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メタモルフォーゼ  風の子守唄

第 8 話

 「さてさて、お話はまた北の森に居るブラウン達に戻るので御座います。」


主人公 ブラウン・ローゼズ  (魔法使い・召喚師)

      クレイバー・ラインハルト・J   (ラインハルト国の王子)

      ルナ・ジェファーソン       (カーライル国の王女)
           

             <  Ⅷ  >

 軽い火傷をおった銀狼を、近くの川まで連れてゆき、治療を施すとブラウンは不覚にも睡魔に襲われて、倒れ込んでしまったのです。「ブラウン?!」姫の声が聞こえた気がしましたがすでに意識は遠のいていました。

 「おとうちゃーーーん!」ああ、私はまた この夢を見ているのだな・・・・この2年間というもの、1日も見ない日はなかった夢を・・・・「おお、大きくなったな・・・お母さんはどこにいる?」・・・は、にこっと笑うと 駆け出した。「こっち、こっち!」私の家の周りには、妻が植えた野草が小さな花を咲かせていた。この荒地には、植物が根を張る事すら、厳しいのだ。掘っても出て来るのは、砂利と大きな石ばかり。そんな地でも、妻は 文句も言わずに 畑を気が遠くなるような努力で作り、少しばかりの野菜と、ニワトリを飼って私の帰りを待っていたのだ。

 妻は、シーツを洗っていたのだな、・・・は、妻の元へ子犬のように駆けて行く。妻は私の姿に気がついて、手を振っている。 ・・・そうだ、このおみやげを渡さないと・・・

 「ブラウン?」ルナは、私に心配そうな声を掛けた。「大丈夫?随分うなされていたようだけど?」私はどうも彼女に寝言を聞かれたらしい、そう思ったが、仕方がないか・・・・段々意識がはっきりしてきたので、上半身を起こすと、4つの目がこちらを見ていた。

 「・・・大丈夫ですよ、姫。いつもの事なので。ああ、東の空が白んできましたね。」姫は、軽く会釈をすると「もう、半日が過ぎてしまったのです。私がまた、日暮れにここに戻るまで、王子をよろしくお願いしますね。」

 姫はすっと立ち上がると後ろを向いて朝日の方に向かってゆっくり、ゆっくり手を伸ばしてその手を上に上げ始めた。見る間に、手の先から柔らかな羽毛が生えて、その体を覆い始めた。最初は真っ白な羽毛、そして鷹特有の縞の入った風きり羽根が生えると、それは見事な変身を遂げた。ばさっと一度羽ばたくと、賢そうな水色の瞳を持った大鷹が、そこにいた。

 隣りには、これも王子に戻った元、狼がいる。「ブラウン、俺の姫に惚れるなよ。いいな?」開口1番、これである。「そうだな、好きだなんていったら、あの鋭い爪とくちばしで引裂かれた上に、お前の牙で噛まれそうだからな。充分注意する事にしよう。」王子は、頷いたが決して冗談で言ったのではないことぐらい、私にもわかった。「まだ、明け方だ。もう少し日が昇ってから出発する事にしよう。」

 ブラウンと王子は、魔法使いガラティアの城に行く道を考えておりました。「やはり、遠回りにはなるが湖を一旦東に廻って、北上し、湿原の反対側にある山岳地帯から城を目指した方がよいだろう。」王子が持っている地図は、ラインハルト王家の印が押してあり、門外不出のものでありました。「ルナ、上空から俺達の行く手に敵がいないか、観てきてくれないか?」ばさばさばさっと羽ばたくと、鷹はあっと言う間に木々を軽く飛び越え、二人が示した行く手を偵察に行き、やや暫くして戻ると、王子の腕にとまり、首を縦に振り大丈夫だと伝えるのでした。「よし、行こう!」

 この森は、原始の初めから豊かな緑をたたえてラインハルトの国に清涼な空気と水をもたらしていました。「私の住んでいた所とは、偉い違いだな。」見上げると、自分のいる所が深い森の底で、上空の青空は木々の重なりの中で断片のように輝き、時折聴こえる鳥のさえずりや、風が吹き抜ける音は この森の絶対的な調和の為に必要な、それさえも神によって用意されたものであるのだと感じられるのでありました。3人は、その森にはたらく、不思議な力によって守られながら旅を続けられたのでした。

 「ブラウン、俺は訊きたい事があるんだ。あんたが魔法使いを追う理由。あの、サラマンダ―が言っていた最後の召喚師の意味も。」鷹が捕まえてきたうさぎを鍋で煮ながら、王子が言いました。

第 9 話

 「ブラウンには大きな、重い運命があったので御座います。
 それは、それは、重い運命が。・・・続きで御座います。」


主人公 ブラウン・ローゼズ  (魔法使い・召喚師)

      クレイバー・ラインハルト・J   (ラインハルト国の王子)

      ルナ・ジェファーソン       (カーライル国の王女)

            
               <  Ⅸ  >


 「・・・教えてくれないか?あんたが俺達の申し出を受けた理由を。」珍しく、真面目な口調で王子が訊いてきたのです。「運命だ、と言っていたよな?」
「・・・今は、全てを話せないが、それでもいいかね?」重い口を開いて、話し始めたのは、召喚師の村の事でありました。

 「私達の村は、魔法使いの系統からまた、枝分かれした召喚師という者達の村だったのだ。普通、魔法使い達は、信奉する神、一神にそのものの命を捧げて魔法を使う契約を結ぶのだが、召喚師は一神に誓うのではない。召喚師の一族全て、子々孫々に至るまで命の契約を交わす事によってのみ、その力をあらゆる神からお借りする事が出来るのだ。

 その為の修行は困苦を極め、長きにわたり伝えられる伝承の地を巡らねばならない。中には、志半ばで息絶える者もいる。そして、召喚師の師、大召喚師に認められたものが、最後の修行を受ける資格を得るのだ。」ふっと、一息おいてから、ブラウンは訊きました。

 「王子は召喚師の仕事を観た事があるかね?」「いいや、話には聴いた事があるけど」「そう、召喚師は私の村だけになっていたのだ、もう召喚師という者達がいたという事実さえ、忘れられる時代が来ていたのだ。そして・・・・」

 ブラウンの顔色は みるみる真っ青になっていった。「あの、魔法使いが我々の村を焼き払ったんだ。」  王子は一瞬、ブラウンが言った意味の大きさに愕然としました。
「・・・・・話は、ここまでだ。それで、今は充分だろう。」

 北の森は、豊かでしたがどこまでも続いている訳もなく、いよいよ湖の周りの道無き道を切り開いて行かねばなりませんでした。朝方と日没の2回を休息の時間として、3人は昼夜を問わずに歩き続けたのでした。湖の周囲はどこの国の領土でもなかったのですが、それには訳があったのです。

 「うわ、来たぞ!」王子が叫ぶと、ブラウンもトネリコの杖を構えました。藪の中、そして土の中から、それは湧いて来るのです。

 「けけけ、こっちの奴は美味そうだし!」「へへえ、こいつは老人じゃないのか?まあスープのだしにはなるかっ!けっいただきまーす!」「けけけ、お前にさき越されてたまるかよ―――!」出るわ出るわ、うじゃうじゃとゴブリンどもが、周りを取り囲んでしまいました。

 「アー――うっとおしい奴らだなあ!俺は食べ物以外は殺したくない主義なんだ。頼むから、通してくれよ!」剣を振り回しながら、王子は叫びました。

 「しょうがない、王子、目をつぶっておれ!」杖を胸の前で構えて印を切り結ぶと叫んだのです。

「・・・あまねく天翔ける風、雨、嵐を司る神よ、我が声に応えよ、我は召喚す、雷神よ、あれ!」

 途端に、王子とブラウンの周りで、光が炸裂しました。ゴブリンどもは、黒焦げになったり、腰を抜かして倒れ込んだり、一瞬にして目の前の召喚師に恐怖を叩き込まれました。
「大丈夫じゃ、死んだ者はよほど行いの悪いものよ。・・・よいか、ゴブリンよ、我々はこの地を通らせてもらう。邪魔するではないぞ!」いつの間にか、鷹も上空から戻って来ていました。

 と、見ると 1人のゴブリンの子供が、怯える風でもなくそこに突っ立っていました。「おじちゃん、なにもんだ?いまの、なんだ?」3人は顔を見合わせました。「お前は、怖くないのかね?」
「こわくない。おれのおやじは ごぶりんのとうりょうだ。おれは、おやじみたいにつよくなるんだ。」その顔は、無邪気そのものでありました。ブラウンは、息子の事を思い出して苦しくなりました。

 「では、父上に伝えてくれ。我々はここを通り抜けさせてもらいたい、とな。」「わかった。」子供は急いで駆け出して行きました。その後は、ゴブリンに道を塞がれる事はありませんでしたが、おもわぬおまけが付いて来てしまいました。

 「おれもいく。おやじはいけといってくれたから。」3人が頭を抱えてしまったのは、いうまでもありません。「ブラウン、あんたのお蔭だからな、あんたが子守りしてくれよ。」ブラウンが何か言おうとしましたら、すかさずゴブリンの子供が言いました。「おれについてくれば、あんしんだぞ。くえるもんはぜんぶ、おしえてやるよ。」ゴブリンの子は大真面目にいいました。「どくへびいがいは、ぜんぶくえる。」

「これはこれは、またまた面白いことになりましたな。この続きはどうなるのでしょうや?」

第 10 話

 「ゴブリンの子供は、グルという名前でしたな。グルはよく食べよくしゃべり、大人達のいい遊び相手になったのでした。」

            <  Ⅹ  >

 「ここのほらあな、くまのす。くま、いまいないぞ。のぞいてみるか?」グルは早速中にずかずか入って行ったが、慌てて出てきたのです。「いるす、つかうくまだった。あいつはもう ともだちじゃない。」「居留守?つまり、くまがいたって事か?ま、待て、まずいんじゃないか?!」
「うん、よくわかったな」「いや、怒ってるぞ、声が―――!走れ!!!」グルは逃げ足も速かった。ブラウンは、さすがにゴブリンだわい、と感心したが今はそれどころではないと、走りに走りました。 グオーー、グオー―――とくまは怒っていましたが。

 そんな毎日でしたが、グルはなんでも覚えるのも早いのです。火の熾し方、狩の仕方、言葉、彼らのやる事なす事全てが、グルには面白いのでしょう。その内、魔法も教えろ、何ぞといいかねないな、とブラウンは笑いました。そして、自分が本当に久しぶりに笑っている事に気がついたのです。「考えてもみろ、魔法を使うゴブリンだぞ?!前代未聞だ、はははは・・・」

 当のゴブリンはナニが面白いのかわからないという顔で訊きました。「おかしいのか?はらにむしいるのか?」「ああ、いるかもしれんな、グル、お前といるとワクらしいわい!」

 この場所は、ゴブリン達が住んでいた所為で人に荒らされずに、野生の木苺やら山葡萄、りんごまでたわわになっていたのでした。「ごぶりん、そだてない。でもたねはそのへんにすてる、するとしらないうちにまたふえてると、みんないってるぞ」

 ルナは、りんごを食べて感動したように言いました。「この種は、カーライルに絶対もっていくわ!女神様の山に植えれば、女神様のお口にも入るでしょうから。」大切そうに果物の種をしまう姿に、ブラウンは妻の姿が思い出されて、おもわずルナに背を向けると言いました。

 「カーライルはよい国です。姫も早くお帰りになりたいでしょうな。」姫は、ブラウンの問いかけに素直に答えました。「そう、緑豊かなカーライル。そうだ、こんなざれ歌、思い出しましたわ。」そう言うと、姫は明るい声で 唄い出しました。

  さあさ、 おいでよ この市場~ 
  なんでもあるけど タダじゃない
  あんたは神様 お客様~ 
  冷やかす客はおっぱらえ 
  飲んでる客から巻き上げろ  
  飲めばここは天国それとも 地獄
  なんでもあるからお客様~  
  どうぞ御代はぞんぶんに
  わたしらは なんでも売りますよ~
  しまいにゃあ宿六うっぱらえ!

 グルは、大喜びで踊りだし、姫は楽しそうに拍子をとって歌ったのです。その姿を目を細めて狼は見ておりましたが、ふいにブラウンを見るので「ああ、わかってる、惚れたりしないよ!」

 「面白い歌でしょ?市場で女将さん達が、みんな歌っていたわ。」「はは、姫はなんでもご存知だ。」「そうよ、市場で流行っていたスタイルだって、街中では真似していたの。誰も姫だなんて気がつかなかったぐらいよ!」この夜は、ルナがいろいろな話をする番でした。グルはおとなしく話を聴いていました。「今夜は、移動するのは止めておこうか。姫もお疲れのようだし。」
ブラウンは、そういうと火にくべる焚き木を探しに近くの林に行きました。

 静かな星の夜で、スウーッと西の空に流れ星が流れました。焚き木を何本か拾っていると、ふいに人の気配がしたのです。不思議な甘やかな香りがブラウンにまとわりつくように漂い、その香りにブラウンは絡め取られていました。

 「・・・・あなた・・・・」林の闇の中から現れたのは、紛れもなく、ブラウン の妻でした。
 
 「・・・・セリーヌ・・・? まさか、私は 夢を見ているのか?」焚き木が手からこぼれ落ちました。「セリーヌ、おお、お前!生きていたのか!」
 
 ブラウンは目の前まできた妻の顔をまじまじと見つめました。セリーヌは荒地に咲くゆりのように美しく、彼の貞節な妻でした。その、しろい顔、大きな薄茶色の瞳、黒い髪、自分より10歳も年下なのにしっかりした意志をあらわす眉も、全てが紛れもなく、セリーヌ本人でした。

 「あなた、逢いたかったわ。私を、もう 置いて行かないと、誓って。」セリーヌの細い腕がブラウンの首筋にのびて、体が触れた。ブラウンはもう動けなかったのです。「お前・・・」

 「お願い、誓って・・・・私を もう 離さないと。この世の終わりが来ようと、私の事を愛していると言って・・・・」ブラウンは頭の中が痺れていくような感覚に、溺れていきました。

 「・・・ああ、愛している。 お前が死んだなんて、ずっと信じられないでいたんだ。これが幻でも私の望みは、お前と永久に一緒にいることだったんだ。誓ってもいい」二人は長い夢の中で抱き合い、時を忘れておりました。甘い香りは、林中を包み込みブラウンが夢から覚めることは無い様に思われたのでありました。

「夢、うつつ、幻の、なんと甘美なる事でしょうや。ブラウンが再会した妻は一体・・・さても不思議な事となりましたな。」

第 11 話

 「いつまでも戻らないブラウンに、ルナ達は何か異変を感じたので 御座います。」

          <  ⅩⅠ >

 「焚き木、見つからないのかしら?」ルナは立ち上がると、林の方へ歩き出しました。グルも一緒に行こうとしたので、狼もあくびをしてから、のっそりと歩き出しました。しかし、やはりすぐにおかしな臭いに気がつき、走って2人の前を遮ると、歯をむき出して低く唸り、これ以上近づくな、と警告しました。

 「何か、あるのね?!」ルナは、すぐに弓を携えると、林の方に向けて構えました。その先50mぐらいにブラウンがいるはずなのです。しかし、いくら目を凝らしても林の中までは見えませんでした。と、その時です!

 ヒュン ヒュン ヒュン!!! 何かが林の中から3人目掛けて凄まじい勢いで飛んできました。ルナ達が慌てて身をひるがえすと、今立っていた場所の草が、すっぱりと切れていました。
 
 ヒュン ヒュン ヒュン! 何度も見えない攻撃を受けている内に、林の方から人影が歩いてくるのが見えました。「誰?!姿を現しなさい!」ルナは、ハッと矢を射ました。

 カッ・・・と矢は杖に刺さりました。その人影はブラウンと妻だったのです。
ヒュン ヒュン ・・・・風が ブラウンの周りを 踊り狂っているようでした。

 「風の眷属 カマイタチ、お前達のなまくらな目に 捉えられる訳があるまい!ゆけ!暗闇を統べる風の鎌よ!切り刻め!!」その声、そして姿は、さっきまでのくたびれたブラウンではありませんでした。威風堂々、その目はギラギラと敵を睨み付け、指の先からまるで剣の切っ先のような波動すら感じられるのです。

 「止めて!ブラウン!私達が判らないの?!」ルナの叫び声も、狼の吼える声も、今のブラウンには聞こえないのでした。「ぶらうん!きがくるたか、あぶないやつか?」グルも木の陰からルナに声をかけましたが、お互いが近くにいない方が、カマイタチの攻撃に晒される事が少ないと、離れているようにルナはいいました。「正気に戻って!私達は敵じゃない!」 

 ヒュン ヒュン ヒュッ!!「・・・・あっつ!!」避け切れなかった風で、ルナの右足の腿にスパッと鋭利な傷が、そして赤い血がさあっと流れました。

 それを、見た銀狼は、全身の毛を逆立てて震わすと、一声月に向かって吼えました。するとあっという間に狼の姿は2倍にも大きくなり、ブラウン目掛けて体当たりをしたのです。風は鎌となって何十本も狼に襲いかかりましたが、それは銀色の毛皮を突き抜けることはありませんでした。銀狼の牙が、暗闇でギラッと閃き、その姿は銀色の獣神のようでした。

 「風神結界!」ブラウンは狼との間に風の盾を張ると、言いました。「お前達は私達2人の邪魔をするものだ。私と妻の世界を守って下さるのは、ガラティア様だ。私達はガラティア様の所へゆく。」風の盾に阻まれて、その台風の目の中の2人には近づく事も出来ず、2人が風神の力で飛んで行くのを、3人は なすすべもなく絶望の中で見ていました。後には、風で薙ぎ倒されたりんごの木が、無残な姿を月に晒していました。

「突然の心変わりと別れと。残った3人に待ち受ける運命やいかに?」
by f-as-hearts | 2005-04-20 00:16 | ファンタジー小説

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