人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ファントム Phantom   3

 ・・・シャトーグランデ王国・・・・・


 ゴード・エンタールⅢ(ゴード) 30歳 
                         ・・・俳優

 シャトー・エンタールⅡ世    60歳
                         ・・・ゴードの養父


 ローレンス・イクシアン      52歳
                         ・・・劇作家


 ベルガー警部           55歳


 アイーダ・ローゼンハイム    24歳
                         ・・・女優

 ジェラール・レックス        48歳

                         ・・・マジシャン


第 3 話 「 ゴードを追って 」


その新聞記者は、ベルガー警部に唐突に面会を求め警部の持つ情報を記事にしたいと言ってきた。
記者は、自分はゴシップばかりじゃない、ちゃんと王家から許可をいただいている新聞社だと言った。「私は、ジャン・ジャック・アルフォンゾといいます。どうぞよろしく。それで、警部、ゴードの消息ですが、巷ではもう殺されたのだろうという噂しか流れていませんが、これについてはどういう見解で?」記者は使い込まれたペンと、大きなノートを、ドン!と机に広げて、勢いよく書き出した。

「事件からもう2週間ですが、まさか何も掴んでいないとか?」
「失敬な!こういう大物の事件は、そう軽々しく我々は発表などしない。現に、我々は公式には何も言っていない」
「そうです、そうです!だから!公式じゃなくていいんです。警部の掴んだ現場の話を読者はどんな事だって聞きたいんです。記事に出来るかどうかは、こっちもメシのタネ・・・いやいや、警部の活躍を、読者が手に汗握って読む訳です!これは、皆にとって、今世紀最大の謎なんですよ!何故、ゴード氏は俳優として絶頂期に忽然と消えたのか?!失踪か、殺人か?舞台裏で一体何が起こったのか?!」

記者の手のスピードはどんどん早くなっていた。ベルガー警部は目眩がした。
「ーちょっと待ってくれ!まさか、それを全部、記事にするつもりかね?」
「はい」「君は小説家になった方がよいだろうね。それでは、私はまた捜査があるから、失礼する」
「!待ってください!警部、お願いした時間は、あと8分もあるじゃないですか!」
「あと8分も、君の作り話を聞くに堪えん」 立ち上がると、警部はドアに向かいかけた。
「それじゃあ、これだけでも!警部はゴードは死んだと思っていますか?」
警部は止まった。振り向かずに言った。
「いいや。そうは思っていない」「根拠は?」「・・・死体がない。どこにも。あの短時間では死体を隠す場所も、隠せる人物もいない。・・・それだけだ」 警部はドアから出て行った。

ひとり取り残された記者はつぶやいた。「-成る程。流石はベルガー警部、噂は本当だな。彼も、登場人物に加わってもらうしかない」

記者はノートに走り書きをし、切り取って封筒にそれを入れると、すぐに封をした。記者は音もなく散る銀杏の木の下を足早にどこかへと消えていった。

ゴードの謎は、貴族の間ではそれこそかっこうのゴシップとして、あらゆる尾ひれがついて流れていた。最高に作りこまれたそれは、ある意味新たな事件のような有様だった。
「・・・なになに?ゴードは舞台でいつも共演する王家の親戚の女優、カトリーヌ・イクシアンと大恋愛中で、それに気づいたカトリーヌの婚約者がゴードの身柄を拘束して、どこか他国へ追放した・・・だとさ!」「・・こっちは、もっとすげえぞ、ゴードが実は、王家の隠し子で、これ以上俳優を続けられてはいづれそれが明るみに出る、それを恐れて王家の暗殺部隊がゴードを殺害した・・・んだとさ!!」「ほお~~!カトリーヌのイクシアン家は、全否定しているな。そりゃあそうだろう、イクシアン家現当主が、このファントムの芝居を書いた本人なんだからな!」

ゴシップネタに、酒場中大笑いしていた。「貴族様の考える事は面白れえな!ゴードとやらがどんな奴だったか、見てみたいもんだ!」「あっはっは!そのうち本物の幽霊になって化けてでてくんじゃねえか?!」「はっはっは!ちげえねえや!」


イクシアン家のカトリーヌは、父の書斎をいらいらしながら歩き回っていた。
「お父様!ゴードの代役の話は、まだ決まらないんですの?」
ローレンス・イクシアン卿は、とても冷静だった。そして、その冷静な顔で、皆を騙せる人物であった。
「カトリーヌ、私はゴードしか、このファントムの役は出来ないと思っている。主役はいつも特別でなければならない。・・・カトリーヌ、お前は次の舞台が決まっているのだろう?」
カトリーヌの方も見ずにひたすら羽ペンを動かして執筆中のローレンス卿は、インクが少ない、とつぶやいた。

カトリーヌは、父が自分に対して怒っている事に気がついた。
そう、次の舞台の話をすぐに進めていたことが、ばれていたのだ。
「----お父様!・・・・だって・・・・・だって私、この役がすごく気に入っていたのに・・・・・
でも、皆が、私の次の舞台が早く観たいって、言っているのですもの・・・・」
カトリーヌはポロポロ泣きながら、座っている父の首筋に腕を回した。「お父様が、ゴードをあきらめてくださらないから・・・」
「お前は諦めが早いようだね。お前の母親と同じで」
カトリーヌは、プイッと怒ってドアから出て行ってしまった。

「ゴードの謎か・・・・この台本は、封印するしかないようだ」分厚い台本をローレンス卿は撫でながら、物思いにふけっていた。



(このお話は フィクションです)
by f-as-hearts | 2008-11-02 13:00 | ミステリー・ファントム

タロット占い師ASのブログです。


by f-as-hearts
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31