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予言のリング 2

カシュク            ・・・ 21歳    美術品修復師・美術教会特別顧問 
                            アラバイン国出身 
                            予言者のリング所持者

レンカ             ・・・ 37歳    美術教会最高顧問 理事
                           特殊能力者

テグン             ・・・ 46歳    キンググランドオーケストラ指揮者
                            音楽家



第 2 話


指揮者であるテグンはノーザンクロスの演奏を観た事が一度だけあるというのが、
時々話す自慢のひとつだった。
放浪のバイオリニストは、その人生のほとんどを演奏旅行に費やしていた。

テグンにとってのノーザンクロスという演奏家は、一度でいいから自分が指揮する
キンググランドオーケストラに客演して欲しかった人であり、若かりし頃一度だけその
演奏を聴いて心酔した数少ない特別な人だった。

「3人、と言ったか?・・・・・・・・レンカ、俺はノーザンクロスと似たような印象を持つ
3人を知っている。あくまでも雰囲気であって、師も所属しているオケも違うんだが」
「それを、すぐに教えてください!カシュクに、事実を確認してもらいたいもので」
「どうして?」「いやあ、ちょっとね~~!」「ちょっとね、で済むか!!!!」
「参ったな~~!実は・・・・」

レンカがその楽曲を使って考えている芸術作品の話をすると、テグンは興味を示した。
「ノーザンクロスの遺作ということは、そのお披露目は確かにきちんとした形でしたい
ものだな」「そういうことで」「・・・・・・・まあいい。それなら、それに競演した3人には
必ず許可を得なければならないな。常識的な判断だ」「でしょ~!!」

テグンはレンカに言った。
「それじゃ、演奏を聴かせてくれ!私に対する礼儀として」



テグンはその演奏をじっと目をつぶり 聴いていた。
時折指が動いていた。指揮者としてその演奏家を今ここで見ているのではないかと
思えるような、動きだった。

演奏が終わると、テグンは拍手をした。
「素晴らしい!!!!これこそ、ノーザンクロスの最高傑作だ!!!」


「俺も、全くそう思う。

テグン、この演奏者達の実力はどうだ?誰なのかわかるか?」



しばらく沈黙が続いた。


「ひとりは、技巧派でどんな演奏だろうと独壇場にしてしまう程の実力者で、主にソロ
パートでは無敵だと言われている、チェロ奏者のコンコード。50歳だったか。
彼とは面識がある。話をしてみよう。

もうひとりは、素晴らしい感性と天性のひらめきでオケの作曲をよく担当しているという
ジュライ。バイオリニストだが、作曲者で多分ここでの唯一の女性だ。

それと・・・最後のひとりだが・・・
これほど瑞々しい音を響かせる演奏家を、俺は知らない。
多分、若いだろうが、ここではチェロの演奏を完璧なまでに引き立てている。

・・・・レンカ。俺はこの3番目の人物を知りたい。
俺が思っていた男とは違うが、なにかこう・・・・・・・この男の弾くバイオリンは、若い頃の
ノーザンクロスを思い起こさせるんだ」


テグンは2人から情報を聞くことを約束して、帰っていった。

レンカはテグンの言う3番目の男について、調べたいと思った。しかし、まずは他の2人
の話を聞くのが先か・・・
カシュクにはノーザンクロスの妻であるエメルダに3人の演奏者に心当たりは無いか
聞いてみるように電話で言った。

「いいか、美術教会であの録音された楽曲を、責任を持って世に送り出しますと
伝えるんだ!どうぞレンカ最高顧問にお任せ下さい!!と付け加えてくれ!!」
「・・・・レンカ宣伝部顧問って名前変えましょうか?」「それはいかんな!その通りだが」
「何かわかりましたら連絡します」「頼むよ!」


テグンは自宅に帰ると早速ノーザンクロスの曲を引っ張り出して聴いた。
今さっき聴いた、あの曲・・・・・・・今まで作曲された海の曲と、モチーフは少し似ているもの
もあるが、それはノーザンクロス的色彩というもので、弦楽4重奏の完成度は比類ないもの
だった。

「・・・・あれは是非、自分達のオーケストラで演奏したい。
なんとかならないものか・・・・」テグンはもう新しい構想を練り始めていた。

曲をかけながらテグンは電話をした。

「・・・・こんにちは。チェロ奏者のコンコードさん?
キンググランドオーケストラのテグンです。・・・ええそうです。何度かお会いしましたね。
実はノーザンクロスのことで伺いたいことが・・・ええ。

・・・・・・知らない? ・・・ああ、ご心配なく。
あなたがノーザンクロスと最後に競演した楽曲が、奥さんから美術教会に届けられまし
てね。それを知っているのは、ごく一部の人間です。誰も、それをまだ公表していません。

・・・・・・・もしかして、ノーザンクロス本人から、止められていたのですか??
何故??・・・・・・・・・事情がおありですか。

・・・今まで秘密にしていた理由を聞かせてくれませんか?現に奥さんがこれを
お持ちだったのですから。・・・許可?奥さんの?・・・それは美術教会に送られた時点で
・・・わかりました。ではまたご連絡致します」



電話を切って、テグンはしばらく考え込んでいた。

・・・そうだ・・・俺はそれを考えていなかった。

何故この楽曲が、彼が死んで数10年経っても世に出てこなかったのか・・・
一番考えられることは、ノーザンクロス本人が止めたことだったんだ。


頭の中を整理しながら、テグンはバイオリンの切ない音に耳を傾けていた。
遺作は大きな謎を呼び起こしていた。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
by f-as-hearts | 2011-08-30 23:59 | ファンタジー・予言のリング

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