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SF 「瞳の中の記憶」 4

        <アオイ>

さっき、あのマスターと話した事が、あまりにも符号が合いすぎる。そんな馬鹿な!まさか彼女を創る様に依頼したのが、大統領だとでも?!そうなら、大統領自身がもっと安全、かつスムーズに事を進めるだろう。俺に頼む事もない筈だ。

「・・・ジェームズ!くそっ!博士の仕事はこれだから引き受けたくないんだ!!こんな、最初ッ~から謎だらけの仕事、今すぐキャンセルだ!!」怒りが込み上げてきた。アイツの眉毛を全部引っこ抜きたい気分だ。

「無理だよ、もうアパートメントの溜まった家賃、ぜーんぶ払っちゃったんだから!」PCを操りながら、冷静に答える割には、目はくるくる画面上を動き続けている。「勿論成功報酬は、まだだけど。金額、知りたい?」「・・・・・いや、いい。・・・・・どうせ、返せる気がしない。」何故、あんな奴と幼馴染なんだ?「それより、何故彼女は作られたんだ?アンドロイドが何故必要なんだ?」そもそも、何が特別で、どういう風に彼女が最高傑作なんだ?・・・・

「博士、聞いてるんだよな?今すぐ、携帯に電話してくれ!話によっちゃあ・・・・」気色ばんで言いかけると、すぐに携帯が鳴り始めた。

「お前の仕事は、キャンセルだ!!全部、お前の隠している事、全部話せ!!」思いっきり叫んだ。トンボも彼女も、あまりの怒声に、耳を塞いでいた。

・・・・電話の向こうの博士は、携帯を耳から遠ざけて持っていたので、事無きをえた。

「君の訊きたい事は、依頼主の問題に言及する事になる。ので、答えられないし、キャンセルは出来ない。質問には答えよう。」何を訊いても、きっと依頼主の話に直結してしまう。考えろ、考えるんだ。

「・・・・・そういえば、彼女の名前を、訊いていないな?」博士は、一瞬、目の前が暗くなった。「・・・・・アオイだ。・・・・・」その名前を、どこかで聞いた覚えがあった。どこだ?・・・・・
「アオイ、あおい・・・・・・葵!!アオイというんだな?!」博士は、呟く様に言った。「・・・・そうだ、アオイ、という。彼女の名前だ。」プッ・・・・・・携帯が切れて、静寂が訪れた。

「どうしたの?アオイが、どうかした?」「トンボ、確かにアオイって博士は言ったよな?」
「アオイっていうのは、博士の奥さんがつけた名前だ。・・・・亡くなった奥さんが、女の子が生まれたらつけようと思っていた、名前なんだよ・・・・・」

・・・・博士は、静寂の中に、ひとり取り残された。博士は、珍しく独り言を言っていた。
「やはり、お前は勘がいい。私の目には狂いが無い訳だ。」博士は、椅子を離れると、階段の上の踊り場に掛かる肖像画を見上げた。「・・・ジョリーン、君が居てくれたら、私はこんな事は考えもしない男だったんだが。私は、気が狂ったんだろうね。」肖像画の女性は静かに微笑んでいた。

・・・・リョウはアンドロイドをじっと観ていた。博士のアオイに対する想いは半端ではないだろう。そして、この任務、アンドロイドにしか出来ない事とは、一体なんだ?そもそも、何故博士はアンドロイドを作るようになったんだ?・・・謎だらけだ。流石に、俺には1つも解りそうに無い。

「・・・・疲れたから、今夜は寝よう。お前達も、オセロなんかやめて、早く寝ろ!」二人は終わらないゲームを見るように4手目から動かなくなっていた。「ああ、時間制限付きにするよ、今度は」そうしてくれ、プロのゲームの緊張感はたまらないよ、全く。二人が寝たのを確かめて、俺は古いアルバムをPCの中に探した。そこには、博士と自分と、ジョリーンが写っていた。

      <ジョリーン>

「あなたは、日本人なの?よくこの授業をすっぽかすわよね?」明るいブロンドのロングヘアーを無造作にゴムで結んで、木の下に寝転んでいる俺の顔を覗き込んだのが、最初の出会いだった。

ジョリーンはよく通る大きな声で笑う、俺が日系人なのも気にしないし、むしろやたらと俺に絡んでくる。その頃、彼女と博士、いや、ジェームズは大学で首席を争い、また、二人は付き合っているらしいと、噂になってもいた。だが、そこになぜか、落ちこぼれの俺が入ってしまった。奇妙な三角関係だ。

「バミューダ・トライアングル」とか、俺達の事を皮肉る奴らも居た。謎は、ここから始っていたんだな。何故、彼女は俺に色々な話をしていったんだろう・・・・。

「ねえ、聞いて。リョウ、私はジェームズに尊敬と一生の愛を誓うけど、リョウ、あなたには、彼からは貰えないものを貰ったわ。それは、ときめきと自分が女だという気持ちよ。」

鮮やかに、そういってウエディングドレスの彼女はジェームズの待つ十字架の前に、歩いていった。・・・そうだ、俺は確かにあの時の彼女に、言えなかった言葉があったんだ。

・・・その後も、俺達は何度か会った。その頃だな、アオイという名前が好きだ、っていうのを聞いたのは。彼女は、「ジェームズは研究になると、周りが見えなくなるのよ。私の[脳神経科学]と彼の[精神科学]を結びつけて、不可能に挑戦しようとしているの。」といいながら、溜息をついていたっけ。それから・・・・・

「私達、子供が出来ないみたい。昨日検査結果が出たの。」そういいながら、俺に泣きついた。ジェームズが、俺との仲を疑いだしたのも、思えばこの頃か。疑いは、膨らんで、とうとう彼女は家を出てしまった。

そして、その後彼女には会う事も無く、彼女は交通事故死だったと聞いた。今から、8年前・・・・
そして、探偵をしている俺に博士からの仕事が時々入るようになったんだ。トンボの事とか。
・・・彼女の瞳の色は、エメラルド・グリーンだったんだ・・・写真の彼女は、永遠に21歳のまま、微笑んでいる。・・・・俺は最後に彼女を抱きしめた感触が甦ってくるのを感じた。アオイを守ってあげて・・・まるでそう、言っているように。

          <そんなバカな!>

明け方、まだ日が昇りきらない刻にジョリーンがベッドの俺の腕の中に滑り込んで来た。白い肌がほのかな明かりの中で煌めいている。ほのかなグリーン系の香水が彼女の胸元から首筋にかけて脈打つように香っている。俺は自分の日焼けして浅黒く見える肌に擦り寄ってくる体を、奇跡を見るような気持で眺めた。

夢だ・・・・じゃあ、何をしたっていいわけだ。何もまとっていない、その体を思いっきり抱く事も・・・手が、伸びてその肩先に触れようとして・・・触れた。

「え?」いきなり、脳に血が昇って、沸騰しそうになった。「・・・・・・あ、アオイ!?」

そう、アオイだ。彼女は催眠術にかかったように、目がすわっている。

「おい、アオイ、寝ぼけているのか?」「寝ぼけては、いませんわ。学習したんです。」

その答えに、俺はすっかり目が覚めてしまった。「俺で試すなよ・・・あいにく、理性があるんでね。俺はトンボのような訳にはいかないぞ。」危ない、危ない。どんな「学習」をしたのやら。エロドラマでも観たのか・・・しかし、何故こんなにイライラするんだろう。

「いい子でいろよ、お前は大事な最高傑作なんだろう?」アオイは首を横に振って否定した。「そのうち、私の事は忘れるでしょう。そのほうがいいんです。だから・・・・・・・」なんだか、アオイが可哀想に思えてきた。「お前は、何も知らないんだな。俺はお前を守ってやるよ。いいボディーガードは、守る相手に惚れてはいけないんだ。解ったか?」今度は少し頷いた。そして、安心したのかそのまま俺の前で、すやすや寝てしまった。

「俺の、負けか、博士。なんてものを創るんだ、こんなマリア様がいてたまるか!」

その日は、3人で出掛ける事にした。車に乗り込むと、彼女の洋服や雰囲気が俺達とは全く違う事に嫌でも気が付いた。「これじゃあ、アオイが目立ちすぎるな」そう言って、後部座席のアオイを見ると、スカーフを被って、鼻の下で結んでいる。

「お、お、おまえ、何のつもり?」「目立たないように、変装を」「余計目立つわ!!!やめんか!!!そんな事ばっかり仕入れて、おまえは、お前って奴は!!!」トンボはまたしても、笑い転げている。

「それって、もしかして、ドロボースタイル?それも、日本の?!あ、あはははははは!!!」・・・ああ、マリア様、俺達をお救い下さい。この、アホなアンドロイドの脳みそをどうか真っ白にして下さい。    「博士~覚えていろよ!」


       <アンドロイド>

俺達は、兎に角彼女の格好を何とかしなければならなかった。それで、馴染みの店に入ると洋服を3Dで合わせてどんどん着替えさせてみた結果、リーバイスのジーンズにぴったりした合皮のカットTシャツが合う事が分かった。

店員が「お似合いですよ~」と言う言葉に「お世辞どうもありがとう」と言ったのを除けば、変な所はもう無かった。

今日は、その後朝食を 中華街で中華粥を食べ、動物園でサルをからかい、隣接した公園の草っぱらで、走り回った。柔らかいボールを買ってキャッチボールしたり、レインボーソフトクリームを買って来て食べたりした。その間中、アオイもトンボも大騒ぎで転げるように遊んでいた。

俺は、アンドロイドを今まで知らなかったから、どこかに[人間もどき]という偏見があった。こうして自然の光の中で彼女を観察して、どこか人間と違う所がないか、探していた。ところが、そんな考えを捨てるしかないという結論に辿り着いた。

俺は、今度こそ、アンドロイドの真実を博士から訊かねばならないと思った。

「トンボ、アオイ、そろそろ光の遮光効果が切れる頃だ。アパートメントに戻るぞ。」残念そうな顔の2人を連れて、車に戻ると若いカップルがこちらを見ていた。「僕達、どんな風に見えるんだろう、親子かな?」トンボの嬉しそうな声に、あいまいな返事をしてアパートに急いだ。

2人を置いて、俺は車に乗り込んで行き先を訊くナビは無視して、博士に電話をした。「そろそろ電話してくる頃かと思っていたよ。」「わかっているなら、話が早い。あんたの研究について教えて貰いたい。アンドロイドは何故必要なんだ?」「・・・・架空の話にしか聞こえないだろうな。いいだろう、これから言う所に向かってくれ。そこに、答えがある。」

車で向かった先は、大通りの銀行の隣りにあった。大きなジュエリーショップだ。おいおい、俺がここに入るの??見ると、店の中から一人の店員がドアを開けて、リョウを招き入れた。

「ようこそ、お待ちいたしておりました。ミスター・リョウ、博士より伺っております。」何を伺ったというんだ。兎に角、すぐに店の中に入って、誘導されるままに奥に進んでいった。
by f-as-hearts | 2005-03-02 22:36 | SF瞳の中の記憶

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