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冬の湖の物語 6

「頭領!!!何者かが馬を!!!」

皆が慌てて馬小屋へ向かったが、そこはすでに炎に包まれていた。
馬達は全て綱を切られ、ちりぢりに逃げていた。
「おい!!見張り!!!何をやってた??すぐに火を消せ!!!
おまえら、さっさと財宝が無事か、見に行け!!!残りの者、怪しい男達を
見つけ出せ!!!!・・・ジホロだ!ジホロがやったに違いない!!!
人質をすぐに連れ出せ、いいな!!!!」

頭領はがなりたてると、すぐに自分はエリカの小屋へと走った。
そこにはジニイが縛られて倒れていた。「おいっ!!!ジニイ!!女は?!」
「外へ逃げた、顔はわかんなかった、兜かぶってて・・・・」「兵士、だな!あいつか!
すぐに見つけてみせる。あいつらは明日王宮に行く。その前にーーー!!!」
頭領は小屋から出ると、馬を用意しろと騒いでいた。見張りの数人を残して、盗賊らは
馬を近くの村から調達する為に全員でその場を立ち去った。

「・・・・・・・・もういいよ」
ジニイが言うと、その小屋の中の倉から、2人の人物が出てきた。
「ありがとう。それにしても、どうして匿ってくれたんだ?」
「巫女を、他の王族に売ろうなんて、あたしには信じられないんだ。
・・・・あたしの家は、信心深かったんだ。お頭は、知らないんだ。
・・・どれだけ、罪深いことかを、さ。
こんなに綺麗な巫女はいないよ。・・・もう一回、顔みせておくれよ」

ジホロはジニイにもう一度礼を言うと、そっと外へ抜け出した。
林には1頭の馬が隠されていた。そしてもう一頭はもういなかった。兵士はきっと無事
だと自分に言い聞かせると、ジホロはエリカと共に馬に乗った。
エリカはジホロの背中に、文字を書いた。

「??何か言いたいのか?・・・もう一度書いて・・・」
その文字は、湖と書かれていた。

「・・・・・・・!湖に?!あの、湖へ行きたいの?」
はい、とまた背中に書かれた。
「・・・・わかった」


2人は朝日が昇る頃、湖に着いた。

湖は水平線上に金色の雲を浮かべて、凍りつくような寒さの中、キラキラと輝きを
放っていた。
湖の神殿はそこに数百年変わらずに建っていた。その神殿に立ち、エリカは太陽の
方を観て・・・そして拝礼をした。ジホロはその姿が眩しかった。
太陽がエリカの装束の刺繍を煌かせ、風に頬を赤らめたエリカは、ずっとそこに居た
かのように見えた。・・・そこは他の誰でもない、エリカの為の場所だ、そんな想いが
ジホロの胸をよぎった。

そしてエリカは湖の水をひしゃくで汲み、ゆっくりと飲んだ。
ジホロはそれらの儀式が終わるのを待っていた。エリカは喉に手を添えていた。
振り返ったエリカの目は、驚きで見開かれた。

「ジホロ、危ない!!!!」

そこにはジホロを狙う男の姿があったのだ。

「・・・・・!おまえは?!」
「ジホロ!!!おまえがエリカを危ない目に遭わせたと聞いた!!!
許さないと言った筈だ!!今朝は湖の儀式の日、エリカを村に返してもらう!!」
剣が右手に握られていた。
エリカは必死に走って、オゴルを止めに入った。
「オゴル!!!待って!!!」「エリカ、声が?!」「ジホロ、もう大丈夫。
オゴル、ここで剣を持つことは禁止されています!!それを早く収めて!」

エリカの声には、確信に満ちた響きがあった。

「オゴル、私は・・・・・村に帰ります。
だから、今だけ、ジホロと話をさせて」

オゴルは剣を収めると、神殿の外で待つと言って、その場を離れた。

ジホロはエリカの、その言葉の意味を聞いた。
「村へ???何故・・・・・・・・」
エリカは微笑んだ。

「ジホロ・・・・・・声が、出なかった訳が、わかったの。

最初は・・・自分が皆の役に立たないんじゃないかって、話せなくて不安だった。
でも・・・本当は、私は巫女だったから、心の奥で、自分の受ける罰なんだって
思ってた。だから・・・自分はもう巫女じゃないんだから、出来ることをしようって・・・

ずっと・・・ずっと・・・ジホロと一緒だから、巫女でいなくてもいいって・・・
幸せだから、いいって思ってた」
「そうだよ、エリカ!村ではエリカに何もしてあげられなかった。皆に反対されるだけだ」
エリカはジホロの手に触れた。

「・・・そうなの・・・でもね・・・でもね・・・

盗賊にさらわれた時・・・・・・・・
私が・・・神事が出来ない・・・言霊が言えない巫女だったら、価値が無いから
きっと売られなくなるって・・・それでいい筈なのに、その時気がついたの。
・・・声を出せなくしていたのは、私だったのよ。

私は・・・巫女としての価値も無いのに、巫女だと周りが思って、捕まって・・・
あなた達の邪魔にしかならないんだって」

ジホロは驚きのあまり、エリカの両腕を掴んで、揺さぶった。
「どうして?!どうしてそんな・・・そんなことを考えるんだ??
違う、違う違う!!!エリカは俺の大切な人だ!!!」

「・・・あの娘さんが、言ってたでしょ?
私ね、私・・・巫女になっていて、不幸ではなかったの。
それに・・・ジホロといて、私も女として幸せだった。
一生分の、幸せをもらったから・・・・・

・・・今度は、この子を守って生きていかなくちゃならないから。

湖で、私は祈っています。ジホロのこと・・・・・

声が、戻ったのは・・・・・・・・・・

神様が、きっと、巫女として戻ってよいと、言ってくれたんだなって
・・・・そう、思うの」

「・・・・子ども・・・が?!・・・・・・!!エリカ、エリカ!!!」

ジホロは涙が出ないのが、苦しかった。どうして、こんなに辛いのに、涙がでないのか。
エリカをここにおいていかねばならない・・・彼女をひとりにしなければならない・・・

とうとう、答えが・・・・・・・

「・・・・・・・エリカ、俺は、必ず君と、子どもを迎えにくるから。
絶対、迎えにくるから、祈っていてくれ・・・

・・・・・・・愛している」


ジホロは神殿を後にした。
エリカは・・・エリカは・・・・・・ずっと俺を待っていてくれるんだ。
俺は・・・・・・・・・・・・・



オゴルは、ジホロの瞳に、初めて気圧された。

何も言わず、2人はすれ違った。










・・・・・・・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(このお話は フィクションです)
by f-as-hearts | 2011-01-10 10:10 | 短編小説

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