・・・・・」

娘は突然、ゲーム機を持って部屋に行くと言った。「お休みなさい~~!」
「おやすみ、部屋で遅くまで起きてるんじゃないぞ」「わかってるって」

「お嬢さん、とてもかわいいですね」「いや・・・・あんまり・・・・かわいいというか、生意気です」
「・・・・・・・私、以前は、結婚していたこともあったんです・・・・

・・・お墓・・・雪に埋もれてしまいましたね、きっと・・・」

雪に埋もれてゆく墓・・・なんだかお地蔵さんの側にある墓のように感じて、窓の外を
見つめた。「・・・・・・あの峠かな・・・・もしかしたら、お地蔵さんの側にあった・・・」

「・・・・・そうかもしれません・・・本当にずっと、来ていなかったので、忘れて・・・・」



ガタガタガタ・・・・・・・・
ドアが鳴った。

「・・・・すみません・・・・・・・・話を聞いていただいて、ありがとうございます。
ちょっと疲れがでたみたいです。・・・おやすみなさい」「あ、はい。おやすみなさい」
バタン・・・・・・


一人、居間で彼は考えていた。
あの女性は、山で確かに自分から声をかけてきたんだし・・・その後も私の家について
きた。だから、自殺を考えていたんじゃないのだろう。・・・・・よかった。
ただ・・・・なんだか、話が・・・ぎこちないと思った。なんとなく、その知り合いというのは
ご主人だった人のことじゃないか?・・・・・・そう思っていた。
そして、この大雪だ、明日車は出せるんだろうか?
片付けもそこそこに、彼は寝ようと思った。・・・・気になるが、考えていても始まらない。

明日は雪かきだな・・・気が重くなったが、道具はもう用意してあった。



ベッドに横になって、しばらくして彼は外に気配を感じた。
・・・・・・・外に?・・・・・野犬だろうか?
窓に寄って拭きながら覗いた・・・・・何かが動いた気がしたが・・・・・・・


廊下に出てみるとスリッパの跡がついている・・・・・・・「?なんだ?」
スリッパだと思ったのは、濡れた足跡だった。まさか?!

彼は慌てて玄関に向かい、そこに靴があるか確認した。勿論、あの女性の。
靴はあった・・・・・・それは、雪がまだ溶けずについていた。今さっき、外に出ていたのだ
とすぐにわかった。そして今は家の中か??

彼は彼女が休んでいる筈の部屋の前まで続く足跡を見ながら、部屋のドアを叩くべきか
どうか悩んでいた。

彼女は、謎だらけだ。自分は彼女のことに立ち入るべきなのか?もしも・・・話したくない
ようなことがあるのだったら、それはそっとしておくべきではないか?
・・・・だめだ、私はそんな気になることを忘れることができるような、性分ではない。
(だから、こういう仕事についてしまったんだよな、昔っから気になりだしたら止まらないんだ)

コンコン・・・・・・・・

中から音はしない。

しばらく、そのままドアの前で立ち尽くした。



やはり・・・・・・・難しいよな・・・大体、外で何をしていましたか?なんて聞いて、どうするんだ・・・・
ドアから静かに離れた。パタンパタン・・・・自分のスリッパの音がどうしてこんなに大きいのだと
嫌になった。雪はさっきと変わらず降り続いている。


次の朝は雪がまだ降っていて、その豪雪ぶりにテレビが騒いでいた。
「・・・・・まだこの雲は移動しないですね。この日本海側からの湿った空気と、寒気団が・・・」

「お父さん、雪かき意味あると思う?」「・・・・・・・・・・意味は、あるんじゃないかな」「ええ???」
窓のカーテンを開けながら、娘は言った。「もう、1メートルは積もってるのに??これからもっと
降るんだって!!!止んでからにした方がいいよ、絶対!!!」

女性は、昨日より顔色が白く見えた。窓の・・・雪の反射のせいか。
あまり食欲がないという彼女に、野菜を沢山いれたけんちん汁を勧めて、娘にはサラダも
食べるように言った。「お父さん、野菜ばっかりじゃない」「好き嫌いが多いからね」「う~~!」
ちょっとだけ、彼女が口にしたので、昨夜のことを聞いてみようと思った。

「昨夜は、よく眠れましたか?」「・・・・・・・・・・・・・・・・」「静かだったけど、私はよく眠れたよ。
いつもだと、音楽聴きながら起きてるんだけど」「私はよく、場所や枕が変わると眠れなかったり
するんですよ」「・・・・・・・・・・・・・・ええ・・・・・・・・・・」「今日はおばさんも帰れそう?天気は悪い
けど」「・・・・・おばさんっていうのをやめなさい、柚木さんっていいなさい」「は~~い」
「・・・・・・・・今日、車は出せそうですか?」「・・・・・う~ん・・・難しいですね・・・・除雪車がこの
山奥まで来るのは、かなり時間がかかるんで・・・・大きい国道まで雪かきとなると、雪が
止まないと・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・そうなんですか」「もう少し、様子をみましょう、まだ朝ですし」

何の表情もない顔で、窓を見つめている彼女を見ていて、どうしても気になっていることを
聞きたくなっていた。「まみ、ちょっと席を外してくれないかな」まみは頷くとすぐに部屋へと戻った。

白銀の世界・・・ここに着たばかりの頃は美しい世界に時間を忘れて見入っていた。


「雪の季節は、綺麗ですが、怖いですね」私の言葉に、彼女はゆっくり頷いた。

「お仕事、どんなお仕事をされているんですか?」彼女が珍しく聞いてきた。
「・・・・・土地開発の関係で・・・」いつも答える、嘘の回答だった。そう言えば、大抵の
人は納得してくれるのだ。だが、何故か彼女はそういう反応ではなかった。
急に、暗い顔になったのだ。

「もしかしたら、ダムとかを造る計画があるんでしょうか?」
「あ、いいえ!そうじゃないんです」今更、撤回するのも難しいので、また嘘を重ねるしか
なかった。「道路を新たに計画するとか、そういうプロジェクトです」
「・・・・・・・ここには、とても希少な植物もあるので・・・私はなんでも開発するというのには
反対ですわ」「はい、その通りです」自分で言っておいて、こんなに慌てるとは思わなかった。
「柚木さんは、よくご存知なんですね。・・・・・その、植物とか・・・」「・・・・・はい、ここの花とか
自然がとても好きなんです」

また吹雪は強くなってきた。「・・・・・・昨夜、外に出られませんでしたか?」
彼女の表情は硬いままだった。「いいえ?」「・・・・・・雪が、気になったのかと思いました。
靴が雪まみれだったので・・・・」

「・・・窓から雪を見ていました。でも、その後・・・記憶がないんです。熱があったので
もしかしたらふらふら、外へいったのかしら・・・・・・」「今は熱は?」
「・・・・・・・・大丈夫です、ありがとうございます」「夢遊病かな?それじゃあ、心配ですね」
「・・・最近は一人暮らしだったので、わからないんです」

ちょっとほほえんでこちらを見る彼女は、どきっとする程、綺麗だった。
・・・こんな笑顔の、女性だったっけ?尋ねようと思っていたことを、あっという間に忘れて
しまった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-23 00:44 | 短編小説
・・・時々 想う こんな世界・・・




第 1 話  「  出逢い  」


神雪村・・・遠見の里・・・
雪ん子でも居そうな、雪深い村に住む子ども達は、それでもこの時代の中で何でも
持っていて、いつでもメールやらインターネットやら忙しかった。

親達は昔からここに居るのではなく、ここに企業の為に集団で派遣されていた。
社員として、研究者として、ここで初めて発見された植物や地衣類などを、採取し薬品に
する為のたゆみない努力とまた生活圏からまた酷く離れている為の、これも果てしない
努力を同時にせねばならなかった。それもこれもここでの発見はいづれ世間を騒がせる
ほどのものであるので、誰一人不満に思う者は・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・訂正。

・・・不満は多々あったが、それで企業を変わろうなどと思う者は・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・訂正。



「お父さん、何日記で嘘書いてるのよ?」

娘が覗き込んで、指差して言った。「毎日、居酒屋あ~~~~!!とか騒いでいるくせに」
小学4年生は手厳しい。
「授業は?どうしたんだ」「今、先生がトイレだって」「へえ?今はいいよな~!お父さんの時代は
教室に何が何でも居なきゃならなかったんだぞ??」「つまんないよ?こんなの。学校に通って
いる方が、楽しいにきまってるよ!」「・・・・・ごめんな」「それより~~!!お父さんの日記、もっと
普段の話でも書けばいいのに。この前なんて、庭にサルがきてたじゃない、そんなの書かないの?」
「・・・・・・・・・なんか、サルって見慣れちゃってね」「まあね~~!じゃあこの前の出来損ないお好み
焼きなんかの、写真アップするとかさっ!」


娘は私が研究しているものには興味がないから、この日記をいかに面白くする必要があるか、熱弁を
ふるっている。もう少し、勉強にその熱意を振り分けて欲しいものだが、こんな父親と付き合う奇特な
娘に、不満を言える立場ではないので、思い直した。「そうだな。じゃあ、今度写真に撮っておこう」
「あ、いいこと思いついた!お父さん、研究室のお父さんの動画撮っておこうよ!!」

・・・やりたい砲台、・・・違った、やりたい放題だ・・・
娘の嬉しそうな顔に、つい頷いてしまった。



一通のメールが届いた。
「博士、日記を検索していて辿り着きました。同業の者です。どうぞよろしく」
差出人は海外、そしてこれがどんどん増えていった。

「お父さん凄いね!!!やっぱり研究してる人はいっぱいいるんだね!!」

・・・だが、そうとはいえ問題が無い訳ではなかった。つまり・・・この生態系の問題である。
この場所を探られる訳にはいかないのだ。どうしてかといえば、ここは人が何百年も立ち入って
いない・・・いや、下手すれば数千年は入っていない手付かずの山奥なのだ。それだから、
研究に値する植物や地衣類が生きているのだ。

「・・・日記は、閉鎖するよ。そうしなければ、ここが荒らされてしまう」
「どうして??」「・・・・・・ここは、本当に大切な自然が残っているんだ。仕方が無いんだ」


山の中に毎日踏み入って行く。雪が舞っている森を今日も変わらず歩く。
今日はもう少し西の方へ行こうといつもの杉の樹を左へ歩んだ。
もうこの辺でサンプルを採取しようと腰を下ろした。人影が樹の前を通り過ぎた。
目を凝らしてそちらを観ると、軽装でリュックを背負った女性がこちらを見て、会釈している。
こちらに近づいてきて、話しかけてきた。「こんにちは。山菜取りですか?」
「・・・・・ええ」「この季節では、もう少ないですよね」「・・・・・・まあ・・・・・・」私は用意していた
ルーペをポケットにしまい、女性と少し会話しようと作業を中断した。

「・・・山歩きですか?どちらからみえたんです?」「ええ、私はあちらの方から・・・」
「沢づたいに?それは大変なコースですね」頷いて、女性は笑った。「昔はもっと歩いたんです
けど・・・」「でもこの季節は、熊とか危ないですよ?女性が一人では・・・」「そうですか?」

・・・私は双眼鏡で辺りを見回した。「時々、こうして確認しないと」「・・・うっかりしていましたわ。
そうですよね・・・あまりに綺麗なので」なんだか、ちっとも緊張感がない人で、私はつい余計な
心配をしてしまった。「この辺は、もう村人も来ませんし。よろしければ、家にきませんか?この雪は
吹雪きそうです」女性はにっこりと微笑んだ。「あ、私は 鉤片 直樹 といいます」
「私は、柚木 御幸 ・・・です」

娘は突然の来訪者に驚いたようだった。驚いている顔を見て、何故か可笑しかったが
自分でも何故おかしいのかよくわからなかった。
「・・・・・・・・こんにちは・・・・・・・」娘は私の腕をつかんで、玄関から奥へと引っ張っていき
すぐに問いただすように質問をしてきた。「誰???誰???お父さんの彼女????」
「そうそう」「な、わけないか!!!!お父さん、ナンパですか?!」「馬鹿言いなさい。
山が吹雪きそうだったから、立ち寄ってもらっただけだよ」

娘はすぐに奥へ引っ込んでしまった。あきらかに動揺しているようだったが、わからなくはな
かった。自分でも、随分大胆だと思う。だが女性と話している内に気がついた。

「・・・・やはり雪がかなり降ってきましたね」私はお茶を勧めながら言った。
「・・・ええ。・・・あの、ここにはずっとお住いなんですか?」「いいえ」

ちらっと窓際の棚の写真に目がいった。「・・・まだ2年目です。娘と二人でここにきましたが。
仕事の関係でして。それで、柚木さんは今日はどちらまでゆかれるのですか?よかったら
雪が止んだらお送りしますよ」

お茶に目を落として、彼女は返事を一瞬ためらっている様だった。
「ありがとうございます。大丈夫です。私の親戚の家が、里に下りたところにありますから。
お気遣いいただいて申し訳ないのですけど」
「ご親戚の家はなんという方ですか?よければ電話もありますので」微笑んで彼女は頷いた。

私は、彼女がもしかしたら自殺を考えているのではないかと思い始めていた。心配が杞憂であ
ればいい、だが冬山なのに軽装で荷物も少ないということが、気になった。
自分とさほど年齢が違わないであろう女性の顔を、じっと見た。つい、しゃべりすぎる自分に、
相手が黙ってしまうと気がついて、ちょっと仕事があるのでと言って部屋を出た。


そして、電話した。「すみません、捜索願がでていないか、確認したいのですが・・・」
警察はそのような人の捜索願は出ていないと言った。ほっとしたが、もしかしたら偽名かも
しれないと、女性の特徴を伝えておいた。

部屋に戻るタイミングを、少し考えた。
悪い方へ考えてしまう・・・頭を振ってそれを否定すると、窓の雪を観た。
ドアを開けて、女性の居る居間に入った。

「雪、これから本降りになるようですよ」部屋と外の寒暖差のせいで窓ガラスは曇っていたが
かなり激しくなった雪の様子に、女性は頷いた。「・・・・すみません」「いや、やはり今日は
動かない方がいいでしょう。・・・それじゃ、使ってない部屋があるんで、そこに・・・」

女性はふらふらと立ち上がると、顔に手をあてた。「!大丈夫ですか?」「はい、ちょっと・・・」
そのまま、彼女は倒れてしまった。私は慌てて彼女を起そうとした。


「!?ひどい熱だ!!おおい、マミ!!ちょっと来てくれ!!!」





彼女は倒れて意識を失っていたが、寒気はだんだんと去って、その代わり暖かく柔らかい
場所にいると感じていた・・・・・・・

ゆっくりと・・・夢が降りてきた・・・・・・・








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
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by f-as-hearts | 2010-12-22 17:51 | 短編小説
・・・・・・・・・・・またしても 徒然・・・・・・・・・・・・・・・

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by f-as-hearts | 2010-12-15 08:40 | 祈り


   ・・・徒然なる 夜話・・・

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by f-as-hearts | 2010-12-10 01:33 | 祈り
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羽つきミンク

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by f-as-hearts | 2010-12-02 22:16 | 祈り