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ファントム  Phantom 8

・・・・・・・・・シャトーグランデ王国・・・・・・・・・・・

アイーダ・ローゼンハイム        24歳
                        ・・・・・女優

貴族院 革新派 ノーブルノワール

ヴォーグ・レーヴィエ           67歳
                        ・・・・ジョルジュの伯父

貴族院 保守派

グラス・ダンカン              53歳
                    

第 8 話  「 思惑  」


アイーダは一人新聞社に出かけていた。その新聞社はアイーダの叔父が所長を務めていた。
叔父に報告があったのだ。

「アイーダ、次の舞台の話が決まったんだって?」アイーダは黒いインクがついている叔父の顔に、にっこりと微笑み返しながら、返事をした。
「ええ、お蔭様で」「おお、私も是非観に行きたいものだが」
「それでは、招待状をお持ちしますわ。今回は特別で、王家主催の12月の舞踏会の日に、皆様の前で公演させて頂きますの。本当に光栄なことですわ!」
「素晴らしい!!それで、演目は?」「・・・うふふ、秘密ですわ!」アイーダは口元に指をあてて、付け加えた。「あの、叔父様、このことは誰にも言わないでくださいね?」

叔父は、頷くと、出来たばかりの新聞を、アイーダに手渡した。
アイーダはそのまま外に待たせてあった馬車に乗り込むと、新聞の間から封筒を取り出し、その場ですぐに目を通した。

「ご苦労様。 君はとても良くやってくれた。警部の足止めも、君の演技力なしには、叶わなかった。
お蔭で随分動くことが出来た。これからは芝居に打ち込んでくれたまえ」


アイーダは手紙を大事にドレスの胸にしまい込んだ。



・・・・・・・貴族院のサロンにて

シャトーグランデ王国の議会は、貴族院の議員である革新派ノーブルノワールと保守派、そしてその上に位置する王族派によって構成されている。
王族議員は、もっぱら外交・・・対外的なものと議会の会期について決定する役割を担っており、議会にはほとんど参加することはなかった。つまり、舞踏会の主催や他国の晩餐会に出席するなどの、「王国の顔」としての役割であった。
王国の権威、また自国の優位を、その贅を尽くした晩餐会で常に誇示する、それもこの時代では当たり前のことであった。

保守派は特に、そうして国を貴族の天下に置くことを肯定する派閥であり、革新派とは根本的に違っていた。

貴族院のサロンで、午後の遅いお茶を一人(いや、従者もいたが)飲んでいるヴォーグ・レーヴィエ卿の所に、保守派の大臣であるグラス・ダンカン卿が、大げさな手振りで近づいてきた。
「おや、これはこれは!レーヴィエ卿!奇遇ですな。私は今日は保守派の集まりでして。
レーヴィエ卿は、革新派のお話し合いでしたかな?」
ダンカン卿は、ふうふう言いながら、レースのハンカチでひたいをぬぐっていた。
チョッキのボタンが弾けそうに見えたが、それを注意すべきか、レーヴィエ卿はちょっと考えてみたりした。

「こんにちは、ダンカン卿、それはお忙しいことでよろしいですな。私などノーブルノワールの頭数の為にいるようなものですから、仕事などありませんのでね。こうして今も、一人でお茶を楽しんでおりました。保守の皆様とは、全く、お茶もご一緒しておりませんが、私をお忘れでなかったとは、驚きです」

ダンカン卿は勢い込んで話し出した。「おやおや!何をおっしゃいますか!貴族院でも1、2を争う長老の・・・・いや、失礼!実力派のレーヴィエ卿を誰が忘れると??それは、こちらこそ驚きですとも!保守の若造はこの際ほって置きましょう、あの若造どもは口先だけは国の為とかきれいごとを言っておりますがね、ご存知のように礼儀を欠いておりますし、そう!議会にいながら他国との歴史的事実も知らぬという、あきれた者達ですから。いやいや、レーヴィエ卿はみなご存知ですな。
そうそう、よかった!レーヴィエ卿にお伺いしたいと思っている話がありました!おお、本当に!よろしければ場所を変えて、お食事などはいかがでしょうかな?」

「誠に残念なことですが、今夜は先約がございましてな。折角のお話ですから、ここで伺ってもよろしいですぞ。まあ、さしあたって人が入ってくる様子もないですが、私の従者に人払いをさせても構いません。・・・聞いておったな?今すぐサロンの入り口で、入室されようとするお客様には丁重にお帰り戴くように」従者は静かに一礼してサロンの入り口へ向かった。

ダンカン卿は、ポカンと口を開けていたが、はっとして話を続けた。
「おお、全く、そのようにお気遣い頂き、誠にありがたいことです!そうですな・・・話というのは・・・」
ダンカン卿はサロンの給仕のお茶を手に取ると、一気に飲み込んだ。
「私共は、国の発展の為にも、これまで以上に我が国の国民が増えるよう、また皆が国の富の恩恵に浴しなければならぬという大前提の上で議会で論議している訳ですが、いかんせん!私共の保守派の議員にはなかなか骨のある人物がおりませんでね。いやいや、国の為にということを、レーヴィエ卿がご高説戴ければ、若い者達も大いに奮起するのではないかと!そう思いましてね!」

「おお、なんとご冗談がお上手で。そういうことでしたら、私の属するノーブルノワールの若い者達との論議の方が、保守の方々を奮起させられましょう。
いかにも!若い者達は面白いものですな。私など、まだまだ若い者達から教えられております。どうぞ、その方達にお伝え下さい。私がもしも」

レーヴィエ卿は給仕に合図して紅茶を注いで貰った。ダンカン卿は、そわそわと手を擦りながら、次の言葉を待っていた。

「・・・もしも、保守の方達とお会いするのであれば、そうですな、ダンカン卿、王族議員の方々もご一緒にお茶でもさせて戴きたいものですな。実に、実に優雅なお茶時間を過ごしたいものです」

ダンカン卿は、レーヴィエ卿が立ち上がったのをみて、慌てた。
「おお!それは、全くその通りでございますな。ええ、是非今度はそのような席をもうけましょうとも!」

ダンカン卿は汗だくでレーヴィエ卿を見送ると、自分の傍で新しいハンカチを差し出した従者の頭を叩いた。
「全く!どうすればあの、古だぬきを味方にできるというのだ?!王様の一声でもなけりゃ、うごきゃしないぞ!!まったく!!」ダンカン卿はサロンを足音高く出て行った。

レーヴィエ卿は、夕闇迫る門の所で待っていた馬車に乗り込むと、誰に言うともなく独り言をいった。「これで本気で説得にくるでしょうな。おお、そういえば、ルシウス王子と来週、チェスのお手合わせの約束がございましたな。実に!楽しみなことです」

御者は、何も言わず馬に鞭をいれた。馬車はゆっくりと走り去っていった。






(このお話はフィクションです)
by f-as-hearts | 2008-11-26 20:42 | ミステリー・ファントム

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