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予言のリング 5

カシュク            ・・・ 21歳    美術品修復師・美術教会特別顧問 
                            アラバイン国出身 
                            予言者のリング所持者

レンカ             ・・・ 37歳    美術教会最高顧問 理事
                           特殊能力者

テグン             ・・・ 46歳   キンググランドオーケストラ指揮者 音楽家


コンコード           ・・・ 50歳   チェリスト
                 

ジュライ            ・・・ 44歳   バイオリニスト


エメラダ            ・・・ 68歳   バイオリニスト 故ノーザンクロスの妻



第 5 話



ジュライはにこっと笑いかけた。

「とても面白いお話ですね。本当のことでしたら。
まさか、私が演奏をしているとお考えだったとは、思いもしませんでしたわ。
私はてっきり、ノーザンクロスの楽曲を演奏する機会を戴けるのかと思っていました」

レンカは唸った。
「・・・・・・・・・!!うう~~~~んん・・・・!!」
(なるほど・・・そう、簡単には認めない・・・か!!じゃあどうする?!)

「そうですね、ええ、今この楽曲を、どうやって世間に発表するか、美術教会として
協議中です。

ノーザンクロス氏が一人で創り上げた作品なら、奥様だけの承認でいいのですが、ね。」

ジュライは何も反応しない。

「・・・・・そうなんですよ。

この遺作は、ひとりのものじゃない。」

腕組みをし口元に手をあてて、レンカは悩んでいる顔をした。

「奥様がこれを発表して欲しいと言われても、無理かもしれませんね・・・・・・・」


ジュライは思いもしない言葉に驚いた。
「は・・・・・・発表して欲しいって、言われたんですか?」

「ええ。絵の修復師カシュクが、この楽曲について詳しく伺う為に、今頃奥様に
会っているんじゃないかと思いますが。

おお、そうだ~~!!
・・・なんでしたら、今なら奥様に繋いでもらえると思いますので、直接訊いて
みましょうか?」

「待って下さい。・・・ノーザンクロスの遺作だということはわかりましたが、レンカ最高顧問。
何故今までこの楽曲が世の中に出てこなかったのか、理由を奥様はおっしゃいましたか?」

「いいえ?・・・ジュライさんはご存知なんですか?そういう風に聞こえますけど?」

ジュライの手が震えていた。
「いいえ、存じません。噂を聞いたんです」「ほう?・・・どんな噂でしょう?」

「・・・・・・・ノーザンクロス、は・・・これが自分の最後の曲だと 知っていたっていう・・・」

今度はレンカが飛び上がるぐらい驚く番だった。

「な・・・・・・・・・・・・・・・・!!なんですって??

誰に、聞いたんですか?!そんな話は誰も知らなかった筈ですが!!」



「誰も知らない筈ですわ。・・・私はノーザンクロスに会った知り合いから聞いたんです。

そういう遺作があるそうだけど、彼が・・・・・・・   


これは奥様に捧げる曲だと・・・   最後になってしまったが ・・・   

・・・って言っていた・・・・・と・・・・・・・・」


ジュライはバイオリンケースに目を落としたまま、そう、言った。


レンカは、その時初めて、ノーザンクロスもリングに選ばれた人間だったことを
・・・カシュクのように、ずっとリングと共にいたということを、思い知らされた。


「・・・・・・・・ジュライさん。

私は、予言のリングの力を知っています。カシュクと共にいるからです。
ですが、予言のリングはその本人の問い掛けにしか、答えないと聞いています。


・・・・失礼ですが。

ほんとに失礼を承知で、申し上げます。



ジュライさん、あなたはノーザンクロス本人から聞いたんですね?

でなければ、そんな大事な話を、誰に訊くことができるというんでしょうか」


ジュライは笑顔をつくろうとした。
何か、言わなければ、と必死で考えていた。

「ジュライさん。

私は、あなたが護ろうとするものを、一緒に護ります。

あなたが護りたいのは・・・・・もうひとりの、演奏者ですね?」


ジュライは堅く目を閉じた。もう、無理・・・だ。

もう、きっとすべてが動き出すのだ・・・・・・・・
・・・・そうなら・・・・・・



「・・・・・レンカ最高顧問。

・・・想像、  できます・・・か?

自分が憧れ・・・師と仰いだ人が   私と・・・・・私の、子と・・・・・

ある日・・・一緒に 最高の演奏を しよう と 言ってくれたんです。

 最初で 最後の・・・・演奏を ・・・・・・・



・・・・・・・これは 私の 最高傑作だ と 喜んでくれた 日 ・・・・・・・・・




・・・私の 時間は ・・・・・あの日から 止まったまま だったんです」






・・・・・・・・・・・・・・・・海辺のノーザンクロスの家・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ザザーーーーーン・・・

ザザーーーーーーーーン・・・・ザザザーーーーーン・・・・・・

白い波が高く波打ち際で砕けて、降りだした雨に吼えているように見えた。


家の窓は全て閉じられたままだった。もう昼に近いというのに、分厚い雲がまるで
戦車の群れのように水平線から押し寄せて、陽の光を遮ったままだった。


「・・・・ノーザンクロスはね・・・

演奏旅行に行くのは、一年中のことでね。 普通のことでね。
結婚した当初は、一緒に旅行もしたけど、そのうち・・・私がついて行くのに
疲れてしまって・・・

・・・主人は、旅行の途中にここに来て

・・・私がこの海辺の家で、帰りを待っていてくれる夢を、見たんですって。

犬がいて、子どもが・・・いて・・・砂浜を走り回っている・・・

私もね、そんな夢が好きだった。

・・・・・・海は、本当に綺麗で、毎日見ていても見飽きないし・・・・

主人はいつも、海を見ていた。


私は・・・・・・主人の夢を 叶えてあげられなかった・・・・・

それでも、主人はここに帰ってきてくれる。




・・・・・・あの、日・・・・・


・・・この曲は 私達の こどもだから。君の元に ずっとおいてくれないか?

・・・・と 言って 私に渡して・・・・・・・・・


それから・・・・・・・・・・・それから、 ね ・・・・・・・


曲を 聴いて ね・・・・・・・

涙が 流れて 止まらなくなって・・・・・・・・



ノーザンクロスが 私に 

寂しくないように 悲しまないように、 おまえは ・・・・・


・・・・おまえは、 ひとりじゃないんだよって・・・・・・・・・・・・・・







だけどねえ・・・・・ 私は 泣いていたんですよ・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・カシュクさん・・・・・・・

あなたが、私を訪ねてくれたのもねえ・・・・・

主人が きっと言いたかったことが あったんだと 思う・・・・・・・」


エシェリーは下を向いて涙を拭いていた。
カシュクはノーザンクロスが残していった愛の大きさを思った。
そして・・・それはレンカも、同じ気持ちだったのである。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
by f-as-hearts | 2011-09-12 11:14 | ファンタジー・予言のリング

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